帰って来たゾロメ女の逆襲 場外乱闘編 連載図書館ゴロ合わせ小説 その4
キャッチャー・イン・ザ・ライブラリー ④ 最終回
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僕は呆然としてDBを見つめた。
それまで長いこと、つかみどころがなくてぼんやりしていたDBの輪郭が突然くっきりした気がした。そのかわり、今まではっきりと見えていたつもりの現実が、急にあいまいになった。
DBはそんな僕に気づかないように続けた。
「でも、あんなことを言ったおかげで自分にも暗示をかけちまった。あれ以来、オレも、たとえ草野球でもキャッチャー以外はやる気がしないんだ。本当はピッチャーっていうのもありだったかもしれないのにさ」
DBはそう言うと、ゆっくり立ち上がって、真正面の僕に向かってボールを投げる動作をした。まるで、ちょっと僕を挑発するように。
それは、オジサンの言うとおりきれいなフォームだった。そして見覚えのあるフォームだった。僕がかつて鏡に見立てて幾度も幾度もマネし続けたフォームだった。
思い出した。僕は昔、このフォームにすごく憧れていたんだ。そしてそっくりのフォームのピッチャーになって、気がつくと高校野球の予選のマウンドに立ってた。中味は、鏡のマネをするガキのままだったのに。
DBは、今度はそんな僕の気持ちを読んだように言った。
「あのとき‥3年前のおまえは、心細くてたまらなかったんだろ?ただ野球が好きで、それがちょっと得意なだけのほんの子どもだったのに、どんどん注目されて期待されて。‥あの日、本当はオレが球場に駆けつけなきゃならなかったんだ。チビのおまえと約束してたんだから。なのに、自分のことにかまけて、約束を破った上に、父さんに無理をさせちまった。おまえの投げたボールを受けるキャッチャーはオレだったのに」
僕は、3年前に自分が投げたボールが相手のミットに収まった音を聞いた気がした。宙に浮いたままだった、とてつもなく長い滞空時間のキャッチボールがやっと終わったんだ。
キャッチボールの相手は父さんじゃなかった。僕は、僕に左投げ右打ちの血を授けた父さんと、フォームを伝授してくれたDB、2人を相手にボールを投げてたんだ。ずっと。
ずうっと。
自分がまた野球をやる気になるのか、はよくわからない。ただ、ボールを握ることを想像しただけで感じていた胸苦しさはずいぶん薄れた。同時に、自分がまだほんの子どもの頃、キャッチボールをすることを想像しただけで感じていたときめき、みたいなものが、少しずつだけど甦ってる気がする。気がする、だけどね。
僕はそのことをオジサンにだけ報告した。オジサンはうなずきながらうれしそうに「さっき、野球の本を眺めてたんですが、野球の本の図書館の分類の番号は783なんですね。 『悩み(783)無用の野球少年』で覚えておくことにします」と言った。
さすが、DBと気が合うだけある。このオジサンもかなり変わってるよ。
僕とDBとキヨノさんの日々は基本的には変わらない。キヨノさんは根拠なく威張り、まるでDBと僕の方が使用人だ。
そうそう、この前、図書館の2階の階段のそばでひとりで遊んでいたちっちゃな子どもがバランスを崩して下に落ちそうになったんだ。あわてて走って行ってキャッチしたよ。
親にはしつこいくらい感謝されたけど、無意識のことだし、生まれ持っての運動神経だから別に感謝されても、って感じだったんだけど、ふと「これって〈キャッチャー・イン・ザ・ライ‥ブラリー〉じゃん」と思ったらおかしくなっちまった。
昨日、DBに「ライ麦畑的な夢ってなに?」と聞いてみた。DBはすっかり忘れたふりをしてたけど、あれは演技だね。最近、DBのことが少し見えるようになった。もちろん、気づかないふりをしたけどさ。
こう見えて、適度に鈍い弟を演じるのもタイヘンなんだよね。
「キャッチャー・イン・ザ・ライブラリー」(終わり)
◆◆最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!◆◆
文・月亭つまみ
イラスト・みーる(Special Thanks)
uniumi55
こんにちは。初めて、コメントします(ちょっと、緊張してます(^^;;。)
いつも楽しく拝見しています。この度の『図書館小説』、すごく良かったです!!。なにより、文章、言葉使いに違和感がなく、とても、好感が持てました。内容も、短編?なのに、きちんと構成されていて、納得のいく内容でした(あたし、何様?(^^;;)。
『図書館小説』、他にもあれば、ぜひ、披露していただきたいです。
チチカカ湖〜を、見たときは、感動しました。対話式のブログなんて、初めてで、その発想と、内容の面白さに、大ファンになりました(#^.^#)。
最近は、更新が少なく、淋しいです。
お忙しいでしょうが、また、チョクチョク更新してくださいね。
ゾロ目〜も、チチカカ湖〜も、応援しています〜\(^o^)/。
つまみ Post author
uniumi55 さま
コメントありがとうございます!
わーいわーいヽ(*´∀`)ノ
なんてうれしいお言葉(^O^)
感涙(´;ω;`)
うれし過ぎて顔文字を使いまくってしまってます。
図書館小説、そんな風に言っていただいて、本当にやってよかったです。
本当にうれしい感想です。
ひとりよがりの世界をひとりよがりで公開してしまったかも
と思ったりもしましたが、また次も公開させていただくことにしました。
チチカカ湖~の感想もありがとうございます。
早速、相棒に伝えねば!
向こうも楽しんで続けます。
どちらも今後共よろしくお願いします!
わに
なぬっ 次回作。。。ふふふ。。。。楽しみ楽しみ。。。。
すべての感想が 『すげー』 としか 表現できない 語彙の少なさなので はい
感想は おいといて (置くなぁ~っ)
母国語(って表現でいいのかな)じゃない 文を読む時 誰が翻訳したか で
そのあとの 文に対するイメージ違うんだろうな
The Catcher in the Rye
野崎孝訳の『ライ麦畑でつかまえて』 か 村上春樹訳の『キャッチャー・イン・ザ・ライ』 か。。。。
読んだ時の 年齢とか状況とか いろいろ
あと 誰の後に読むかも
あっ 一冊の本の貸し借りっていう意味だけじゃなく 誰の紹介?かも含めて
『ライ麦・・』 は レモンちゃんの影響で読んだような気がするけど。。。
(悩めるお年頃だったけど) ふーん で 終わって 本の題名だけが残ってる
そうそう高校の時
『昼休みがつぶれるからイヤ』 という理由で 人気のなかった図書委員やってたんだけど、
返却されたばかりの本借りる って娘(子)がいて (おお 高校生にして上から目線っ)
????
と 思って監察してたら (すでに 家政婦の三田やってた女子高生。こわっ)
いつもいつも 某先輩が借りた本をすぐに借りてた
当時は 貸し出し図書カードだったから
ふふふ すぐに借りると名前が並ぶのよねぇ~ ふふふ
バーコード貸し出しじゃ こーいう淡い恋心も 楽しめないんだろうね。
ひとりよがり・・・・ああ いけない事を想像してしまった。。。(アホです ワタシ・・・)
つまみ Post author
わにさま
コメントありがとうございます!
性懲りもなく、次回作、やらせていただきます。
海外モノは、訳でイメージが変わりますよね。
海外ミステリーで、一時期
ディック・フランシスの競馬シリーズと
ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズが
好きだったのですが、どちらも菊池光さんという方が
訳してました。
私、もしかして菊池光さんのファンだったのかも。
誰の紹介かも、確かに大きいですね。
ライ麦は私は、つかこうへいが誉めてて読みました。
貸出カードのエピソード、微笑ましくてなつかしいです。
岩井俊二の「ラブレター」という映画を思い出しました。
ホント、バーコード貸出は味気ない!?
マーキョン
初めまして。
軽快な語り口の小説、楽しく拝読いたしました。第一
マーキョン
ごめんなさい、スマホで打っていると間違えて送信してしまうことが多々あり失礼いたしました。
第一話の終わりで、もしかしてサスペンス?と思ったのですが、見事に引っ掛かってしまいました(笑)。心暖まるお話でした。二人の息子の母のせいか兄弟の話に惹かれます。
語呂合わせ小説とは???でしたが、そう言うオチだったんですね。
雑著049の分類を、世界を『泳ぐ』と語呂合わせなさっていて、なるほどと唸ったのですが、私は49と言う数字に親近感を持っております。4月9日が結婚記念日だからですが、4月9日って死と苦を連想して、あまり佳い日にちではありませんよね。でも私はどうしてもこの日に結婚したかったのです。両親の結婚記念日でもある日なので同じ日に結婚して同じくらい幸せになりたいと願っていたからでした。その年の4月9日がたまたま土曜日であったことと、母校のチャペルが空いていたので、すんなり願いは叶いました。
今回、図書番号の049が雑著の分類であることを教えて頂き、49と言う数字に、また1つ意味を持たせてしまいました。
次回作も楽しみにしております。
つまみ Post author
マーキョンさま
コメントありがとうございます。
見事引っ掛かって下さってありがとうございます。
達成感を覚えました(笑)。
それにしても
>両親の結婚記念日でもある日なので同じ日に結婚して同じくらい幸せになりたいと願っていたからでした。
ってステキ。
うらやましいです。
心がほっこりしましたですよ。
そして
母校のチャペルにも反応しました。
●●女子大かなあ、とか。
これからもよろしくお願い致します。
カピバラ舎
最終話、いろいろ腑に落ちてなるほど〜と読ませていただきました!
私も最初はミステリーかと…。
少し乾いた感じの文章好きです。
小説の書き方とか全く解らず読者目線ですが、
短編をほどよく組み立てるというのは難しいのでしょうね〜。すごいです!
あと何を読んでも、ストーリーの中に作家さんの身の回りに共通することが
微かでもあるのかな〜と想像してしまうのです。
(そういうところが気になるミーハー体質…)
次回作もありましたら楽しみにしています!
つまみ Post author
カピバラ舎さま
コメントありがとうございます。
腑に落ちていただけてうれしいっす。
ちゃんとした小説家は事前に構成を組み立てたりするのかもしれませんが
素人なので行き当たりばったりです。
字数とかゴロ合わせとか設定(明らかにパクり)だけ
真剣に考えていて、構成?なにそれ?という感じです。
身の回りのこと、いろいろ取り入れています(^^;)
大枠は完全にフィクションですが
北側に公園のある図書館で働いていましたし
階段のところで遊んでいた子どもを救出した経験があります。
親戚は酒屋で、そこには兄弟(私にとっては従兄)がいます。
恥ずかしげもなく、次回も続けることにしました。
今は亡き愛犬の散歩中に実際に遭遇した出来事が出てきます。
舞台は明らかに自分ちの近くです。
お騒がせしますが、よろしくお願いします。