ままならない日々に、ただならぬ気配の紅葉バスツアー。
みなさま、前回のハケンさん記事では「うちの会社でも…」とさまざまな職場事情をお寄せくださり、本当にありがとうございましたm(_ _)m ああ本当に世の中にはギリギリのところで必死に、誠実に、熱心に働いている人がたくさんいるのだなあ、と痛感した次第。そしてオバフォー世代の切実さについても。
かくいうわたしの職場でも日々「人員整理」が進んでおりまして、忘年会どころか送別会ラッシュでヘトヘトでございます。そんな折に、追い打ちをかけるニュース。
「ああああああああ」とニュースを見たとき思わず声が出ましたね。仕事と鉄道が同列なんてどうかしてるって話でホント恐縮ですが、「北斗星に乗る!」ことを今年の目標にしてきたわたしとしては、膝から崩れ落ちる衝撃。
あーあ、みんな行ってしまうのね… (T_T)
そんなこんなで何かとションボリな今日このごろ。そっちがそうくるならこっちにも考えがあるわ? そっちが行く気ならこっちは迎えに行ってやるわ? となんだかよくわからない怒りに任せて、紅葉を見に行くことにしたのです。
というわけで参加してきました。過ぎゆく秋をつかまえる、紅葉バスツアーというやつに。
みなさま、バスツアーってご利用されてます? よく新聞広告やチラシに載っている、「富士山&富士五湖絶景スポットぐるり1周&カニ食べ放題!!」とか「あまーいイチゴ食べ放題・3大パワースポットめぐり・温泉三昧♪」とか、やたら煩悩に突き刺さってくる例のアレです。日帰りだと5千円〜1万円ほどと大変お手頃なうえ、これでもかと観光&グルメを詰めこんだメガ盛り感が最大の魅力なんですが。
実は6〜7年ほど前、この手のツアーに参加したことがあります。1万円しなかった、大手旅行会社主催の「関東近県の紅葉スポットーへご案内します。どこへ行くかはお楽しみ♪ランチ&お土産付!!」というミステリーツアー。「その時期に一番きれいなスポットに連れてってくれそうだし、行き先わからないって面白そう!」ということで友人と早速申し込んだのでした。
いざバスに乗り込んでみると、座席は60〜70代の乗客で埋め尽くされておりました。アラサーの友人とアラフォーのわたしは、ぶっちぎりの最年少。軽くアウェイな気分になりつつも「紅葉が見られるならいっか」とおとなしく座っていたのですが…。
なんと、全く紅葉が見られなかったのです。
おそらく4カ所はまわったと思うのですが、行くとこ行くとこ紅葉してない。というか紅葉終わってた。しまいにはどこぞの寺の奥に案内されて「ここ! ここ赤いですよ、ねっねっ紅葉でしょ!」と1本の紅葉の木を見せられたときは血管切れるかと思いました。
主催側の事情を考えれば、事前に案内先を確保しなきゃいけないのはわかります。紅葉が人間の予定に合わせて染まってくれないのも、よくわかりますよ、ええわかりますとも。でも、だったら「紅葉三昧ツアー」なんて言わないでほしい。行き先を柔軟に変えてくれそうな「ミステリーツアー」とか呼ばないでほしい。クレームもんだよこれは! ですよねっ!! と同意を求めて車内を見渡したところ
なんと、誰ひとりとして怒っている人はいなかったのです。
どのグループも、みなさん終始ニッコニコ。箸が転がってもおかしい、ぐらいの乙女感でキャッキャと盛り上がっておりました。紅葉ないのに。ぜんぜんないのに。
ちなみに行く場所行く場所でみかん1キロ、里芋1キロ、白菜1玉、しいたけ1パック…と大量のお土産をどんどん渡され、最後には
新巻鮭1本ドーン
お迎えの車に土産を載せてニッコニコで帰っていくオバチャマたちを尻目に、大量の野菜とドデかい鮭を抱えて電車に乗れず、途方に暮れる独女ふたり…。
なにこれ? なんなのバスツアー??
「どうやらバスツアーには未知の世界が広がっているらしい」と知ったあの日。そしてこの秋、その思いを再び味わうことになったのであります。
急に冷え込んだせいか、今年の紅葉は例年より進行が早かった様子。「紅葉を見に行こう」と思い立ったときには既にめぼしいスポットはピークを過ぎ、東京発着のバスツアーも満員御礼。そこで東京から電車で1時間半ほどの水戸まで行き、そこから現地発着の紅葉ツアーへ参加することにしました。
前回の反省をふまえて? 今回は紅葉しているかどうかを事前にチェックし、その場所に行くコースをチョイス。紅葉スポット3カ所をめぐる、お弁当付きプラン、4000円也。最近仕事が忙しくてご無沙汰だった旅友アヤメと、久しぶりの旅であります。
午前9時集合のバスに乗り込むと、案の定、座席はムンッとするほど先輩方の熱気に包まれておりました。メンバーは60〜70代の女性グループや老夫婦、あとは娘さんを連れた家族連れといったところ。まさかアラフィフになっても、最年少の栄光にあずかれるとは思ってもみませんでした。
あと今回は1人参加の方もちらほらいて、わたしたちの隣の列にも70代とおぼしきジイサマが座っておられました。松葉杖をたてかけて、窓にもたれてひとりたそがれている姿は
少女マンガだとキュンってなるパターンのやつ。
ですが、70代となるとそれはただの不機嫌なジイサマでしかなかったのでありました。
「本日みなさまをご案内させていただきます、霧島と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
いかにも新米バスガイドです〜といった風情の霧島さんの案内で、バスは一路山の中へ。今回は県内3カ所をまわるだけのシンプルなツアーなので、まったりした移動時間が多かったのですが、それでもまあ七十路女子たちの楽しそうなことったら。「このあたりには水戸黄門様が隠居されたお住まいがありまして、光圀公の功績は…」と熱心に話しているガイドさんの話は聞き流して、お菓子を食べながらキャッキャとおしゃべり三昧。まるで修学旅行のノリです。
ああ、そうか。考えてみればドアツードアのバスツアーは、わたしのようなラクしてトクしたい横着者よりも、自力での旅はハードルが高い高齢者のほうがニーズはずっと高いわけで。だからこういう年齢層なのかと納得。そして修学旅行が友とワイワイすること自体に楽しさがあるように、紅葉してようがしてまいが、友や家族とこうしてバスに乗って笑っていられる、それ自体がスペシャルなのだと、ようやく悟ったのでありました。
バスツアーって深いわー人生感じるわー。
と一瞬しみじみしましたが、そのツアーはなぜか「しみじみ」に専念させてくれない妙な空気が流れていたのです。
たとえば移動時間にはお茶やコーヒーのドリンクサービスがあったのですが、冒頭からいきなり「すいません、紙コップが人数分足りなくて…」と霧島さん。途中、営業所に立ち寄ってコップを補充することで事なきを得ましたが、しばらくすると今度は「申し訳ありません、お弁当が4つ足りなくて…必ずお持ちしますので後でもいいという方いらっしゃいますか…」と慌てる霧島ちゃん。
なんだこのバス会社、といぶかしく思いつつ特に困ることもないので手を挙げて、最後の立ち寄りスポットでお弁当を受け取ることになりました。
そしてついに、事件は起きたのです。
その日のハイライトは日本三大名瀑のひとつ、袋田の滝観光でありました。渓谷の巨大な岩壁を滑らかに流れ落ちる水、そのまわりを赤く染める紅葉。なんとも清らかな美観ですが、ダイナミックな滝の流れを間近で味わえるよう数年前にエレベーターで上る観瀑台が新設されたとかで、エレベーター前はどエラい行列になっておりました。
ふと見ると、隣に座っていた例のたそがれジイサマが、わたしたちのすぐ前を歩いています。バスツアーでは何かと乗客同士で言葉を交わす機会があるのですが、そのたそがれジイサマは頑なに他者との交流を拒み、ずっと不機嫌そうにしていたのが気になっておりました。
目の前の看板には「新観瀑台行きエレベーターの待ち時間は40分です」の文字。それを見たジイサマはチッと舌打ちし、「そんなに待ってられるか!」と吐き捨てるようにつぶやいて、プイといま来た道を戻っていったのです。
「ジイサマ、滝は見なくていいのかなあ」
「エレベーターに乗らなくても見られるみたいだよ」
アヤメが呼びに行こうとしましたが、松葉杖のわりに驚くほど機敏なジイサマの姿はもう見えませんでした。
その後、滝と紅葉を楽しんで集合場所に戻り、霧島ちゃんが乗客を点呼すると「あれ? ひとり…あれっ??」と慌て始めました。すると乗客の中から「男の人じゃないですか、あの、足がお悪い」。見れば、隣のたそがれジイサマの姿がありません。
「お時間かかっているのかもしれませんね。電話、電話…あーー自宅の電話しか載ってないっ! 私ちょっと集合場所を見てきますっ!」と霧島ちゃんはバスを降りていきました。10分ほどたって戻ってきて、ジイサマがいないのを確認すると「うわあ、どうしようどうしよう」とパニック状態。バスを降りてはあちこちかけずり回り、ハアハア息を切らせてまた戻ってくる、のくり返し。そうかと思えば急にわたしの電話が鳴り響き、誰かと思えば
「じ、じじょう様ですね! 今どちらにっ!!」
「ハイじじょうはわたくしですが、バスに乗ってます」
「あっ、やだっ、すいませんすいません!!!」
どうやら彼女、ジイサマの番号と間違えたようです。しばらくたって再び呼び出し音。
「じ、ハアハアじ、じじょう様ですかハアハアっっっ!!」
落ち着け、霧島。
結局30分待ってもジイサマは戻ってこず、「私はここで待っていますので、みなさんは次の場所へどうぞ!」とバスは霧島ちゃん不在で最終目的地へ。バス会社のおエラいさんぽい男性が現れ、アヤメとわたし、そして前の席にいたオバチャマ2人にうやうやしくお弁当を差し出し、さらに菓子折とおまんじゅうを乗せて「このたびは私どもの大変な不手際で、本当に本当に申し訳ございませんでした…」と深々と謝罪されました。
「なんか調子狂っちゃうなあ。でもお菓子もらえて得した気分♪」と喜びながら、他の人に遅れること1時間、ようやくテーブルで弁当を広げると
箸がついてないっていうねヾ(´A`)ノ
慌てて振り返るもバス会社の人は既におらず、どうしたもんかとウロウロ歩いて途方に暮れるばかり。そうだ、一緒に弁当をもらったオバチャマたちはどうしたんだろう。立ち寄り場所に戻ってみると、「おーい、あなたたちのぶんまで貰ってきたわよー!」と箸を振る熟女ふたり。こんなひと気のない田舎のどこから箸が!?
ともあれどうにか昼食にありついて、満腹になったところで集合時間。あとは帰るだけだと安心してバスに乗り込むと、霧島ちゃんが戻ってきておりました。
「自宅に戻られたと、さきほど社に連絡がありました。バスが見あたらないということで、一人で帰られたそうです。本当にご心配をおかけしました。それではこれから水戸駅のほうへ…あれっ、ふたり…あれっ??」
こんどは2人、戻ってきていませんでした。そう、あの弁当オバチャマです。霧島パニック再び。バスを飛び出して周辺を走り回っていると、遠くからオバチャマたちが悠然と歩いてくるのが見えました。急いでほしいと説得している風な霧島ちゃんと、そんなことはお構いなしの熟女たち。
結局バスは大幅に遅れて出発し、遅れているうちに渋滞にハマってしまい、しびれを切らした男性陣が「予約した電車には間に合うのか」「いったいいつまで待たせるんだ」とブーブー言い出す始末。終始文句ばかりの男性陣と超マイペースな女性陣に囲まれて、けなげに笑顔で応対する霧島ちゃん。
ああバスツアーって人生だわー。深いわ深すぎるわー。
赤いテールランプが輝く渋滞の波に、今日の美しい紅葉を思い出し、「まあ当分バスはいいよね」と思ったじじょうくみこでありました…。
By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖っぷちほどいい天気」は毎週土曜日更新です。
紅葉もいいけど、紅葉もね。
まり
はじめまして!爆笑してしまいました!
面白過ぎです!くみこさんが、いるから面白いことが起こるのか、バスツアー参加者が面白過ぎなのか?!?!?!かなり、バスツアーに参加したくなりました!霧島さんの、ガイドで!!!!!
じじょうくみこ Post author
>>まりさま
こんにちわ!初コメントありがとうございますm(_ _)m
読んでいただき光栄でございます(*^_^*)
バスツアー参加者、かなりキョーレツですよ、ぜひ乗ってみてください!
いろんな人間模様が楽しめますよ〜♪
それにしてもバス会社って大変だなあ〜とつくづく思いました。
「霧島、バスガイドやめるってよ」とならないかみんな心配しています(笑)