オクジ君のこと。
サッカーのワールドカップの季節になると、中学時代の友人を思い出す。僕はいまだにサッカーになんの興味もない男で、中学時代も今以上にサッカーに興味がなかった。まだ、Jリーグが発足するかなり前で、スポーツと言えば野球が王様だった時代。それでも、一部の男子はサッカーに興味を持ち、釜本とか、ヤンマーとかいう名前が、話題に上っていた。
そんな時に、奥寺というサッカー選手が、ドイツでプロになったというニュースが飛び込んできた。当時のサッカー少年たちにとっては、とても大きなニュースで、クラスのサッカー好きたちも大騒ぎだった。
さて、奥寺である。オクデラと読む。オクデラが日本人で初めてのプロサッカー選手になった!というニュースを聞いていたクラスの片隅で、なぜかニヤリと笑った男がいた。オクジ君である。奥地と書いて、オクジと読む。オクデラではない。しかし、なぜかオクジ君は、「奥寺も読み方によってはオクジになるやんか」と言い出した。
確かに「奥寺は、オクジとも読むことはできるが、奥地くんはどう転んでもオクジとしか読まれへんやないか」と僕たちは思ったのだが、「いや、なんか、僕もプロになれそうな気がする」とオクジ君は言い出した。サッカーもしていないし、どちらかというと運動音痴のオクジ君が、いったい何のプロになるのかと思ったが、相手にすると調子になりそうだったので、誰も話を掘り下げなかった。
しかし、不思議なもので、それ以来、サッカーの話題になると奥寺選手のことが頭に浮かび、奥寺選手が頭に浮かぶと、オクジ君のことが頭に浮かぶようになってしまったのだ。僕だけではない、クラスの男子のほとんどが同じ症状を訴えるようになったのである。
と、書いてきたのだけれど、僕はそんなふうに覚えているのだが、もしかしたら、それほどクラスのみんなはこの話を覚えていないのかもしれないぞ、という気もしてきた。こういう思い込みは、人によって大きな食い違いを見せる、ということを数多く経験してきているので、この話もあまり確信は持てない。
確信は持てないけれども、僕はまたブルーのユニフォームを着込んだ人々がたくさん乗り込んでくる山手線の車両の中で、奥寺選手を思い出し、オクジ君を思い出している。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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okosama
そして私達読者も、サッカーの話になると「あーなんかあったなーuematsuさんの。んー、外国でプロになった選手?あ、オクジ君や!」てなことになるのですよね?
オクジ君、知らんのに(笑)
uematsu Post author
okosamaさん
そうそう、鶴瓶の話す友だちのことを自分の友だちと勘違いするように。