50代、男のメガネは近視と乱視とお手元用 ~ 女の敵は女
女の敵は女
いまでは考えられないかもしれないけれど、女性が「専業主婦になりたいわ」なんて言おうものなら叱られていた時代がある。バブルの直前、男女雇用機会均等法が施行されて、男も女も同じように働くことができる、と法律上はお墨付きが出た。お墨付きが出ると、人間というのは不自由なもので、その恩恵を謳歌しようとしてしまうのである。
男も女も同じように働ける権利がある。女だからってお茶くみをさせられるなんて馬鹿げている。そんな風潮が一挙に広がった。
そんな時、新人の女性社員が仕事に疲れて、「結婚して、早く専業主婦になりたいわ」なんて言おうものなら、きっと叱られていた。しかも、真っ先に叱るのは女性の先輩。だいたい、一年二年くらい社歴の長い先輩女子から「だから、女性はダメだって言われるのよ」なんて叱責されてしまう。理由は簡単。「せっかく、先輩たちが頑張って、男女故郷機会均等法もできたんだから、ここで『女もやればできる』ってことを見せてやらないと」的なモチベーションがふつふつとわいていたのだ。
いま思うと、どっちでもいいじゃないか、と思う。仕事で頑張りたい人は必死で頑張る。主婦になりたいという人は主婦になる。本当にどっちでもいいじゃないか、と思うのだけれど、あの当時、確かに「専業主婦になりたいわ」は総合職として採用された女性にとっては言いづらいセリフではあった。
なにしろ、自分たちの人生は自分たちの思い通りにデザインするのだ的な発想が主流だったので、業界初の女性管理職とか、会社始まって以来の女性取締役が続々と生まれていた中で、「専業主婦になりたい」は戦線離脱的な意味合いに取られることが多かったような気がする。
それでも、「私はそういうつもりじゃなく、女として出産とか、子育てとか、そういうものをしっかりやりたいんです」とか言うと、「ほらね、女の敵は女なのよ」とくる。「あなた、入社の時、男に負けずに頑張りますって言ったじゃない」なんてことも言われる。いやまあ、それは入社の時の意気込みで、二年もすりゃあ気持ちも変わるし、負けずに頑張るって気合いだけじゃ乗り切れないこともいっぱいあるわけだし。
そんなこんなで、「女の敵は女」という言葉が出ると、なんとなく「女の敵は女なんじゃなくて、あんたじゃないの?」と思ってしまうことが多かった。あ、世の中の男がみんなそう思っていた、ということじゃなくて、あくまでも僕個人が。そんなふうに思うことが多かった。
そう考えると、僕の大嫌いな、みんな一人一人が世界にひとつの花なんだ的な思想の蔓延のせいなのか、単に景気が悪いせいなのか、いまの世の中「専業主婦になりたい」と言って、面と向かって非難する人はいないだろう。それがいい時代なのかどうかは、正直わからないけれど。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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