もしかしたら、しでかしているかもしれないこと。
先日、短い物語を書いた。題材は、若い頃にもしかしたらしでかしてしまったかもしれないこと。実は、20才になったばかりの頃、僕は映画の撮影所で仕事をしていて、その行き帰りに自分の車を使っていた。薄給で貯金もないのにマイカー通勤していたのだけれど、もちろん、自分の駐車場も持っていなかった。
当時、車を手に入れる時にだけ、車庫証明があれば、あとは青空駐車という人が結構いた。僕はさすがにそこまでの根性はなかったのだけれど、近所にあった市役所の駐車場に車を停めていた。後にゲートができて、時間制限なども設けられたのだけれど、最初の内は自由に停めることができたので、自分の駐車場代わりに使っている人もいて、僕もその一人だった。
ある日、撮影所からの帰り。深夜になって、僕は市役所の駐車場に車を停めた。キーを掛けて帰ろうとすると、ニャアニャアと猫が鳴く声がする。気になって車の後ろ辺りを見るのだが、猫の姿はない。何度か見ても見つけられず、僕は車体の下をのぞき込んだ。すると、そこには黒い猫がいて、こちらを向いて鳴いていた。僕は自分が寝ていたところに車がやってきたので怒っているのだろうと思った。そこで、猫に「ごめんなさい」と声をかけてその場を後にした。
しかし、家に帰ってから気になりだしたのだ。本当に猫が寝ていたとして、そこに車が来たら、猫は逃げるはずだと思い至ったのだ。猫がその場に居座り続けて、こっちに鳴きながら訴えるものだろうかと。そして、僕は「もしかしたら、寝ていた猫を轢き殺したのかもしれない」と思ったのだ。そこから朝まで僕は気が気ではなかった。
翌日、僕は市役所の駐車場へ行き、車を出した。怖くて、車の下など見ることができなかった。ゆっくりと車を出して、サイドミラー越しに、自分が車を停めていた場所を見た。何もなかった。黒い猫の亡骸も、流した血だまりの跡もなく、本当に何もなかった。僕はほっとして、撮影所へと車を走らせた。
ただ、今になってもはっきりとはしないのだ。本当に僕は猫を轢いていないのだろうか。なんとなく、僕は猫を轢いてしまった気がしている。翌朝、何もなかったのは、もしかしたら、清掃業者の人がちゃんと掃除をしてくれたからではないか。でなければ、昨日帰ってから、あんなに「轢いてしまったかも」と思うようなことがあるだろうか。確かに、ニャアニャア鳴く猫を見た時に、妙な違和感があったのだ。だからこそ、「轢いたのかも」と僕は思ったはずだ。
あれか40年近い月日が経ったけれど、いまだにあの時の「轢いたのかも」という感覚は薄れることはない。いや、逆に「轢いたに違いない」という確信のようなものが腹の中に確実にある。
今日、バスで市役所のあたりを走っていると、どうやら市役所が改築されるらしい。あの時、車を停めていた駐車場にもフェンスが張り巡らされていた。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
ネコのマロンとは?→★
「ネコのマロン」販売サイト
https://store.line.me/stickershop/product/1150262/ja
クリエイターズスタンプのところで、検索した方がはやいかも。
そして、こちらが「ネコのマロン、参院選に立つ。」のサイト
http://www.isana-ad.com/maron/pc/
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在は、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師も務める。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。サイト:オフィス★イサナ
★これまでの植松さんの記事は、こちらからどうぞ。