新幹線の車窓から。
東京と大阪を行ったり来たりする。一応、住まいは東京にあり、大阪の映画学校で教えるために大阪へ行く。2年ほど前までは東京で自分の事務所を開設していたので毎週行ったり来たりしていた。しかし、その事務所を閉めてフリーランスになったことと、コロナ禍でオンラインでの仕事が増えたことで、新幹線での行き来はかなり減った。それでも、月に一度程度は新幹線に乗る。
僕は新幹線に限らず乗り物の車窓から外を眺めるのが好きだ。日中、野山や海などの風景を眺めるのも気持ちが晴れるし、渓谷や岩山などのいわゆる絶景と言われるポイントを通過するのも楽しい。でも、一番好きなのはごく普通の人の暮らしを眺めることかもしれない。バスだと普通の住宅街を走ることも多いので、ぼんやりと外を眺めているだけで、買い物帰りの女性や学校帰りの子どもたちを見つけることができる。子どもたちが時には肩を組んで歩いていたり、時にはケンカをしていたりするのを見ては、どうしてケンカしているのだろう、どうやって友だちになったんだろう、と考え始めると想像がどんどん膨らんでいく。
新幹線だと、例えば東京に近づいた品川あたり。最近はタワーマンションも増えたので、路線沿いにあるマンションのベランダが見えたりする。すると、ベランダで煙草をくゆらすおじさんが、ぼんやりと新幹線を眺めていたりする。こちらがおじさんを眺めていることも知らずに、おじさんがこちらを眺めている。いや、もしかしたらこちらがおじさんに眺められているのかもしれない、なんて考え始めるとおじさんに感情移入をしてしまう。
この間は、新大阪駅の近くのマンションのベランダに親子連れらしいカップルと小さな子どもがベランダから手を振っていた。子どもが新幹線が好きなのかもしれない。駅に近づいてだいぶ速度は落ちていたのだけれど、僕が小さく手を振ったのはきっと見えていないだろう。見えてはいなくても、手を振っている親子連れを見つけたという事実と、僕も手を振り返したという事実は、僕の心の中に意外に強くのこっているのだった。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。
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