今日でいちねん

11月19日、朝、寝ぼけているとオットから「外見て!雪が降ってるよ!」と起こされる。
ブラインドをあげてみると、おおきなぼたん雪が次々と空からこぼれ落ちていた。
初雪だ。去年も同じ日にはじめての雪が降った。なぜおぼえているかというと、その日にティーちゃんが死んだからである。
ティーちゃんはあんまり「雪」って感じじゃないけど、このさいどんどん降るといいなあ、と思っていたら、仕事にでかけるころにはやんで晴れ間が見えてきた。できすぎだ。
去年の今頃はまだ通り向こうの家に住んでいて、ティーちゃんはその家の2階から旅立っていった。
その後のことは、少しこのコラムでも書いたけれど、年明け早々に引っ越しをして、オットの手術があり、職場内での改変あり、友人や姪の滞在があり、と、めまぐるしく一年が過ぎた。わたしたちはいつのまにかティーちゃんの不在になれ、ティーちゃんのいない穴は、別のいろんな、たとえば日々のしんぱいごとや、ちょっと先の予定の準備なんかで少しずつふさがっていった。
いまこの家で、ティーちゃんを空目することはほとんどない。
家のつくりも家具も、以前の家とほぼ変わらないのだけれど、よくティーちゃんがごろごろしていた階段のカーペットの織り模様や、毎日の薬のじゅんびに使っていたキッチンの小さなつくりつけの台、おなかがすくといつのまにかあらわれて、ごはんを要求するスポットだった裏口のドア、そういったものを見なくなったことは大きい。しみついた記憶、途切れた日常− 昨日まであって、今日からはないもの、を感じないですむということは。
新天地で心機一転、なんてたしかに効果あるんだなあ、意図したことではないけれど。
絶妙なタイミングでいってしまったティーちゃんに、一言いいたい気もするけれど、よすががないとどんどん忘れてしまうのかよ、げんきんすぎるだろ、わたし。
そして、投薬、補液、ティーちゃんが少しでも食べるものを探し回り、うんちの有無に一喜一憂する日々、通院、それらがなくなってしまった今、なんつーか毎日が楽だ!お金もなくならない!
あーあ、いやになっちゃう。

ティーちゃんを火葬してくれたのは、夫婦ふたりでやっているというペット専門の火葬業者さんで、依頼の電話をしたときに、「無料でポウプリントのオプションあるけど欲しい?」と聞いてきた。
オットから「って言ってるけどどうする?」と聞かれても、いったいなんのことやらさっぱりわからず、よくよく聞いてみると、「Paw prints」、つまりティーちゃんの手形をとってくれるサービスということらしい。
「なんだそれ!ファンシーかよ!」
となんだか脱力して笑ってしまい、なんでもおセンチにしやがってと反撥心さえおぼえて
「いらねえ(といってくれ)」
と答えた。
ところが翌日業者さんがティーちゃんを迎えにきてくれる段になると、ティーちゃんという物体がなくなることが急に現実的になって、やっぱりお願いしますと気が変わった。
だって断ったらもうあとから取り戻せないもんね、それにタダだし(いいわけ)
はたして、小さな筒サイズとなった灰のティーちゃんと共に、2枚の「Paw prints」がもたらされたわけなのだが、それがなんとまあ、もーーーーのすごくかわいいのだ。
前足ふたつと、後ろ足ふたつ、それぞれ肉球のあいだのシュッとした毛筋までうつしとられている。
ちいさなティーちゃんと握手するときの感触がよみがえって、
「か、かわいい…」
とにやにやしながら泣くわたしに、オットは「なにそれ…」とあきれながらのぞきこんで、「うん、これはかわいい…」と同意した。
かわいすぎるぞ、ティーちゃん!なんとすばらしいサービスだ、頼んでよかった!
おセンチがなんだ、わたしは今、おセンチの最高傑作を手にしている。
ティーちゃんにしてみれば、死んだあとまでこんなことやらされて、なにしてくれてんのよと思ったに違いないけど、許してほしい。だってすっごくかわいいよ!(しつこいな)
手形とったあと、綺麗に拭いてもらったかなあ。

今、灰のティーちゃんは、居間の戸棚の上段、カーブーツのガラクタ市で見つけたきれいなガラスの器におさまっている。
いつでも目に入る位置にあるのだが、あんまり気にもせず暮らしているときと、なんども見上げて確認している自分に気がつく日とがある。
晩年、わたしの枕で寝るようになったティーちゃんにかわって、いまはスマがその役をかってでている。ティーちゃんとちがって場所をとるのでとてもじゃまだが、心意気がありがたい。
ティーちゃんが来たなあと思ったのはこの1年で2度。体調が悪くて寝ていたとき、おでこに手をのせてくれた(気がした)、もう一回は、枕の上に気配を感じて、あ、来ているな、かわいいな、さわれるかな、と思っているうちに、頭の上の壁のほうに抜けて行ってしまった。
もうちょっと来てくれてもいいんじゃないの、と思うが、あまりティーちゃんに頼り過ぎてはいけない。でも、今夜くらいは来ないかな、と思いながら、今日のところは寝ることにします。


Byはらぷ
















































































