敏捷な犬は、陸の「うなぎ」。つかまえるとすり抜ける、大捕り物の話。
先週木曜日、犬が逃げました。
正確には、わたしに着いてこようとして外に出てしまいました(→逃亡ではないという意味で、ここ強調しておきたい)。犬は、習慣に強く、変化に弱い。コロナ禍で夜間に外出することが減り、いつになく着替えたり、化粧したりする様子に不安になったのでしょう。ねっとり観察していると思ったら、自分も連れていけと、いっしょに外に出ようとするのです。こじゃれた本革製ネームチョーカーをつけているので、それをつかんで中にひっぱろうとしたら、古くなって首輪ほど強度のない革がブチっ。そのまま、すたこらと外に出てしまいました。何のための迷子札!!
嘘、嘘、嘘。やめてやめて。今思うと、犬の「脱走」から「捕獲」までわずか10分程度なのですが、切羽詰まったときって「楽観」と「悲観」を絶え間なく行き来するのですね。楽観で自分を支え、悲観で必死になる。その繰り返し。
スー(犬)が外へ出た瞬間は、「まあ、すぐに戻ってくるだろう」と楽観視。「おいで」と呼ぶけれど、階段を降りていく。「え?これは、まずいかも」と悲観。
ひとつわかっているのは、慌てて追いかけてはいけないということ。犬は追いかけると逃げる。そのことだけは肝に銘じ、「いや、すぐ戻る」という楽観と「道路に出て車に轢かれる」という悲観の間を絶え間なく行き来しながら、階段を降りて外に出ます。
街灯に照らされるマンションの敷地内の歩道を駆ける白い犬。今、思うと美しかった。犬の体は走るためにあるんだなあ。このまま、この先の公園を走り抜け、遠く遠く去っていく姿を想像しました。恐ろしいけれど、どこか魅惑的な映像。その後を、おろおろとあちこち探しまわるわたし。いや、いけない。そんなことになってはいけない。
スーは、何度も、近づいては、わたしに飛び掛かり、再び走って遠のくを繰り返します。慌てちゃいけないぞ。そう思って座って、小さくなって「おいで、帰ろう。スー。スー」と呼びかけます。小声のつもりでしたが、実際には必死に叫んでいたのでしょう。何事かと1階住戸の窓が開く音がします。
すぐ脇の駐車場に車が止まり、家族連れが降りてくる気配もします。近づいては遠のくを繰り返すスー。次第に「これは、長期戦になるかも」と悲観的になります。首輪もハーネスもつけていない犬をつかむ難しさ!これはね、もう、陸地の「うなぎ」です。どうやってもすり抜ける。
いったい、どんなふうにしてつかんだのか、抱き上げたのか、まったく覚えていません。とにかく「ガウ!」と、うなる犬を噛むなら噛めと腹をくくってつかんで抱き上げ、すぐさま歩き出しました。なんとも無様な抱き方です。左手に頭、右手にお尻を抱えていますが、お尻をうまく腕に乗せることができないため、犬の下半身がはみ出てすぐにも落ちそうです。歩く度にズリズリと犬のお尻が落ちていく。重い。つらい。抱えなおしてうまく抱こうとしますが、18キロのよく動く犬を安定的なポジションに置くことの難しさよ!お腹の痛い人がトイレに急ぐような前かがみの姿勢で道をヨタヨタと歩き、マンションの建物に入りました。
エレベーターはありません。3階まで、この犬を抱えて上る!途中、何度も「ダメだ。ダメだ。これは、必ず落とす。そしてまた、逃げる」と思いました。逃げて元の木阿弥になる絶望的な映像、悲観のなかでも最上級の悲観的映像が浮かびます。いや、ダメだ。それだけは何があってもダメだ。自分を奮い立たせます。気分は、もう行軍です。どうやって3階へたどり着き、どうやってドアを開けたのか。ドアノブをプッシュすれば開く方式が不幸中の幸いでした。なんとか玄関にたどり着き、ドアノブを押して開け、犬を三和土に放した瞬間、わたしは、靴をはいたままドサッと倒れ込みました。
これまでの人生。一度たりとも玄関でこんなふうに力尽き、こんなふうに倒れ込み、はーはーと激しく息をして、しばらくじっと床を見つめていた経験はありません。場所こそ違えど、「道に倒れて 誰かの名を 呼び続けたことがありますかー」の姿勢。「ひとごとに言うほど 黄昏は、優しい人好しじゃありまーせーん」わかる!と言いたい!
いろんなことを感じましたが、今、残っているのは「体当たりだったな」という感覚です。「火事場の馬鹿力」だったなとも思います。今日は、雨。あの日が雨だったら、どうだったでしょう。ゾッとします。
今日は、プリ子さんの「日々是LOVE古着」、更新されています。今日は、高円寺!この充実ぶり。リンク先もぜひご覧ください。素敵な服、たくさんあるなあ。
都忘れ
カリーナさん、ほんっとうにお疲れ様でした!
小柄なカリーナさんが、18キロのスーちゃんを抱っこ…というか抱えている様子を想像して、泣き笑いしました。
同じように、首輪がスポン!と抜けてしまって、素っ裸?の犬を追いかけたことがあります。
普段、大人しくて、どんくさい子なのに「いやっほう♪」と言っているかのように、楽し気に、時々、私の方を振り返りながら、どんどん走って行きます。待って~~~!
あの時の焦る気持ちと、無事につかまえた時の脱力感といったら…。
犬は、かわいくて、かしこくて、おもしろいですね~。