ダンドリくん
バブル景気華やかなりしころ、『ダンドリくん』というマンガが流行った。仕事でも遊びでも段取りよく効率的にしようとする主人公・ダンドリくんの活躍を描くマンガだ。なにごとも段取り、つまり手順をちゃんと考えると目からウロコだよ、という話。まあ、いま思うと、段取り段取りって五月蠅いんだよ!と思うのだけれど、いやほんと、それでも仕事をする上で段取りは大切なのである。
かくいう私めは段取りが大の苦手である。段取りというよりも、予定が二つ、三つになってくるともういけない。気持ちがザワザワして落ち着かなくなる。
最近、困っているのはオンラインの取材である。コピーライターという仕事柄、取材を頼まれることが多い。で、コロナ禍以降は、それがオンラインになって、ZOOMだのTeamsだのの画面を開いて、ビデオ会議をするわけである。こいつの便利なところは、どこにいてもまるで隣にいるように話ができる、というところ。それから、会議に入室する直前まで何をしていてもいいというところ。つまり、飯食って、爪楊枝でシーシーしてようが、パンツ一丁で昼寝をしてようが、相手にはわからない。移動もないし、Wi-Fiさえあれば参加できる。これは便利。でも、便利だからこその不便というものがある。それは、効率が良すぎて、全国各地からいろんな人が集まるミーティングや取材を1時間おきに開催することも出来るってことだ。
実際、いま僕が困っているのは、「今月25日、取材入りますか?」といわれ「入りますよ」と応える。で、「午前中抑えてもらっていいですか?」といわれて「いいですよ」と応える。これはこれでいい。しばらくして、たまたまた別のディレクターから「すみません。今月25日、取材入りますか?」といわれ「午前中抑えられてて」と応えると「あ、午後ならいけますよね」ということで、午後2時から1時間抑えられてしまう。で、しばらくして……というのが続き、なんだか知らないうちに、25日の朝10時から午後5時まで取材でびっちりという状態になってしまうことが多々あるのだ。
いやだ。それはいやだ。だって、対面で直接やる取材のときは、1日1件と決めてたのに。多くても午前と午後で2件と決めていたのに。オンラインなら、なんだか立て続けに取材してもOKでしょ?的な雰囲気が相手方にもあって、こっちもなんだか受け入れなきゃいけない雰囲気になるんだよ。
これがダンドリくんなら、きっと気持ちの切り換え方や、もしかしたら、仕事の断り方などを段取り中心に考えるんだろうけれど、僕は段取りがとても下手なので、乞われるままに受け入れてしまい、自分のスケジュールが自分で把握できなくなってしまうのである。
ああ、いやだ。ものすごくいやだ。こうなると、夜も眠れない。それなら、段取りをもっとちゃんと考えて、断るものは断ればいいのにと思うのだが、「そこをなんとか」とか「もう、頼りにしてるんです」とか「いざとなったら、なんとかしますから」とか言われると、ついつい「はい」と言ってしまうのである。
でもね、低姿勢で頼んでくる相手に限って、こっちが本当に困って相談しても「まあ、頑張ってください」とか「大丈夫ですって」とか言いながら、わりと圧を出しながら無理強いを辞めないのである。そうなると余計に、ああ、だまされたなあ、はめられたなあ、という気持ちになって、今度は悔しくて悔しくて眠れなくなる。若い頃は、いつかベテランになったら、おめえらの仕事なんて断ってやる!と思っていたのに、ベテランの域を過ぎ、ロートルになり、引退すればいいのにという歳になってもまだ、そんな扱いを受けているのである。
いやあ、人生は同じように続くなあ。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。