〈 いろんな言葉 〉 西の魔女のことば
「おばあちゃんは、人には魂っていうものがあると思っています。 人は身体と魂が合わさってできています。 魂がどこからやって来たのか、おばあちゃんにもよく分かりません。 いろいろな説がありますけれど。 ただ、身体は生まれてから死ぬまでのお付き合いですけれど、 魂のほうはもっと長い旅を続けなければなりません。 赤ちゃんとして生まれた新品の身体に宿る、ずっと以前から魂はあり、 歳をとって使い古した身体から離れた後も、 まだ魂は旅を続けなければなりません。 死ぬ、ということはずっと身体に縛られていた魂が、 身体から離れて自由になることだと、おばあちゃんは思っています。 きっとどんなにか楽になれてうれしいんじゃないかしら」
「あの鶏にはあの鶏の事情があったのでしょう。 魂は身体をもつことによってしか物事を体験できないし、 体験によってしか、魂は成長できないんですよ。 ですから、この世に生を受けるっていうのは 魂にとっては願ってもないビッグチャンスというわけです。 成長の機会を与えられたわけですから」
「それに、身体があると楽しいこともいっぱいありますよ。 まいはこのラベンダーと陽の光の匂いのするシーツにくるまったとき、 幸せだとは思いませんか? 寒い冬のさなかの日だまりでひなたぼっこしたり、 暑い夏に木陰で涼しい風を感じるときに幸せだと思いませんか? 鉄棒で初めて逆上がりができたとき、 自分の身体が思うように動かせた歓びを感じませんでしたか?」
「今夜はこれでおやすみなさい」
— 梨木果歩 『西の魔女が死んだ』より —
selected by サヴァラン
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