ああ、かばんの中身。広げることと閉じることのあいだ。
「あとで考えよう」と思っていたことは、たいていそのまま後手に回ってしまう。
そう言えば、重松清の『小学5年生』を読もうと思っていたのに、息子はもう6年になってしまっている。
昨年の今頃、息子の学校で「宿泊学習」という行事があった。
うちの息子は衣類をきちんとたたむことができない。本人はたたんでいるつもりでも、わたしには丸めているようにしか見えない。なんというかこう、作業の詰めが甘い。
幼稚園は比較的厳しい幼稚園だったので、スモックの着方、脱ぎ方、ハンガーへのかけ方、そして「たたみ方」と、たしか入園前の説明会で年長のお子さんがお手本を見せてくれた。それは、とても美しい「スモック道」とでも呼ぶべき所作だった。
わたしは「宿泊学習」の前に、「たたみ方講習」を何度も行った。今までだって洗濯物のたたみ方を何度も教えてきたのだ。だのに息子ときたら。。。
洗面道具、タオル、お風呂セット、翌日の着替え。。。息子の普段の行動と宿泊先での行動を突き合わせて、バッグの中はできるだけスムーズに荷物が取り出せるように、ひとつひとつ解説をしながら何度も何度も荷物の出し入れをさせた。
「いい?お洗濯するものはこの袋に小さくまとめて入れて来なさいね。小さくまとめないともとのこのバッグには入らないわよ」。
わたしは口を酸っぱくして言ったはずだ。
しかし、息子は、その洗濯もののビニールバッグをメインのバッグの外に完全に独立させるという方法で意気揚々と帰宅した。
その手があったか。。。
あの日の朝、バスの出発を見送りに行ったお母さんたちの間で話題になったことがあった。
「なんか。とんでもないことを知ってたり、言ってたり、見たりもしてるみたい。クラスの中に、そっちに詳しい子がいたりして」。
「そっちってあっち?」「そう。あっち。。。」
困るわー。どうする?学校でも4年のときに注意があって、そういうものをみだりに見てはいけません、とか、指導をしたって、お知らせの手紙があったよね。
どうする?ほんと、どうする?。困るわ~。ほんと、困るわ~。
土曜。わたしはたまたま家を3時間ほどあけていた。家に帰ると息子はわたしのPCの前にいた。「あ。おかあさん、おかえり。ぼくは今、休憩中。もうすぐ上にあがるけど、お腹空いた。なんかおやつない?」
PC画面は息子が毎日チェックするドラゴンズのサイトになっていた。
「ところで、急に思い出したんだけど。4年のとき学校で、Hなサイトを見てるひとがいるようだけれど、Hなサイトは君たちにはまだ早いから見てはいけません、って言われたんだ。あれって、学校はなんで『Hなサイトを見ているひとがいる』ってわかるの?もしかしてそれぞれの家のパソコンと学校のパソコンがつながってるとかあるの?なんかこう、転送されてんの?」
そんなことはないけど、どうして今頃そんなことを聞くの?
「いやほんと。たまたま急に思い出したんだ。ほんとたまたま。なぜだか急に」。
わかりやすい。笑っちゃうほどわかりやすい。
こういう日が来ることを予測していなかったわけではない。こういう日が来ることを予測しながら、「そのときどうするか」を、ずっと保留で過ごして来た。
だって、この間まで、白いベビーベッドで寝ていた子が。この間まで、幼稚園でスモックのたたみ方を教わっていた子が。しかも未だにきちんとはたためないでいる子が。。。
夜になって、自室のベッドで寝ている子の姿を見ると、ほっぺたを両手ではさんで「こんにゃろ~~~」とくちゃくちゃにしたい衝動に駆られた。
「宣戦布告」のお触書まで張り出した大げんかの翌日、「いい子いい子して」と台所に言いにくる息子と、あの検索履歴を残す息子が同一人物であることがわたしを混乱させている。
「いや、まだ早い。もう少しだけ待って欲しい」と思っているのに情け容赦なくハハを置いてけぼりにする息子の礼儀知らずに腹を立てている。
子どもの成長が、こんなにハハを混乱させ、挙句孤独に突き落すことを、母子手帳も育児書も教えてはくれなかったじゃないか。
なんてこった。なんてこった、なんてこった、なんてこった。。。
自分の子ども時代。今思えばいろいろタブーの多い家だった。いや、うちばかりではないはず。あの頃は、どこのお宅もいろんなタブーを家庭内に抱えていた。何かが後ろめたく、何かがアンタッチャブルで、そのすれすれぎりぎりのところを息を殺して綱渡りしてきたような感覚がある。。。
そしてわたしは、うちの親から「いい子いい子」となでさすられた記憶を完全に失っている。。。
「そういえば宿泊学習のとき…
○○が夜中に小さい声で泣きだしたんだよ。○○って、ほら、3年のとき先生にしょっちゅう怒られてたあいつ。寝る前はエロばなしなんか大声でしてたのに。あいつが寝ながら泣くから驚いたんだけど、ほかのやつはガ―ガ―言って誰も気が付いてなかったんだ。それで○○、どうすんのかな?ってこっそり見てたら、かばんの底から枕カバーみたいなのを出してくんくん臭いをかいでた。かばんにあんなもの入れてたなんて。あの○○が。ぼく驚いた。でも、誰にも言わんかった」。
ひとはいろんなものをかばんに詰めている。。。
とりあえず騒がない。他では大いに騒いでもこの件では騒がない。そう決めた。
そして。わたしはこの件をとりたてて忌避しない代わりにだからと言っておおっぴらにバッグの外へ出して帰ってきてもいいものではないことを去年の「宿泊学習」の帰りの荷物にかこつけて、息子に話そうと考えた。
そして「あんたが嫌がるまでは、おかーさんは『いい子いい子』を大放出する」ということも今のうちに付け加えておくことにした。
今日は市内の小学6年生の陸上競技会があるとかで、朝からお弁当もちで出掛けて行った。
「お弁当が入ってるから走らないでね」と玄関先で言うと、「走らないに決まってるじゃないか」と息子は言った。
そういえばあの子。赤白帽で出て行ったぞ。たしかお便りの持ち物には「制帽」と書いてあったぞ。
ほら、またこんなうっかりを。。。わしゃ知らん。
小関祥子
男の子とはまたちがうかもしれませんが、恋愛のいざこざを勢いで母に話してしまった十数年前を思い出して、ちょっと苦い気持ちになりました。
あー、おかーさん、聞きたくなかったかもなー、そういう話。ごめんね。
(そのあとは、あんまりそういう浮いた話を聞かせられなくて、これもまたごめんね)
でも、枕カバーをくんくんしているお友達を見ても誰にも言わなかった息子さんは、すっごく優しい、いい子ですね。
さみしさを埋めるものにはならないかもしれないけれど、やっぱり、すっごくいい子です。
爽子
なんともはや、おいしそうなお弁当で、モニターに顔を近寄らせて、ガン見してしまいました。
もうみんな大人になってしまったので、もはや遅いのですが、洋服のたたみ方、教えた覚えがありません。
どうして覚えたんでしょうね。
そーかー、サヴァラン家のボクちゃんにも、そんなわかりやすい日がやってきたのですか。
これからもいろいろ噴出すようなわかりやすさを披露してくれますよ。
世代の違いのせいか、うちのヤツラのときは、PCなどありませんでしたから、どこで拾ってきたのか幾日か雨に打たれてふくれあがったような男性週刊誌が、ガレージの物置のすみから発見されたりしましたよ。アナログやわ~~~。
nao
そうですか、そんな時期が来ましたか。
うちも、小6の時、私のPCで見ていたのに気づき、言葉では何も言わなかったけど
私、フィリタリングかける → 息子、パスワードを盗む
私、検索履歴を見てカマをかける → 息子、履歴の消し方を覚える
といったバトルを繰り広げておりました。
そういうのに興味があるのは仕方がないのだけど
ネットというのはハードルが低くて、あまりにもモロなので
私としては嫌でしたね。。
それにしても、彩りのよいお弁当がホント美味しそうです(^^)
saki
検索履歴、衝撃ですね。
でも、分かりやすいところがまだ幼くて、すごく可愛いです。
うちの息子も「ママ好き〜!」って寄ってくる一方で、コンビニで水着のお姉さんの雑誌を欲しがってました…
しかも年少から!
ウチでは古い携帯をゲーム機代わりに遊ばせているのですが、この前は待受画面が、水着のお姉さんでした。
TVのCMなんかを撮ったようです。
父親は健全な証拠、と言いますが、母親としてはなかなかのダメージでした…
サヴァラン Post author
小関祥子さま
わぁ!コメントありがとうございます。お返事が遅くてすみません。
おかあさまの反応、わかります!わかります!
うちの母もそういうときにとても微妙な反応をする母でした。
今は大きく分けると
「そういうはなしは聞きたくないわ」というママと
「そういうはなしも大歓迎よ」というママに分かれる気がします。
母の方で自分がどっち派なのか早めに態度を表明しておいてくれると
子どももそれによってはなすかはなさないか早めに決められるんですけどねぇ。
(これ、わたしが今しないといけないことだわ)
小関さん
山の上ホテルでお会いしたとき
キラッキラしてらっしゃいました。
「最近、映画見た?」のコーナーも小関さんのTwitterも
とても楽しみに拝見しています。
(お弁当やお食事、わたし大好きです。もちろんお仕事のイラストも)
おかあさまは目を細めてご覧になっているはず。
わたしは母をそういう気持ちにはさせられなかったと思うので
小関さんはすっごく素敵ないい子です!(失礼でごめんなさい)
サヴァラン Post author
爽子 さま
コメントをありがとうございます。お返事遅くてすみません。
お弁当写真はスルーしてください。
いつも写真に四苦八苦して、「しゃーない、この自分用の覚えを使おう」
となっています。(写真が四苦八苦なら、文章は四苦八苦×2 です)
「わかりやすさ」
やってまいりました。いろいろ順番が間違ってる気がします。
これが「セクシャリティーのとさかをつかまえようとしている」とは
この母は受け止められないところがやっかいでございます。
「どこで拾ってきたのか」
そこ、そこ、がとってもいじらい。。。よよよ
ガレージの隅でそれを見つける母もいじらしくて よよよよよよ。。。
なんか歌でも詠めませんかね。
セクシー歌人は既にいらっしゃるので
「ウィタ、セクスアリスの母」歌人とかなんとか。
先輩の貴重なおはなし
うかがうと俄然元気が出ます。
アホなんはうちの子だけじゃない!!(失礼でほんとすみません)
サヴァラン Post author
nao さま
ありがとうございます。お返事遅くなりました。
はい。そんな時期がまいりました。
一瞬「ああ、やっぱりフィルターかけとけばよかったな」
と思いましたが後の祭り。
せめて「そのときどうするか」ぐらいは
事前に決めておくつもりでしたが完全に後手に回りました(杜甫)
事件発覚が先週の土曜日。
数日はじっと黙ってがまんをし
シュジンには「仲間同士きちっとはなしして!」と言いました。
2,3日が過ぎて、すこ~しずつすこ~しずつ
わたしがその手のはなしに水を向けて
「あーたくらいの年の男の子はみんなそろって
その手のアホになるらしいよ~」と言いましたら
本人があっさり白状しました。
「ぼく、先週の土曜にあれをずーーーっと見て
見過ぎて正直気持ち悪くなった。ほんとマジ気持ち悪い。
だからもう見る気はしなくなった。てへ^^」
そんなに気持ち悪くなるほど見たんかい!
気持ち悪いのを忘れたらまた見るんかい!
忘れるんでしょうね。
慣らされていくんでしょうね。子も親も。
あ。お弁当の写真はどうぞ不問に。
ほんと写真がなくて困っています。
それにしても「写真」というのは…
なやましい。。。
サヴァラン Post author
saki さま
コメントをありがとうございます。
はい。衝撃でございました。↷↷↷
正直
ひとさまのぼっちゃんのことは
「あら、そういうの普通じゃない。
いいこと!いいこと!成長の証!」とかなんとか
とても無責任な反応をしてきていまして
その実その裏で
「わたしは大丈夫?ほんとにマジで
そのときそんなふうに思える???」と自問自答してきましたが。
実際
「ダメ」でした。
検索履歴の短冊状の文字が
呪いの呪文のようにおどろどろしく見えてしまってわなわなしました。
でも
本当に男の子は無邪気に好きですよね。
小さいときからおっぱいとかパンツとか。
うちには女の子はいませんが
よそで小さい女の子とお会いすると
わたしが見つけているほんっの小さな光ものとか
爪に塗っているマニキュアに
小さい小さい手を伸ばしてくるのに驚きます。
女の子って
男の子って
どちらも不思議で面白い。。。
ご主人さまの台詞
うちのも同じことを言いますので
「持ち主同士でちゃんとはなしして!」と
下品な母は答えます。
テレジア
男の子どもさんというのは、こういう成長なんだなと 感じました。私は娘二人。なんだかとっちらかったまま大きくなってしまって。という感じです。
ですが、こちらもよれよれしながらも 同じ道を歩いてきたので、今どのあたりを歩いているのだなとか そういう雑な判断は出来ます。時代とか環境とか 周辺は変化していても、 底の底あたりで 「同性」というよしみで似通っているという安心感があるのですね。
実は私は今もって、上手に畳めません。上の娘はきっちり畳めます。
遺伝ではないようでして、うまいお手本があったからといってそのようにできるわけではなく、
かといって、下手なお手本があっても 上手にできる人間は「できる」ようです。
これは、生まれもった資質である。諦観いたしました。