【月刊★切実本屋】VOL.99 お四方(よんかた)、もしくは四天王について
作家とその作品名、読んだ作品とその内容、をやたら混同してしまうグループがある。そんなのあたりまえじゃん!あたしもあるし~と言われそうだが、ちょっと説明させてください。
青山美智子、一穂ミチ、寺地はるな、町田そのこ(五十音順)の区別がつかない。
このラインナップでピンと来る人は、芥川・直木賞より本屋大賞に興味や信を置いている人ではないだろうか。私がこの現象に陥ったのも、勤務先の中学校図書室で本屋大賞界隈(!)をかなり選書の参考にしているからだ。
2021年以降、本屋大賞のノミネートにはこの4名の誰かしらの作品が必ず入っている。複数名ランクインの年も多い。
2021年は大賞が㋐『52ヘルツのクジラたち』で、2位が㋑『お探し物は図書室まで』だった。
2022年は2位が㋒『赤と青とエスキース』で、3位が㋓『スモールワールズ』。
2023年にいたっちゃ、3位㋔『光のとこにいてね』、5位㋕『月の立つ林で』、8位㋖『宙ごはん』、9位㋗『川のほとりに立つ者は』のコンプリートだ。
そして2024年は7位が㋘『リカバリー・カバヒコ』で、2025年は5位が㋙『人魚が逃げた』、7位が㋚『恋とか愛とかやさしさなら』である。
上記の作品名の著者をまったく間違えずに言える人がいたら表彰したいものだと勝手に思っている。
ちなみに正解は
㋐町田そのこ
㋑青山美智子
㋒青山美智子
㋓一穂ミチ
㋔一穂ミチ
㋕青山美智子
㋖町田そのこ
㋗寺地はるな
㋘青山美智子
㋙青山美智子
㋚一穂ミチ
である。本屋大賞を受賞したのは㋐だけだが、青山美智子さんに至っちゃ、なんと5年連続のノミネートだ。無冠の帝王大賞!

4人の作品はそれぞれ1~2作ずつぐらいしか読んでいない。そんなレベルで、区別がつかないなんて知った口をたたくな!と言われそうだが、現時点では、4人の書く小説の似たイメージをわたしは払拭できないままである。
お四方(←お三方、とは言うけど…)は全員、1970~80年代前半生まれ。憶測全開で書くと、こどもの頃からそこそこお勉強ができ、特に作文が得意で、早くから物書き方面を目指していたりなんかして、多少ハメを外すことはあっても基本的にまじめだったんじゃなかろうか。それは書くものににじみ出て、生きづらさを抱えた一見地味な登場人物の行動や思いを決して雑には扱わず、両手で掬い取るようにして描き、ままならなさの中に希望の光を感じられる世界を丹念に描いている気がする。1~2作ずつしか読んでないくせに(二度言った)わかったようなことを書いてしまった。
彼女たちの小説は(だから、括るな!)実際いいし、今求められている小説像に合致するからこそ、繰り返し本屋大賞にノミネートされているのだろう。わたしはまだ、ものすごくハマる作品にたまたま出会っていないだけで、もしかしたら未読の作品の中には、わたしだけのために書かれた!と思えるものがあるかもしれない。
そんなことを考えたり、考えなかったりしながら、『月の立つ林で』を手にとった。

『お探し物は図書室まで』もそうだったが、青山美智子さんの小説は読みやすい。この『月の立つ林で』もそう。文章が上品でクセがない。今回は登場人物が少しずつシンクロする5つの連作短編なので、長編を読むときのような心の準備(気合みたいなもの)も要らない。すべての編に登場するのは、タケトリ・オキナなる人物のひとり語り形式のポッドキャスト番組「ツキない話」だ。
いやあ、巧い!巧すぎるよ、青山さん。自分を見失いそうな元看護師、華のある相方に去られ運送の仕事を続ける売れないピン芸人、娘への愛情表現が下手な二輪自動車整備士、母親から自立しようとする女子高生、仕事の順調さから家庭の見方が変わっていくアクセサリー作家と、その周辺の人物の造形の巧みなこと!彼らはふとしたきっかけで「ツキない話」を聴くようになる。
毎日更新される10分程度のこの番組が彼らの心理に奥行きをもたらす呼び水になっていて、それが物語全体にとても効いている。そして、このポッドキャストで語られる蘊蓄(?)の絶妙さよ。どっかのポッドキャストとは大違いだ(笑)。作者はこの心地よい「月にまつわるエピソード」を書きたいがためにこの小説を書いたのでは?と思うくらい。そして、この小説を読むという作業そのものが心の浄化工程のような心地よく清々しい読後感と見事な着地点。巧すぎて、良すぎて、感動が目減りするほどだ!?

そーなんだよねー。偏見、極論、暴論、を承知で書くが、この小説を読んで、自分が読みたいのはきれいにまとまった小説ではなく、どこか不穏で不安な、矛盾とか瑕疵が内在している感じの小説なのかもと思ってしまった。終盤のタケトリ・オキナの真相の完璧さは、むしろ欠点じゃないかと感じてしまったのだ。自分は心が汚れているのかもしれない。読んでよかったし、今後、青山さんのほかの作品も読むにちがいないが、彼女の作品は、わたしの中の純と不純がせめぎ合う特異な読後感であり続けるのかもしれない。なんちって。
さて、次はなにを読もう。『川のほとりに立つ者は』にしようかな。えっと…これは誰の作品だったっけ?
by月亭つまみ

















































































