なんかすごい。

年末年始に読んだ本

この10年毎年言っている気がするが、1月の第3木曜日はいつもちょっと早めにやってくる。

いま10年といったけれど、そう、この「なんかすごい。」を始めてから、もう10年が経ったのだ。いまWEBサイトをチェックしてみたら、いちばん最初の記事は2015年9️月とあった。

100歳を迎えた祖父と祖父の作る人形のことを書いた。

この頃祖父はまだ元気で、じゃんじゃんばりばり人形を作っていたし、その次の記事で、はちみつ工場(レゴ)でともに額に汗し働いた甥っ子は、今年高校受験である。

10年というのは、元気だったものが死んで、土に埋められたならすっかり養分となってしまう、または、幼かったものが文字通り細胞も何もかも入れ替わって、べつの何者かになっている、そういう年月なのだった。

わたしの細胞はといえば、20パーセントくらいは入れ替わっている気がするが、あとの80パーセントは姿そのままに、ただ古びていっているという実感がある。まだ使えるけれど、だいぶんくたびれた、流行遅れのダイニングキッチン、っていう感じだ。(さいきん古い家DIYの動画をよく見ている)

今年の年末年始は、たくさん本を読んだ。

先月、思い立ってKindle Unlimitedのお試し一ヶ月に加入してみたのだ。きっかけは、つまみさんがコラムで面白いと紹介していた『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈/著 新潮社)がKindle Unlimitedで読めるというのを知ったから。面白かった。

成瀬あかりもさいこうだが、彼女の観察を趣味としている幼馴染の島崎みゆきがよかった。島崎本人は自分を凡人だと思っているようだが、ふつうのにんげんはここまで成瀬につきあわない。

別のクラスメイトからみた島崎みゆき像が、本人の自己評価とずいぶん違っているのも面白かった。みんな、多少なりともそうなのかもしれない。

一冊読み終えると、ひょっとするとこれも好きではござんせんか?とKindleがおせっかいをやいてくるので、それにのせられて次々と読んでいる。

浅井リョウ『生殖記』

宮下奈都『羊と鋼の森』

瀬尾まいこ『そしてバトンは渡された』

中山七里『さよならドビュッシー』他 岬洋介シリーズ

伊坂幸太郎『アイネクライネナハトムジーク』

万城目学『八月の御所グラウンド』

豊島ミホ『神田川デイズ』

山本周五郎『赤ひげ診療譚』←イマココ

並べてみると、アルゴリズムが非常にわかりやすい(赤ひげ以外)

そして、「最近の作品」と思っていたものが、じつは軽く10年、うっかりすると20年近く前の出版だったりすることに気がつき、長年図書館で働いてきたというのに、ずいぶんいろんな本を取りこぼしてきたんだなあと愕然とした。

人気の現代作家の本は、予約で回ってくるのでよく目にするものの、「予約が少なくなってきたら読んでみよう」などと思っているうちに忘れてしまっていたのだ。

中山七里なんか、今の今まで女性作家だと思っていて、一冊読み終えたところで男性だったことを知り、なるほど…とふかく納得したりした。

豊島ミホの『神田川デイズ』の初版はなんと2007年。ある大学を舞台にした連作短編小説集なのだが、最初の作品を読んで、ちょっと古さを感じたものの(おそらく、お笑いコンビを結成、笑いのテーマがモテない、童貞というあたりの時代性)、そのあとの自主映画をとろうと奮闘する女の子3人組の「どこまで行けるか言わないで」がものすごくよくて、また、2作めに登場する、大学の雰囲気に馴染めない新入生の中野さんが、後半の短編に再登場し、その作品の語り手である男子学生から見た(数年後の)中野さんがしみじみと美しく、それらはまさに、いたいたしくも滑稽でもある日々(デイズ)の、プリズムのような輝きそのもので、全部通して読んで本当によかったなと思った。

『アイネクライネナハトムジーク』(伊坂幸太郎)も、登場人物がそれぞれの日々を生きながら、その人生が少しずつ重なり合う長編小説だ。ひんぱんに時空をいったりきたりしながら繋がるそれらの、接点の絶妙さはさすが伊坂幸太郎で、この作品には、伊坂作品におなじみの殺し屋や超常現象や奇跡なんかは登場しないのだが、最後の一文にいたるまでヨッ魔法!といいたくなるような見事さだった。

わたしはこういう、どこに立つかで見える景色がちょっとずつ違う、というような小説が好きなのかもしれない。ちんけな自分も、どこかから見たらちいさな輝きを放っているかもしれない、とかなんとか思えるからだろうか。まあ、逆の場合もあるわけだが。自分もふくめて、人間っておろかしくて必死で、おもしろいなあと思う。そういうことが書かれている文章が好きだ。

Kindleは、手元のちいさいiPhone SEで読んでいる。本はできることなら紙で読みたい派ではあるけれど、なかなか状況もゆるさないしで、ものは試しで始めてみたところ、これが存外問題なく読めることがわかった。

とくに、今読んでいるような現代が舞台の日本の小説に関していうと、スマホという物質と小説世界とのあいだに違和感が少ないせいか、むしろ電子書籍のほうが0ステップで続きに戻っていけるよさがある。どんだけめんどうくさがりなのか…、そしてどれだけ日常、スマホを手放さずにいるのかの証明にもなってちょっとこわい。

逆にいうと、電子という環境だからこそ、今まで興味はありつつあとまわしにしてきてしまったエンタメ系の小説や、若い作家の作品を読もうという気持ちになれたのかもしれない。

たとえば「赤ひげ」は、「赤ひげ」が手軽に読める!という嬉しさのほうが勝るものの、新潮文庫の薄い紙のてざわりがやはり恋しい。

好きな須賀敦子の随筆や、この前まで文庫版で読んでいた『百年の孤独』をスマホで読みたいかというと、あまり触手が動かないのが正直なところだ。長いし。

もうひとつは、思いのほか自分が「日本語」に飢えていたこと!

こちらに引っ越してきて以降も、ネットやSNSなどで毎日日本語に触れているし、正直日本語が恋しい、という感覚はなかったのだが、Kindleを始めて以来、自分でもびっくりするくらい、「日本語で物語の世界に浸る」という楽しみをむさぼっている。

こちらにきてから、苦手だった英語のReadingにもだいぶ慣れて、少しずつ英語でも読書を楽しめるようになってきたけれど、それはまだまだ、日本語で小説を読むときの、飲むみたいにするすると物語世界に入っていける、という感覚とはほど遠い。

そして、ある一文に、「きいー、うまいなあ!」と思う、あるシーンを読んだときに、その文化背景や自分の体験までふくめてすみずみまで「わかる」という感覚、それを「読む」という行為でかたまりとして受け取る快感は、情報やコミュニケーションとして日々触れる日本語では得られないものだったのだ。

少し前までは、仕事の前や昼休みには日本語に触れないようにしていた。なんだか脳が混乱するような気がして。そして、時間があるなら英語で本を読むべきというような気持ちにかられてもいた。

今は暇があれば、スマホを開いて小説を読んでいる。

少し、つねに緊張していた気持ちがゆるんできた証なのかもしれない。

あるいは、この種の読書が「快感」で「ノーストレス」だから、楽なほうに流れすぎているのかも。

毎日は、流砂のようだなあと思う。

風の強さや向きでたやすく形をかえ、10年いちにちのようでいて、ふりかえると見える景色が思いがけず変わっていることに気がつきびっくりする。

光の角度や天気によって、同じものが美しくもみじめにも、とっつきづらくも慕わしくも見えたりする。

今は、読みたい本が数冊先に待っている状態で、あ、この作家もまだ読んだことなかった、これ読みたいと思ってたっけ、のオンパレードである。このままトライアルが終わっても更新する可能性大だ。

かしこいKindle Unlimitedは、巧みに話題作家の一番読みたい代表作を外していることが多いので、1冊くらいだったら正規で購入しちゃおうかな、という気持ちにさせられたりもして、これぞまさに思う壺。

みなさんのとっておきの一冊があれば、ぜひ教えてください。

今年もどうぞよろしくお願いします。

(友人がつくった希望のモビール)

Byはらぷ

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