正義を貫くにせよ、保身に走るにせよ。泣くときは、一人で。
こんにちは、カリーナです。
ジャニー喜多川氏の忌まわしい性加害問題に至極真っ当な提言をした音楽プロデューサーが、突如、所属事務所から契約解除を言い渡されてからの経緯が大きな議論を呼んでいます。
その音楽プロデューサーが「全真相」として書いた日刊ゲンダイの緻密でエモーショナルな文章、わたしはだれが気になったって事務所の現社長(2代目)が気になりました。切ない。切なくて哀しい。いま、自分がやったことを後悔して布団から出れなくなっていないだろうか。
彼(現社長)は、こんなことで松尾さんと向きあいたくはなかった、性加害は当然許されないことだし、松尾さんの話も正論、でも……(中略)マネージメントの中途解約を切り出した。
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涙を流しながら解約の弁をくり返す彼(←現社長)に、ティッシュを差し出すぼくまでもらい泣きしたのは一生忘れられないだろう。
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SCは6月末での契約終了を強く求めてきたが、業務の引き継ぎを考えるとそれはあまりに性急だとぼくは感じた。
涙を流しながら目の前の相手に決別を告げたら、その相手がもらい泣きしてティッシュを差し出し慰めてくれるという立場の逆転した珍妙な光景。「わたしはあなたを心底では切りたくない。だから苦しい。この気持ちわかってください」の涙か。「わかって黙って去ってください。この涙に免じて」という狡猾さの混ざった涙か。まあ、本当に悲しかったんでしょう。苦しくもあったんでしょう。情けなくもあったでしょう。
調べてみたら現社長は、40代半ば。おそらく「松尾さんの話も正論」と言ったのは本心なんだと思う。世代的に何が問題で、何がいけないのかはわかっているはず。でも、父である初代社長には意見できなかった。絶対的存在なのか。ずっと言えないまま、会社を継いだのか。生まれつき目に障がいがあり、いつもサングラスをかけているとインタビューで語っていました。恵まれたばかりの生い立ちではなかったようです。
せめて「父さん、気持ちはわかります。義理人情もあるでしょう。仕事にも響くでしょう。でも今、この音楽プロデューサーを切ったら、SNSやラジオですべて語られてしまいますよ。首にするのは、ほとぼりが冷め、みんなが忘れたころにしましょう」ぐらい言えなかったのか。
小賢しい妥協に見えるけど、しばらくの間、老いた二人の権力者(初代社長と大物ミュージシャン)を「あなた方は、時代を読み間違えている」と黙らせておくことができるし、それができれば音楽プロデューサーの活動が制限されることはなかったし、自分も会社も火の粉を浴びなくて済んだし、ファンを失望させることもなかった。もしかしたら、これを老権力者たちとの決別の狼煙にして、自らの哲学で会社を導く一歩にできたかもしれない。でも、従ってしまった。
サスペンスドラマにしばしば登場する「僕もこんなことやりたくないんだと泣きながら、相手の首を絞めて殺す」ってこういう構造から生まれるんだと冷え冷えする思いで読みました。
つまり、どっちに行っても誰かに責められるなら、より怖くないほうを殺める選択。
だれにノーと言うべきか。その決断を迫られる瞬間は、いつ訪れるかわからない。だれにとっても不意打ちだ。
正義を貫くにせよ、保身に走るにせよ。泣いて許しを請いながら手を下しちゃだめだ。それは卑怯だから。あとで恥ずかしくなるから。彼は今、深く自分を責めていると思う。違うかな。ま、すべて妄想です。