猫のさよなら
先週、実家の猫が老衰で死んでしまった。19歳。
ひょろひょろと細長い猫で、いつまでもおチビのような気がしていたのに、にんげんより4倍も5倍も早くおばあさんになって、いってしまった。
この猫、モモは、新世紀の猫であった。
というのは、インターネット経由でやってきたからである。
5つ年下の従妹が、東京の大学に入り、上京して、一人暮らしをはじめた。
慣れない暮らしにさびしくなって、買い求めたのが、モモである。
ネットの業者から、シャム猫の血統書付きと言われて、どこかの駅の改札に、引きとりに行った。
しかし、美しく成長したシャム猫・モモの腿(シャレではない)には、謎の横縞が浮かび上がった。あんた、雑種だったんかい。
いくら払ったんだろう…と下世話な気持ちがよぎらないでもないが、とはいえ、飼ってしまえばそんなのどうでもよい。従妹もそこはまったく気にしていなかった。うちの猫はせかいいち。
しかし、一人暮らしのマンションの大方がそうであるように、従妹の借りている部屋も、当然「ペット禁止」であった。
おい!従妹よ…。
昼間、従妹は大学に通う。部屋には猫が残される。猫、さびしくて鳴く。大家に見つかる。大家、怒る。
従妹は、猫の貰い手を探すか、しからずんば退去という宣告を言い渡された。
あほんだらである。
しかし、従妹だからいうわけではないが、そういう浅はかさと、掛け値なしの愛情が同時に存在しているタイプの人間なのである。
そんなわけで、モモは母の家にもらわれることになった。
当時母の家には、タロさんとガラという先住猫(オス)が2匹いたが、どちらも気だてのいい質で、気位高めのシャム(←雑種)を抵抗なく受け入れた。
モモは、ちいさなアパートの一室から、外出しほうだい、ほっておかれほうだいの田舎ライフにすぐになじみ、生を謳歌したと思う。
母は、モモを人に紹介するとき、「我が家でゆいいつ、買われた猫よ。高級なのよー。」と説明していた。正確にはネットで買われた猫です。
この間、この世でもっとも優しい猫ガラが先にいき、我らが永遠の猫タロさんも、19歳で大往生した。実家でたった一匹の猫になったモモは、祖父・父・母・甥の愛を独占し、ときに(母だけを)流血せしめ、ますます生を謳歌した。
老いて、シャム特有の(雑種だけど)細い体が、ますます薄くペラペラになっても、テーブルに飛び乗る元気は健在で、食べたいものだけ食べ、母にまとわりつき、来客の膝を渡り歩いていた。
昨年一足先にあの世に行った祖父の部屋にも、よく入り浸っていた。
週刊誌を読んだり、何か作ったりする祖父のかたわらに、平たくねそべるモモの姿が、目に浮かぶ。19 さいと、103さい。ふたりとも、同じくらいの年だったかもしれない。いなくなってしまった。
前日まで外に行きたがって、自分で外階段をおり、またのぼって帰ってきたと母が驚嘆していた。けれど、翌朝には、もう足が立たなくなっていた。
朝に父から電話をもらって、昼頃会いに行く。
目は開いているが、見えているかはわからなかった。さわって声をかけると、思いがけず大きな声で返事をした。
顔を近づけて、匂いをかぐと、死にゆくものの匂いがした。なるべくたくさん、吸い込んでおく。
次の日の11時、がんばりきったと母がメールをよこした。
19年、大きな病気もせず、のびのびと見事に生きた。猫のなかの猫。
どこで、どんなふうに生まれた猫だったのだろう。
流れ星に乗ってやってくるみたいなのが、似合う風貌の猫だった。
ところで、19年前って、そんなにネットって普及してたんだっけ?というのが、ここ数日モモの話をすると必ず出てくる疑問である。
By はらぷ
※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。はらぷさんのブログはこちら。
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まゆぽ
モモちゃん、前の日まで階段上り下りなんてすごい猫だ。
夏至になると猫の国へのゲートが開くらしいので、
猫の国に行って、幸せに暮らしてください。
うちのてんもその辺をうろうろしてると思うので、
よかったら一緒に連れってあげてください。
そして、万が一はらぷさんが身寄りのないばあさんになったら
迎えてきてくださいね。
https://tr.twipple.jp/p/13/5986bb.html
プリ子
夏至!? 今日じゃん!
モモちゃん、かわいいなあ。
昔は『チロ愛死』が可哀想で見られなかったけど、猫は逝ってしまうときもどんなときもかわいいと知りました。
今頃、栄夫さんと一緒にいるかもしれないですね。
はらぷ Post author
まゆぽさん
こんばんは。
人間の門は、夜の1時〜2時ってよく言うけど、猫の場合は夏至かあ。かっこいい。
てんちゃんが迎えてくれてるといいなあ。
モモはあっというまに行ってしまったけど、てんちゃんは心の準備をする時間をくれて、やっぱりあっぱれな猫だった。どっちもいい奴。
私が身寄りのないばあさんになる確率は限りなく高く、また、だんぜん猫の国に行きたいので、モモよ、ひとつよろしくお願いします。
はらぷ Post author
プリ子さん
こんばんは。夏至、昨日だった…。
猫は逝ってしまうときもどんなときもかわいい、本当にそうですね。
ぼろぞうきんみたいにがびがびぺらぺら(ほんとにそうなる!)になっても、目やにいっぱいでも口あけっぱなしでも、鼻をおしつけてぐりぐりしたいくらいかわいいです。
モモは、細い足のわりに爪が大きく、出っぱなしの爪が透明に光ってて綺麗でした。
そうですねえ、竹でも削ってる祖父の傍らに、また座っているかもしれません。
向こうが楽しいところだといいなあ。
はらぷ Post author
そして、このコメント欄でお詫びをさせてください!
先月の「偶然と天ぷら油」にコメントいただいていたのですが、お返事がすっかり遅くなってしまいました。
ぐみさん、AЯKOさん、本当にごめんなさい!
AЯKO
あ、コメントは心配なさらずとも大丈夫です。19年、うちの猫も19年生きました。私が高校か大学生の時から、私の子供達の遊びに付き合うまで、考えると長いっ!
モモさんは確かにお祖父さんと年は同じぐらいかもしれない。そしてほとんど日本語は理解できてたんじゃないですかね。
寂しいけれど、家族で共有している思い出を、19年分沢山与えてくれたんだよね。
甥っ子さんの絵が画家のように上手くて吃驚しました。
はらぷ Post author
AЯKOさん
このようなov40随一の遅返信コラムに、いつもコメントありがとうございます…!!
自分の実際の知り合い(猫)で、20越えはまだ会ったことがありません。話にはときどき聞くけどね。
しかし19年、子どもが生まれて大人になるくらいの長い年月ですよね。
猫はそのあいだ、何倍もの早さで駆け抜けてくわけだけど…。
祖父の取材のときにもずっと付き合ってくれて、最後にカメラマンの人が家族の集合写真を撮ってくれた時も、あたりまえのように真ん中にねそべって写真におさまりました。
ほんとうに、一緒に生きてくれてありがとうという気持ちでいっぱいだ。