本当に怖い話はしていない。
みなさんは、眠るときには灯りを消すのだろうか。僕は消す。というか、消さないと怒られるので消す。本当なら、灯りを消したくない。起きたときに暗いと怖いから。隣で眠るヨメが「明るいと眠れない」というから消す。でも、本当は消したくない。怖いから。
ということで、一人でホテルに泊まるときには、灯りを消さずに寝る。そのくせ、怖い番組などを観るのは好きなので、「本当にあった怖い話」とかがあると、録画予約をしてまで観る。ホテルで一人なのに観てしまったりもする。そんな夜は、番組を観る前から、カーテンをきちんと引く。隙間があると、そこから魔物がのぞくかもしれないから。そして、先にシャワーを浴びておいて、後からシャワーを浴びなくていいようにする。目を閉じてシャワーを浴びていると魔物にほっぺたを触られたりするかもしれないから。そして、灯りを煌々とつけて布団から手足を出さないようにして背中をピタリと壁につけてテレビを観る。なにしろ、手足が布団から出ていると魔物にぺろりとなめられるかもしれないから。
そこまでしても、怖い番組を観るのは、要するに、「自分のそばに本当に怖いことは起こらないだろう」と思っているからだ。ところが、うちのヨメである。彼女は今でこそほとんどないらしいのだが、若い頃はいろいろ見えたらしい。だから、僕が怖い番組を観てキャーキャー喜んでいると、「本物が見えたら、喜んでられへんのに」と真顔で言う。
以前、まだ子供が生まれる前だったか、生まれた直後だったか…。こんなことがあった。
夜中に、隣で寝ていたヨメがガバッと跳ね起きたのである。何事かと思っていると、急にヨメが「電話するわ」と言い出した。夜中の2時か3時頃である。こんな時間にどこへ、と思っている間にヨメは電話を取り、小声で話し出す。
「うん、うん。ちょっと気になって」
「なるほど、うん。そうか、やっぱり」
「そしたら、また日が明けたら連絡いれるから」
そんな言葉を発して、電話は終わったのである。
「どうしたん」と僕が聞く。
「全身にお経を書いたお坊さんがね」とヨメ。
「お坊さん?」
「そうお坊さんが4人現れて、私を指さして、この子やこの子やって」
「なにそれ」
「そのうち、『あ、違う。この子と違う』言うて別のとこ行きはってん」
「ど、どこへ」
「それで、あ、と思って電話してんけど、おばさんが亡くなってはったわ」
もう、僕は怖すぎて呆然としている。ヨメは「とにかく騒がしてごめん。また、明日。眠いから寝るわ」と意外に平然としている。そして、再び寝そうになっている。こっちは怖くてそれどころではない。
「いやいや、こんな怖い話されて、寝られへんよ」と泣きを入れるのである。
「ほんま隣でそんな怖い経験せんといてくれる!」と僕は言う。
すると、ヨメは笑って答えたのである。
「ほんまに怖い話はしてへんで」
ああ、怖い。というわけで、未だに僕はホテルでは灯りをつけて眠るのである。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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okosama
uematsuさん、こんばんは。
「電話するわ」てガバッと跳ね起きはった…それ…隣に寝てはったんは、ほんまに奥さんやったんですか?
uematsu Post author
okosamaさん
えっと、それは、えーっと、
え?そうか!そうなの?
こ、こ、こわっ!