温泉街の片隅で、にこやかに笑っているオイチャンに惚れた。
「私ね、50すぎてやっとわかったことがあるんです。人が働く場所は、どんな場所も現場なんだって。朝からみなさんが準備をして撮影をする場所も現場なら、めちゃくちゃなことを言ってくる部長さんがいる場所も現場なんです。それぞれの現場にはできることとできないことがあって、それぞれにやってらんねぇよ、ふざけんじゃねぇって思うことがあって。まちがっているとわかっているけど、やらせなきゃならないこと、やらなきゃならないことがある」
ドラマ『続・最後から二番目の恋』の最終回で、中井貴一扮する長倉和平@52歳がこんなようなセリフを言っていました。キョンキョン率いるテレビ局のドラマ制作スタッフたちは、撮影の真っ最中に理不尽な注文をつけてきた会社上層部に大激怒。途方に暮れる彼らに和平さんがしみじみとこう語ったことで、現場に活気が戻る…というシーンでした。
ケッ。いかにも「日本一ハートウォーミングな脚本家」岡田惠和っぽいキレイごとだぜケーッ。だってさー、人がいるとこは全部現場かもしんないけどさー、じゃあそれぞれの現場のさー、それぞれの事情をさー、誰がくんでまとめるんですかって話をさー、しているわけですよねワタシゃね!!
えーコホン。
失礼しました。わたくしとしたことが、ついとり乱してしまいました。こういうときにカピバラ舎さんのほんわかイラストに救われますね。ホントは好きです、岡田作品。
そんなこんなでこの夏のわたしは現場の事情をくみすぎて崖っぷちに立たされ、思いあまって現実逃避の旅に出たというのが前回のお話。
前回はこちら↓
自分の「古さ」に気づいたとき、裕次郎に会いに行こうと思った。
というわけで、続きです。
東洋のナイアガラで「滝の裕ちゃん」と対面を果たしたわたしは、足を伸ばして水上温泉へ1泊することにいたしました。水上温泉といえば草津、伊香保と並ぶ群馬屈指の温泉地として一世を風靡した有名どころ。古くは若山牧水や太宰治、与謝野晶子なんかの文人墨客に愛され、バブル時代は大型ホテルや遊興施設が建ち並ぶ一大歓楽街として栄華を極めたそうですが。
初めて訪れた水上温泉は、なんとも堂に入った寂れっぷりでありました。ここは廃業、あそこも廃墟、そこの宿はやっているけど建物大丈夫?みたいなスリリングな佇まい。全国の温泉地ではどこも同じような問題を抱えていて、生き残りをかけた再開発が進んでおりますが、水上温泉の場合は上越新幹線沿線から外れてしまったことや、中越地震、東日本大震災と災難が続いたことが大きく影響したのではと推測されます。
それでも宿はね、温かかったですよ。
数年前に民事再生法を申請したという大型温泉ホテル。施設は少々古めではありましたが、部屋からは渓流の眺めを一望でき、2つある露天風呂はどちらも心地よく、個室で手の込んだ食事をいただき、猛暑を忘れる涼やかな風にウトウト。手頃な値段の当日予約でこれだけのサービスを受けられるなら、じゅうぶんすぎるお宿でありました。
せっかく温泉街に来たのだからと、浴衣姿でそぞろ歩きすることにしました。開いているお店のほうが少ないくらいの中心街をあてもなく歩いていると、町のはずれに昔懐かしい射的場を発見。温泉地でたまに見かけますが、今ではほとんどが営業していないか、逆にレトロ趣味を狙った真新しいお店だったりします。でもそこは昔も今もずっとやっていますよ、という現役感がビンビンに漂っておりました。
「いらっしゃい」
お店に入ると水色のポロシャツに短パン、キャップを目深にかぶったオイチャンが、穏やかな笑顔で迎えてくれました。齢70は越えていそうなお顔。それでいて足どり軽やか、ふわふわと飛ぶように店内を走り回っては、お客さんの相手をしているのでした。
所狭しと並んだスマートボールは、使い込まれていながらも、どの台もきれいで手入れが行き届いている印象。早速トライしようとイスに座ると、オイチャンは音も立てずにスーッと台の前に立ち、布をぺろりと持ち上げてボールを入れたのです。おお、手動なのか。
オイチャンはお客さんの様子を見ながらスッ、スッと音もなく移動してボールをつぎ足していきます。ボールがピンにひっかかると、熟練の手業でボールを穴に入れてくれる大サービス。
続いて射的場へ移動すると、ひと目でわたしが素人だとわかったのか、
「ここに玉を詰めて、ここをガチャッとやってね、ここを引くといいですよ。飛び出ますよ。おんなの人は両手でこう持つといいですよ。前に乗り出して近いところから打つといいですよ」
手取り足取りレクチャーしてくれました。はたまた打っているときは
「ここ、ここを狙うといいですよ、後ろの景品も取れますよ」
わかりやすく裏ワザを伝授。ゲームが終わると
「8点だけど、いいですよ、10点の景品好きなの取っていいですよ」
とルール無視の大盤振る舞い。こんなにサービスしちゃって大丈夫なのかなあと思いながらも、なんとなく、このお店にお客さんが集まってくるのがわかったりもして。
雨が降り始めた、夜8時。灯りもまばらな温泉街の片隅で、こうしてひとりニコニコしながらボールを拾って景品並べて、夜を過ごしているオイチャンがいる。それだけのことなのに、なんだか胸がじんわり温かくなって、ちょっとツンとなりました。
みんな、それぞれの現場で、生きているんだなあ。
なんてなことを思いながら、すっかりいい気分になって帰ろうとしたら
いきなり豪雨で全身ずぶ濡れ(T_T)
浴衣びっしょびしょになってしまったので、替えをもらおうとフロントに行くと「500円いただきますが」
こんなところに時代の波(・:゚д゚:・)
まったく油断も隙もありゃしないぜ現場ってところはよう、とゆるんだサイフをキュッと閉めた、じじょうくみこでありました…。
ところで水上温泉に泊まったのには、とある理由があったのですが、射的にかまけてスペースがなくなってしまった。次週へ続きます(長々とすいません…)
By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖っぷちほどいい天気」は毎週土曜日更新です。
はしーば
おっちゃんの昭和的あったかさにツンツンきてたら、そうきましたか。
「ちっ!ったく!」とボヤキたくもなりますね。
次回、楽しみにしています。
2週間後、でしたっけ?
あ、でも肘はお大事に。
すえつむ花ちゃん
じじょくみさま
じじょくみ落語
今週も楽しく笑わせて頂きました。
『こんなところに時代の波!』
さすが、タイトルから“がけっぷち”で
読者の落としどころが冴えわたっていますね。(褒め)
ところで、『いきなり豪雨で全身ずぶ濡れ』
でひらめいたのですが、
じじょくみさま、さぞかし
色っぽかったでしょうね。
GORO激写シリーズ
復活です。
↑古すぎて、わからないですよね(笑)
来年の夏のおしゃべり会
是非、浴衣姿を期待します。♡♡♡
大和~なで~しこ
しちへんげ~♪(by kyon2)
じじょうくみこ Post author
>>はしーばさま
こんにちわー、コメントありがとうございます(*^_^*)
いやホント、幸せに浸らせてくれませんよねー最近の天気は(>_<) ちなみに豪雨のなかで露天風呂に入ると全身が痛い、ということを初めて知りました。 肘のほう、ご心配ありがとうございますm(_ _)m 昨日指圧に行ってきたんですが、もはや肘を通り越して肩がダメでした。 肘まわりに湿布しても意味がなかったという(笑) 治療していただいたので、しばらく落ち着きそうです。来週は更新いたしますよー♪
じじょうくみこ Post author
>>すえつむ花ちゃんさま
こんにちわ♪素顔のほうが嘘つきじじょくみですw
コメントありがとうございます〜(^^)/
落語っぼい構成にしてるのバレちゃいましたね(バレバレかw)
しかしGORO! におい立つ昭和!
懐かしいですねえ〜(とわたしが言っていいのかどうかは別として)
ちなみに上半身ボリューミー種肩幅アリ族のわたしは
浴衣が絶望的に似合いません。そして雨で濡れると上半身の腐海があらわに・・・(戦慄)
爽子
温泉街の射的やスマートボール、ずっと昔から変わらず営業されてるお店、ありますよね。
次男が幼稚園にあがるまえですので、20数年前ですが、赤倉温泉に子供たちをスキーにつれてったときに、
夜、そんなお店にいきあたりました。
店番は、おにいちゃんだったんですが、ちいさな埃かぶってそうな置物がどうしてもほしくて、子供たちは必死でした。
次男は、一部カウンターがえぐれてて、標的までの距離がとても近い位置から狙うというズルをするのですが、そのたびに、おにいちゃんに見咎められて、注意されると、うんうん頷いて、元の位置から狙うという行為を繰り返してました。
3歳児なりに隙をついてるのが(しかもバレバレ)すごく面白かったです。
全員あたりませんでしたが、おにいちゃんは、笑いながら、小さい指人形を次男にだけくれました。
こころにポッと灯りがともるような。思い出です。
はじめから、レトロをねらうテーマパークのような昭和風インテリアには、ちょっとあ~あ。です。
せっかくの気分をいきなりの豪雨と、500円要求の浴衣交換に、崖から落とされたのですね。
おいたわしや~。
すえつむ花さま、GOROの激写シリーズ、なつかしすぎて感涙です。
卒業旅行の大浴場で、ともだちとポーズを決めて、「激写」といいながら、ふざけあったのが、総天然色で思い出されます。
じじょくみさん、指圧ですか。。。
実は先々週、鍼治療にいってきたんです。
そしたら、じじょくみさんと同じように、わたしも肘をかばうあまりか、首や肩のほうに鍼の集中砲火をうけて、週末は、こり返しでものすごくしんどくて、鎮痛剤飲んで、ゴロゴロすごしました。
なんとかコイツとの腐れ縁にけりをつけたいものです。
すえつむ花ちゃん
じじょくみさま
こんばんは。
ずぶ濡れの上半身
腐海、
戦慄
↓
シャワーのような雨、
浄化
アイムcoming!
と変換妄想してしまいました。
温泉ですものね。(^_-)
腐海というと“ナウシカ”ですが、
モデルとして、クリミアの方にあるようですね。
ググってしまいました。
一面ピンク色で綺麗です。
http://matome.naver.jp/odai/2140886848332824901
学習ついでに“腐海”検索で
バラステの滝という絶景も出てきましたので
テニス肘の湿布のつもりでお楽しみください。(爆)(瀑布)
http://matome.naver.jp/odai/2136275082492675301
爽子さま
ここ2~3回ちらほらコメントさせていただいております。
オバフォーブログを天井桟敷席で楽しんでいましたのに
ブログの磁場が強すぎて、
バンジージャンプしかねない勢いです。
よろしくお願いいたします。
じじょうくみこ Post author
>>爽子さま
こんにちわー!いつもコメントありがとうございます(*^_^*)
赤倉温泉にもいい店がありますねえ〜〜♪次男クンもイイ(笑)
そういう出会いがあるから、旅はいいなあと思います。
GORO激写ごっこも、なんかキュンとしますね(^^)/
そしてテニス肘。いずこも同じですか・・・
実は私も昨日はもみ返しがすごくて、1日だるっだるでした。
でも今日はおかげさまで見違えるほど軽い!
結局夏も痛いまま越えちゃったし、このまま本格シーズン(?)に突入するかと思うと
今からユウウツになっております。。。お互い養生しましょうね(T_T)
じじょうくみこ Post author
>>すえつむ花ちゃんさま
コメントおかわりありがとうございます〜(^^)/
アイムcomimgに爆笑しました(笑)
クリミアとバラステ、どちらもド迫力ですね!!
クリミアはどこかで見た記憶があるのですが、バラステの滝は初めて知りました。
すごい。凍り方が尋常じゃないw 異次元の風景ですねー。
おかげさまで肘がヒンヤリしました!ありがとうございましたm(_ _)m