冬の秘密のスーツケースと、泣きじゃくる乙女の物語。
お寒うございます。冷え性の私には試練の季節であります。この冬は特に寒冷じんましんと寒暖差アレルギーがひどくて辛いのなんのって。両方とも四十路になって発症し、今年そういう名前だと初めて知ったのですが、要は気温差にカラダがついていけないために起こるトホホな症状。冬の間はひどい花粉症のような状態が続き、外気にあたるたびに手がミミズ腫れでぶんむくれる日々であります。
そんな冬なので、寒いところには行きたくない。できることなら布団にくるまって冬眠したい。今も「じじょくみ書かずに惰眠を貪ってしまおうか…」とブラックJKに誘惑されております。それでも受験真っ最中の姪っ子イカピーが勉強の合間にこの連載を読んでいるというので、叔母として「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…」と3回唱えてパソコンに向かっておる次第。
ちなみに本人に何て名前で書いたらいいかと聞いたら「じゃあイカピーで」と言うので、この名前になりました。なんともイカす姪っ子ですが、そもそも中学生にこの連載読ませるって教育上ダメじゃね?て話がなくもないオヴァンゲリオンくみこです。
逃げちゃダメな人地球代表。
そんなこんなで冬は外出したくないのですが、否応なく正月はやって来るのでイヤでも旅に出ます。イヤイヤ言ってるわりにあちこち行ってるやんとツッこまれそうですが(くわしくは前回)、冬の旅はどうしても動きが鈍くなって、じっとしている率が高くなります。じっとしていると自然と周囲の人々が目に入ります。なので周囲をじっと観察します。そしてこの冬、私はある発見をしました。
いまどきの若者は荷物がデカい。
今年はどういうわけか新幹線の予約が全く取れず、戻りの新幹線で2時間以上タチンボという悲惨な目に遭いました。通路までいっぱいというありさまで、停車するたび人は減るどころか増える一方。足の踏み場もないほどの寿司詰めラッシュ状態が何時間も続くのかと思うとゲンナリしましたが、しばらくして「あら? ラッシュのわりには息苦しくないわ?」と気づいたのです。
足下は指先ひとつも動かせないくらいの密着度なのに、顔を上げるとやけに見晴らしがいい。息苦しくない理由は、デッキや通路を陣取っている若者たちのドデカいスーツケース。人間の1人や2人は入ってますよねってなサイズのスーツケースを持った若者があちこちに立っているではありませんか。
どう見たって20代前半です。そしてどう見たって海外旅行の出で立ちではありません(なんとなく空気でわかる)。てことは国内か、国内旅行なのか!? その荷物でどんな秘境に行くつもりか??? 20歳前後の子供を持つ友人から「私たちの世代はいかにバッグを小さく軽くするかってことに命賭けてたけど、今の子は全然そんなことしないのよね」とは聞いてはいたのですが、まさかここまでとは。国内ならたいていの物は現地調達できるこの時代に、若者の荷物はいったいいつからあんなに巨大化したのか。あんな荷物で邪魔くさくないのか、というのは昭和的な思考なのでしょうか。
きっとあの中には何か私の知らない世界が広がっているに違いない。ああ、できることなら1人ひとりに声をかけて、週刊宝石よろしく「あなたのオ○パイスーツケース見せてください」と秘密の花園を開示してほしい衝動にかられましたが、そこは大人なのでグッと我慢しました。大きなスーツケースで旅するお子様をお持ちのみなさま、知られざる中身をぜひ教えてください。
一方。
闊歩する若者と違って、70代の冬は静かです。体調を崩さないよう、みなさん静かにお過ごしです。しかし暮らしは静かでも、心まで静かというわけではありません。むしろ心はなぜだか熱く燃えたぎっているようであります。
それは実家に帰ったときのこと。めっきり痩せてしまった母が室内で大層寒そうにしていたので、持ち帰っていた私のダウンベストをあげることにしました。母は喜んでそれを着て翌日の人工透析に行ったのですが、帰宅した母はなんだかションボリ元気がない。どうしたのかと思ったら、
「なんだか最近、仲間はずれにされちゃうのよねえ」
人工透析のため週3回クリニックに通う母ですが、クリニックでは毎回同じメンバーと一緒です。2日に1回会うので当然メンバー同士は親しくなるわけで、親しくなったらなったで人間いろいろあるわけで。それで母がメンバーのじいさんに言い寄られて超モテ期という話を以前書いたことがありましたが、どうやらあの事件を機に母はクリニックで微妙な立場になったようでした。なかでも同じ送迎バスに乗っているタマコさんというおばあちゃまから敵意をむき出しにされている様子。
「私がいろんな人の話を聞くもんだから、ある時『あなたって八方美人よね』って言われちゃったのよ」
母は長年接客商売をしていたので、人の話を聞くのは得意です。そして母が熱心に話を聞くふりして、実は全く聞いてないことを私は知っています。それでも老人の輪の中に何でもウンウンと黙って聞いてくれる母のような人がいたら、そりゃ人気者にもなりますわなあ。そして当然ながら、そういう母の存在を苦々しく思う女性もいるわけですわなあ。
「こないだも誕生日に花をもらった話をして『娘さんがいていいわね』なんて看護師さんに言われたから、そうね助かるわねって答えたの。そしたらいきなりタマコさんに『あなたのこと嫌い。もう話したくない!』って言われちゃって。帰りのバスの中でも誰も口を聞いてくれなくて、運転手さんが『じじょうさん、一体どうしたんですか』と心配してくれたくらいだったのよ」
何だその不穏な状況!? と驚きましたが、よくよく聞いてみると母はどうやら嬉しい、楽しい気持ちを素直に話してしまうようで、それを他のメンバーは「自慢ばかりしやがって…」と受け止めているらしいことが判明。ああ、なんだかそれって、身近で見たことのある風景だなあ。
「みんな息子さんばかりで娘がいないから、私があれこれ娘にプレゼントしてもらえるのが悔しいみたい。ほら男ってそういうの気がつかないでしょ。タマコさんは息子さんと同居しているんだから、それだけでいいじゃないって私は思うんだけどねえ。でも後になってタマコさんから電話が来て、泣きながら『さっきはごめんなさい』って謝られちゃった」
……やだタマコったら乙女。かわゆすぎる!!
娘からのプレゼントが嬉しくて、その嬉しさを無邪気に伝えてしまう独居老人の母。そんな母がうらやましくて、思わず感情を露わにしてしまう息子同居のタマコ。どちらもなんだか愛らしくて、ヒリヒリしていて、ちょっと泣きたくなってしまいました。
「今日もダウンベストを娘にもらったの、という話をしたらなんだか変な空気になっちゃって」
「…母さん、リア充アピールって知ってる?」
「り…??」
いやはや70代も大変であります。
思い起こせばこの連載の第1回は、泣きじゃくる20代と闊歩する70代のお話でした。今回は、はからずも闊歩する20代と泣きじゃくる70代のお話。そして間にはさまった四十路独女は、寒さにぶんむくれた手をさすりながら相も変わらず四十路の生き方を見つめてさまよっております。今年もがんばる。あとがんばれ受験生!
By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖っぷちほどいい天気」は毎週土曜日更新です。
さくら
イカピーがんばれ!
受験当日のこころえ。
むずかしい、過去問で見たこともない問題は
みんなもそう思っている。で、落ち着いてよく読むと、超やさしかったりする。
マラソンでいえば、受験は
トップ集団で走る必要なし。
3番手ぐらいの集団にまじっていれば
落ちない。
むずかしい問題は、とばして
解いていく。そこそことったなと思ったら
飛ばした問題に取り組む。きもちに余裕があると
すっと解けることあり。
ただし、飛ばした問題は後ですぐ見つかるように
おおげさにマークをつけておくこと。
じじょうくみこ Post author
>>さくらさま
こんにちわ、姪っ子に応援メッセージありがとうございます〜m(_ _)m
おーいイカピー、読んでるかーい?
さくらさまのアドバイス、学生時代に聞けてたらよかった・・・
(難しい問題にひっかかって、後の問題解けきれないパターン 泣)
nao
私の知っている若い男性は、実家に数日帰省するのに
バスタオルからヘアドライヤー、日数分の着替えも持って行くようです。
それと関係あるのか、その人は朝起きてから出かけるまで
どう頑張っても2時間かかるそうです(笑
実家に帰省したら、母のパンツをはいても平気だったわたくしには
想像もつかない生態ですね!
じじょうくみこ Post author
>>naoさま
こんにちわーコメントありがとうございます♪
私の友達の娘さんも、そんな感じみたいでした。環境を変えたくないのかな?
でもこういう人とつきあうのは面倒くさそうですね。
そんなことよりお母さんのパンツはいてるnaoさんのインパクトがすごすぎて疑問がぶっ飛びました(笑)