【月刊★切実本屋】VOL.48 A校(B校)の架け橋(ゆずは苦手だが)
小学校1校、中学校2校で学校司書をしている。
勤務日数は1校年間〇〇日と決まっていて、それぞれの学校にほぼ週一のペースで勤務する日々である。やることは限られ、その優先順位で動いているわけだが、月一の業務のひとつに「図書だよりを作る」がある。
思えば私は、公共図書館の非常勤職員時代から、常に図書だより担当だった。なので、自分にとって、図書館勤務と図書だより作成は切っても切れない、喩えていえば、柿の種にピーナツ(好みの比率は人によって違えど)、1990年代の我が家におけるカレーとフルーツサラダ、夏の海辺にはTUBE‥のような、セット&一蓮托生(?)なイメージなのである。
週一の勤務で手間のかかる図書だよりを毎月発行することに対してネガティブな気持ちをもつ同僚もいる。わからないでもない。特に小学校は、授業利用がふつうにあり、特に司書の出勤日は人気で、6時間、ほぼどこかのクラスが図書室にやってくることも珍しくない。それが貸出返却だけならまだしも、読み聞かせやブックトークもコミであれば、その準備時間も必要なので、図書だよりを作成する時間を捻出するのが厳しい、というのは確かにあると思う。
とにかく、学校司書の仕事は無尽蔵にあるのだ、週一のくせ(?)して。
でも、自分にとって図書だよりは、業務の基本であり、レーゾンデートル(昔、村上春樹の小説で覚えた言葉)だったりする。
私の目指す図書だよりは、思わず渡りたくなる橋のような配布物。図書だよりは、学校司書という存在や展示コーナー同様、学校図書館と児童生徒をつなぐ橋だと思っている。行き来する橋は、多いほどいいし、いろんなタイプの橋があった方が楽しいんじゃないか、と思うのだ。
毎年、7.8月は合併号として発行しているが、今回の中学校の図書だよりの特集テーマは【旅をする本】にしてみた。2つの中学校の図書だよりは毎回同じテーマだが、所蔵図書はそれぞれで、A校にあってB校にない、はあたりまえなので、取り上げる本の半分は一致しないのがあたりまえ。
今回の目玉は、A校は『旅屋おかえり』(原田マハ・著)で、B校は『香港の甘い豆腐』(大島真寿美・著)だ。
原田マハさんは、実力のある手練れ作家で、キュレーターであることもあって、特に美術関係の作品の造詣の深さはさすがだが、「書きたいこと」が、自らの知識の開陳なんじゃ?と思ってしまうことが私にはたまにあって、好きな作品とそうじゃない作品に二分される。『旅屋おかえり』は、予定調和な感じは若干あるものの、わざとらしくなく、心地よい小説だった。「旅屋」がなにか興味がある人はぜひ。
『香港の甘い豆腐』は、とにかく香港に行きたくなる小説。十代にとって‥いや、すべての年代の人間にとって、街と、そこに暮らす人々が発するエネルギーに感応することは心身の活性化だし、ときに直接関係のない懸案解決の突破口になることが腑に落ちる小説。十代のときに読みたかったかも。ま、今読んだからこそ、もあるわけだが。
‥以上、図書だよりには書かなかった方向からの紹介文を書いてみた。以前、ここで感想を書いた『旅をする木』(星野道夫・著)も取り上げた。A,B両校で所蔵していたので。(以前、私がこの本を紹介した記事はこちら⇒★)
ちなみに、今まで、生徒から図書だよりの感想を言われたことは一度もない。
by月亭つまみ
ぱろる
行きたいところに行けない。
いつ行けるようになるともわからない。
希望の持ちづらい、暗い時代だけど。
この時期に「旅」をテーマにするつまみさんが素敵すぎます。
本を通じて、心は、どこにでもいけるもの。
図書だよりに感想がこなくても(その世代はわざわざ言わんだろうなぁ…)その後、どこかで手に取られてたらうれしいですよね。
そして。
子どもの中高の図書だより(なかなか親の手元には渡らないんだけど💦)私、こっそり読んでました。
公式な学校便りだけではわからない子どもの日常。
新刊の紹介に子どもたちの今や、司書さんの希いを感じ取りながら読むの、好きだったなぁ。
これからもレーゾンデートル※のお裾分け、ぜひここでご披露くださいね。
(※私も村上春樹の小説で知った言葉〜!)
つまみ Post author
ぱろるさん、うれしいコメントありがとうございます。
この時期だからこその旅特集で(^^;)、最初に「旅をすることはもちろん、気軽に外出することもままならない日々が、長く続いていますね。行ってみたい場所、そこでやってみたいことなど、なかなか実現できないのは残念ですが、こんなときこそ、本を通して、いろいろなところに出かけてみませんか。」(原文)と書きました。
正直、うさんくさいこじつけだな、と思う自分もいるわけですが、堂々とこじつけることにもなにがしかの意味があるような気もしたりして‥。
図書だより、そのままゴミ箱にぽいっもあれば、家に持ち帰られ、家族が読んでくれたり、4分割されてメモ用紙にされたり、使い終わったマスクを包む紙になったりするのかも‥と、想像するとかなり楽しいです。
最後のエール、沁みました。
ありがとうございます!!
ぱろる
もう一度お邪魔しますね。
私も、先ほど、つまみさんに
「本を通じて、心は、どこにでもいけるもの。」
…と書きながら、
「オイオイ、ホントかよ?」
って自分にツッコミ入れたので、
「正直、うさんくさいこじつけだな」
…と思うつまみさんのお気持ち、
すご〜くよくわかります。
でも、私自身が、若い時に読んだ雑誌の特集のコピーやリードに魅かれて、記事を読み、そこに紹介された本や映画から、自分の世界観を作っていったのは間違いない。
手渡してくれた、人生の少し先ゆく先輩たちには、ありがとう、っていいたい。
だから。
なにがしかのうさんくささを引き受けながら、しれっとこじつけて伝えてくれる大人の存在、いてもよし! いなきゃダメ!と思います😉
そんなつまみさんの誠実さが、またよきです💕
つまみ Post author
ぱろるさん
ああ、そうですね。
若いときは、不自然さ、わざとらしさ、うさんくささを敵視して、そういうことを言う人間にはなりたくないと思っていました。
でも、時にはどうしてもそう言わざるを得ない状況はあって、ちょっとした自己嫌悪に苛まれてきました。
でも年々、意に染まないことや、おためごかしや、こじつけを回避することが必ずしもいいことだと思わなくなってきました。
ぱろるさんのコメントは、それをまさに明文化してくださっている気がします。
あらためて、ありがとうございます。
凜
つまみさん、こんにちは。
昨日「香港の甘い豆腐」読みました~
なるほどこれはティーンズに勧めたくなりますね。
40代の私でもふわっと心も体も軽くなるような錯覚に陥りました。
そしておばあちゃんがカッコいい!
豆腐花とか中華スイーツがとっても食べたくなりました。
「旅屋おかえり」はすごく人気らしく図書館の蔵書はほぼすべて売り切れ!ラッキーなことに最後の1冊を借りられました。
今日はこれを片手に台湾スイーツのお店にいってみます~
つまみ Post author
凛さん、いつもありがとうございます。
そして、早速読んでくださったのですね。うれしいなあ。
まだ学校司書になる前に、YA向けを中心に作品を書いている濱野京子さんの講演会に行ったことがあるのですが、そこで「どうして小中学生向けの小説を書くのですか」と質問した人がいました。
濱野さんの答えは「その年齢の人たちに届けたいから」でした。
そのときは、とおりいっぺんに「なるほど」と思って、わかった気になっていましたが、わかってませんでした。
今の仕事に就いて、小中学生の成長の早さや、吸収力を目の当たりにして、その年代にピンポイントで届けようとすることの大切さや難しさや価値を痛感し、たとえそのときは届かなくても、発信することの意味や意義も考えるようになり、だからこそ、『香港の甘い豆腐』や『旅屋おかえり』を、今までの「自分ウケ」だけの基準だはなく読むようになり、そうとなれば、以前の読書より奥行きや可能性も見えたりして(スケベ心も?)今日にいたります。
そう、うっとうしがられても勧めたい本があるんですよねえ。
凜
つまみさん
再びこんにちは。
つまみさんの月刊☆切実本屋は「思わず渡りたくなる橋」ですよ。
毎回わーこんな本があるのか~つまみさんがおススメなら探してみよう!と思って全部じゃないけど読んでます。
自分の中に新しい風が入ってくる快感。自分一人ではぜったいに入ってこない風。
そしてそう思っているのは私だけではないはず。
ミカスさんとのPot Cast(ちょこちょこ分けて楽しく拝聴してます)で「反応ないことになれてますから」っておっしゃってましたけど、反応って目に見えないところでも絶対にある!というかそちらのほうが大きいのではないでしょうか。
なかなか感想を伝えるのが恥ずかしかったりちょっと勇気がいることだったりして特にこどもなら素直に伝えにくいのかもしれないですが。
でも目に見えないだけで絶対に伝わってますよ(確信)
つまみ Post author
凛さん、こんにちは。
早速、暑さに文句を言っているつまみです。
記事に対して、そんな風におっしゃっていただけて、おおげさではなく泣きそうです。
自分のやりたいことを書きたい場所で、迷いながら、時には開き直ったりやさぐれたり浮かれたり落ち込んだりしながら、8年以上続けてきて今ここにいますが、すべてが報われて余りある気持ちです。
しょっちゅう道は間違えるけれど、俯瞰すると間違ってなかったみたい、と思えることはとても幸せです。
そうですね。
つい、具体的な文字や言葉での反応以外を「反応がない」としてしまいますが、そうではないことは、自分自身を鑑みてもわかっているはずなのに。
ありがとうございます。
私の橋は、しばしば渡りづらかったり、渡った先にあるものが期待外れだったりもするでしょうが、そこも含めて、生身の欠点だらけの人間の架けた橋と(たぶん今までもでしょうが)今後もよろしくお願いいたします。
Podcastは、いい意味でミカスさんに引っ張られながら、心から楽しんでやっています。
長すぎて申し訳ありませんが、こちらもよろしくお願いします!