どこまでラクになりたいのか。
53年生きてきて、初めて待ち伏せというものをされたのである。
色恋に関わる待ち伏せなら、噂にも聞くし、人間一歩間違えれば、そういうことだってあるだろうと渋々ながら納得もする。
しかし、今回はなかなかに理解不能で業の深い待ち伏せだった。
そ もそも、待ち伏せしていた相手は10年ほど前までうちの事務所で働いていた女史で、それまでの10年以上、一緒に働いていた人物である。彼女がうちの事務 所を辞めた理由はいろいろあるのだが、ひとことでまとめてしまえば、こちらがよかれと思ってしていることをすべて真逆に受け取り、勘違いしたまま恵まれた環境を捨てた、ということになる。
そのときの暴れっぷりはいまでも話題になるほどで、残ったスタッフたちにとってはトラウマとでも言うべき事件だったのである。
ものすごく乱暴に要約すると、この女史は、当時の暴れっぷりを反省し、謝罪するために僕を待ち伏せしていたのである。
まったく関係のない人の事務所の前で、その事務所に僕が現れるという情報を共通の知人からの情報を得て、彼女は熱い日差しの中、二時間近く電車に揺られて現場にやってきたのである。
本当に謝りたいのなら、他に手はいくらでもあったはずだ。ホームページを調べれば電話番号も住所もちゃんと掲載してある。正直、まだ僕のなかでも当時のトラ ウマを克服していないので、会う気はまったくないけれど、それは僕の自由だ。にもかかわらず、彼女は知人の情報と「いまなら、きっと会ってくれるよ。いい人だから」という言葉によるそそのかしに乗って、僕を待ち伏せていたのである。
さて、新しい何かを始めよう、とここ最近にはないほどに、ほんの少しテンションの上がっていた僕の気持ちは相手の事務所にたどり着く10歩手前で打ち砕かれたのである。
こういうことはやめてほしい、という僕の言葉に「一言だけ謝りたくて」と言う女史。いや、それは君のわがままだし、身勝手だよね、という僕に「すみません。本当に一言謝りたかっただけなんです」と女史。
さすがに僕は少し声を荒げたのだけれど、「一言謝って、ラクになるのは君だけじゃないの?」と言ったのだけれど、相手は「すみません。一言だけ」を繰り返すだけだった。
ほんの数分の出来事だったけれど、僕には衝撃だった。人を待ち伏せまでして、こんなくだらないことに付き合わせようとする人間がいるのだという衝撃。そして、そこまでして、自分自身がラクになりたいのだという業の深さを見た衝撃。
その日から、以前、一緒に働いていた女史と、彼女をそそのかした共通の知人に対する驚愕がさめず、仕事が手に着かないのである。
そして、その日から、僕はその女史がメールや電話、または手紙で今回のことを詫びて、改めて「お会いしたい」という連絡をしてくるのだろうと思っていたのだ が、連絡は一切ない。こちらは、「会うつもりも、詫びを聞く気持ちもない」という明確な返事をもって待っているのだが…。
ただ、女史をそそのかした共通の知人からは「調子に乗って土足で踏みいるようなまねをしてすみませんでした」というメッセージが送られてきた。しかし、その締めくくりが「でも、私は植松さんが大好きなので、これからも話したいと思います。また、会います!」というトチ狂った言葉であった。
このメッセージの返信欄に僕は「ふざけるな」と打ち込んだままにしてある。そして、今日、明日にでも送信ボタンを押してしまいそうな予感がしている。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
アメちゃん
うううん。10年前、どれほどのことをこの女史がしたのかわかりませんが
10年経って、当時の自分の幼さやいたらなさに気づいて
居ても立っても居られなかったんでしょうね〜。
uematsuさんの事務所でなく、他のところで待ち伏せたのは
ほかのスタッフの方に見られたくなかったのかもしれませんね。
「会うつもりも、詫びを聞く気持ちもない」という返事を持ちながら
女史から「会いたい」と連絡がくるだろうと思ってる矛盾に、ちょと笑ってしまいましたが
気持ちはわかります。
私も、昔勤めていた会社の同僚と、会社を辞めてからも時々会ってたのですけど
会うたびに、人のうわさ話(お金を借りにきたとか)や部下の愚痴ばかりで
ほとほとウンザリしたので、「もうそういう話題ばかりで疲れた」って伝えて
一切連絡をたったんです。
そしたら、1年ぐらい経ってからかなぁ。
「私は、あの時のことはもう何とも思ってないので、また仲良くしませんか?」
っていう、とんちんかんメールが来ました。
いやいやいやいや。そのセリフ、どっちかっていうとこっちから投げるセリフっ!
って思いましたよ。
もっとも、許す許さないを通りこして、その子とは会いたいとも付き合いたいとも
もうぜんぜん思わないので、これからも連絡とるコトはないですが・・。
nao
「ふざけるな」を送信しても通じないような気がします。
「ごめんちゃい」なんて返されたら立ち直れない。。
相手に対する想像力がないのだろうな、と思うとともに
想像力を働かせなくてもいいような相手だと思われている気がしてめげてしまいます。
待ち伏せって、怖いですね。
uematsu Post author
アメちゃんさん
連絡はなくていいんですが、
こんなやり方をするくらいなら、
電話してきやがれ、
と思うのでした。
色恋ならともかく、
仕事の件だというのが、
より気持ちをすさませてくれるのでした。
uematsu Post author
naoさん
やっぱり、そう思いますよね。
結局、僕も送りません。
今回の件で、より怖くなってしまいました。
くるりん
自分だけの辞書を片手に、相手の言葉や行動を”自分に都合よく”翻訳している。
待ち伏せの主はそんな方なのではと思います。
植松さんご自身も、相手の言葉や行動を自分の辞書で翻訳なさっておいででは?
ただ、その辞書が…多くの方と同一言語で書かれているから問題なく理解し合えるだけかと。
今回待ち伏せにいらした方の辞書は、他言語なんだと思います。
そして、想像の域を出ませんが…とても心の弱い方なのではないかと思います。
暴れることで感情のコントロールをを放棄し、そうさせた相手が悪いと思い込んでいるように感じます。
今回の謝罪、もそこで思考停止しているようですし、そのための行動(待ち伏せ)がが間違いなんて認める強さも真の意味での謝罪も怖くて考えられないのかなと。見当はずれかもしれませんが。
お気持ちがすさんでいるところにかけるべき言葉が浮かばず、私見で長々書いてごめんなさい。
ご自身の感情の波がおだやかになり、また心に光があふれますように。
uematsu Post author
くるりんさん
他言語ですか。
他言語ならいいですね。