Posted on by つまみ
<いろんな言葉>今日は何もなかった。ぼんやりして暮らした。
昭和39年8月20日
今日は何もなかった。ぼんやりして暮らした。
武田百合子著『富士日記』上中下(中公文庫)上巻より
世界遺産で話題の富士山ですが、富士山で私がすぐに浮かぶのは
この武田百合子さんの『富士日記』だったりします。
昭和ど真ん中の時代、富士山麓の山荘での季節感溢れる日常と非日常が
瑞々しく綴られているこの日記ですが
なによりの魅力は、著名な作家の妻であり、ひとり娘の母でもある
武田百合子という人間の凡庸さと才気が自然に境目なく
共存しているところだと思います。
武田百合子さんは、勝気というかアグレッシブなイメージですが
49年前のちょうど今頃の一日は、こんな手抜きとも思える一行で済ませています。
「ぼんやりして過ごした」ではなく、「ぼんやりして暮らした」がなんだかいい感じ。
自分が、な~んにもしない不毛な一日を過ごした気分のときは
「あの武田百合子だってたまにはそうだった」と
自分に言い聞かせて安心させていることを
ここに告白させていただきます。
by月亭つまみ