アイスコーヒーの季節に、サッチモを思う。
気温が25度を超えた今日、おそらく今年初めてのアイスコーヒーを飲んだ。関西人はアイスコーヒーを「冷コー(れいこー)」と言うらしいですね、と十年ほど前に聞かれたことがあるけれど、そんなことは言わない。僕らの父親の世代は確かにそう言っていたが、今は言わない。大阪の喫茶店で「レイコちょうだい!」と言ってもきっとアイスコーヒーは出てこない。ちなみに昔の大阪でも書くときの表記は「冷コー」で読み方としては「れいこ」だった気がする。
ちなみに、「レモンスカッシュ」は「れすか」、「クリームソーダ」は「くりそ」である。どれも、喫茶店の店員がそう言っているのは若い頃に聞いたことがある。可愛い若い女性が彼氏と初めてのデートで喫茶店を訪れる。「僕はアイスコーヒーにするけど、君は何にする?」と彼氏が優しく聞くのである。すると、若い女性はちょっと恥ずかしそうな顔をしながら「それじゃ私はクリームソーダにしようかしら」と答える。彼氏は「すみません。アイスコーヒーとクリームソーダをください」とウエイトレスに伝える。すると、そのウエイトレスは愛想のない大声をはりあげて「マスター!レイコ、ワン!クリソ、ワン!」と言うのである。「クリソ」て…。
普段、スマートホンをスマホというのが大嫌いな僕だけれど、飲食店で働く人たちが使う略語は嫌いではない。あ、そう言えば、昔、奈良にあった『山』というジャズ喫茶。ここは、工場を改造したようなだだっ広いお店で、しばらくの間、ここに通っていたことがある。
今ぐらいのちょうど春と終わりの暑い日だった。マスターは客の来ない店のカウンターの隅で、ときどき何かをハンダ付けしたりしてしたがあれはなにをしていたのだろう。そして、僕は馴染みになると勝手にレコードを掛けたりして時間を過ごしていた。そこに、真っ赤な帽子を被った妙齢のご婦人が現れたのだ。歳の頃ならおそらく四十代の半ばあたり。たまたま迷い込んできたような風情だったが、肝が据わっているのか、カウンター席のしかもマスターの定位置の真ん前に座るのだった。
逆にマスターは目の前に初対面の真っ赤なツバの広い帽子を被ったご婦人が現れて、どぎまぎしている。
「コーヒーをいただこうかしら」
「はい、ブレンドコーヒーでよろしいですか」
「そうね、ブルマンで」
「ブルーマウンテンですか?」
「えっと、いえ、ブルマンをください」
「あ、そうですか、はい。では、ブルマンで」
と、ちょっとちぐはぐな会話のあと、マスターはブルマンの豆が入った缶をあけてコーヒーを淹れ始める。
「なにかリクエストがあればかけますよ」
「そうね。じゃあ、サッチモをかけていただけますか」
「ルイ・アームストロングですね」
マスターがにこやかな笑顔でそう返すと。
「いえ、サッチモをお願いしようかと」
「サッチモは愛称で、フルネームだとルイ・アームストロングなんですよ」
「あら、そうなの。たぶん、違うと思う。私が聞いたことがあるのはサッチモって名前なの」
「あ、そうですか…。えっと、はい、サッチモは何をかけますか」
「マスターにお任せしますわ」
というこれまたちぐはぐな会話のあと、奈良の片隅にあったジャズ喫茶「山」の店内は、サッチモの温かい声で歌われる『この素晴らしき世界』で満たされるのであった。
ほんと、世界は素晴らしい。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
ネコのマロンとは?→★
「ネコのマロン」販売サイト
https://store.line.me/stickershop/product/1150262/ja
クリエイターズスタンプのところで、検索した方がはやいかも。
そして、こちらが「ネコのマロン、参院選に立つ。」のサイト
http://www.isana-ad.com/maron/pc/
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。
アメちゃん
ああー。uematsuさん、同志!!
私もスマホ(文字にするのもやだなぁ)って言葉、嫌いです。
あまりにも巷で当然のごとく使われてて、私は肩身がせまかったですよ。
ほかにも
ケータイ、パンスト、トリセツ、マクド、スタバ、ロイホ、などなど
基本、略語は嫌いですねぇ。
って、ここまで書いてたら
たった今、ラジオで
「昔、コールコーヒーのことを「冷コー」って言ってませんでしたか?」
ってリスナーのメッセージが読まれましたよ!
コールコーヒーって、、いかにも喫茶店っぽい。
uematsu Post author
アメちゃんさん
コールコーヒー、いまでも使う人がいるんですね。
個人的には「れいこ!」というより、
コールコーヒーがいいな。