第8回 「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」
「どうする? Over40」読者のみなさん、こんにちは。
先週は、ひさびさに更新した記事に対するたくさんのあたたかなリアクション、ありがとうございました。うれしかったですー!!
さて、今日ご紹介する映画は「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」。
第二次世界大戦中、ドイツが誇った無敵の暗号機「エニグマ」を解読したイギリスの数学者アラン・チューリングの物語です。
◆あらすじ
1939年、イギリスがヒトラー率いるドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦が開幕。
天才数学者アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)は、英国政府の機密作戦に参加し、ドイツ軍の誇る暗号エニグマ解読に挑むことになる。エニグマが“世界最強”と言われる理由は、その組み合わせの数にあった。暗号のパターン数は、10人の人間が1日24時間働き続けても、全組合せを調べ終わるまでに2000万年かかるというのだ――!
暗号解読のために集められたのは、チェスの英国チャンピオンや言語学者など6人の天才たち。MI6のもと、チームは暗号文を分析するが、チューリングは一人勝手に奇妙なマシンを作り始める。子供の頃からずっと周囲から孤立してきたチューリングは、共同作業など、はなからするつもりもない。 両者の溝が深まっていく中、チューリングを救ったのは、クロスワードパズルの天才ジョーン(キーラ・ナイトレイ)だった。彼女はチューリングの純粋さを守りながら、固く閉ざされた心の扉を開いていく。そして初めて仲間と心が通い合ったチューリングは、遂にエニグマを解読する。
しかし、本当の戦いはここからだった。解読した暗号を利用した極秘作戦が計画されるが、それはチューリングの人生はもちろん、仲間との絆さえも危険にさらすものだったのだ。さらに自分に向けられるスパイ疑惑。そしてチューリングが心の奥に隠し続け、ジョーンにすら明かせなかった、もう一つの大きな悲しい秘密。
あらゆる秘密と疑惑が幾重にも積み重なり、チューリングの人生は思わぬ方向へと突き進んでいくが――。(公式サイトより)
実はこの紹介コラム、映画を見てからすぐに書き始めたものの、ここ数日ず~~~っと書きあぐねていました。
どういうふうにご紹介するのが、この映画の面白さをいちばん伝えられるのか、書いては消し、書いては消しの繰り返し……。
なぜなら、この映画の主役を演じたイギリスの人気俳優、ベネディクト・カンバーバッチさん(以下ベネさん)のことがわたし、大好きなんですよね。
勢いにまかせて書いてしまうと、ずーーーっとベネさんの話ばっかりしそうで、それは映画紹介としてどうなのかと思ったりするわけで。
で、そうしている間にも、記事公開のタイミングが遅くなるわけで。
ええい、もう勢いにまかせておもしろかったよ~すばらしかったよ~という話をしてしまおう! と腹を決めた次第です。
だって、1人でも多くの人に、このほんとうにおもしろくてよくできた、すばらしい映画を見てもらいたいですから。
見終わってまず、わたしほんとうにこの映画が好きだなあ……としみじみ思いました。
年に1本か2本、ああもうこの映画を構成する要素とその配分がたまらなく好きだ! と思えるものに出会うのですが、まさにそれです。
要素とその配分というと、映画の話ではないようですが、私の中ではすっごく好きな味のお料理に近いような気がします。
今回の「イミテーション・ゲーム」は、史実をもとにしたということもあり、物語自体がとても強い存在感を放っています。
まず、これがたまらない。
加えて「いったいこの先どうなるの?」と見る側をひきつけるダレない話運び、それを織りあげていく魅力的な登場人物たちと、最高の材料がそろっています。
とにかく、脚本がほんとうによくできていてすごい。
アカデミー脚色賞に輝いたのは、ダテじゃないぜ!!
そして、ここに戦時下という重苦しく厳しい時代がもたらす過酷さと、
主人公チューリングが抱える秘密が、苦さや哀しさを映画全編にまとわせ、それがこの映画になんともいえない奥深さを与えています。
このアラン・チューリング役にベネディクト・カンバーバッチを起用したのは大正解。
彼がスターダムにあがるきっかけとなったイギリスのドラマ「シャーロック」でも、天才過ぎて周囲から浮いてしまう役を演じており、おそらくはあれを受けてのオファーなのでしょうけれど、あの時とはまったく違う「天才ゆえの孤高」を繊細に演じています。
他人とうまくコミュニケーションがとれないけれど、自分を理解し、許容し、「いて、よし」と言ってくれる存在を心の底から求めているチューリングの人物像を、いじめられっ子だった少年時代のエピソードや、プロジェクト唯一の女性メンバー、ジョーンとのやりとりを積み重ねる中から、実に魅力的に、多面的に描き出しているなと思いました。
実際のチューリングがどんな人だったか、断片的残ってる記録を読む限りでは、やはりちょっとつきあいづらそうな、難しそうな人だなーと言う印象です。
が、映画の中の彼は、とても不器用で、傷つきやすく、魅力的な人物になっています。
固く閉ざされた扉に遮られてはいるけれど、中には実に美しい花々が咲く花園がある…映画の中のチューリングはそんな人物のように私には思えました。
見ているうちに、すっかりチューリングのことが好きになっちゃうんです。
そんな魅力的にな人物が辿る運命はあまりにも過酷で切ないものですが、見終わった後、か細い光のようなほの明るい気持ちにもなるのが実に不思議です。
アカデミー脚色賞をこの映画で受賞したグレアム・ムーアのスピーチを、映画を見た後に改めて読むと、マイノリティや居場所がない人たちに対する彼の優しいまなざしに本当にぐっときます。
そうか、こんなことを考えている人が書いたのだから、あんなに魅力的なチューリングが映画の中に表れたのだなあとしんみりしました。
ふだん映画を見ない方にも、この作品は、ぜひ真っ暗闇の中で映画と自分が対峙する映画館で見ていただきたいなと思います。
いまねえ
ども!
あーーー!早く観たいです!
私もベネさんファンですしね!
この映画がきっかけではないのでしょうが
チューリングさんの名誉回復がなされたと聞きました。この事についてベネディクトも言及していますが
本当に彼の偉業がなかったらイギリスはどうなっていたか、今のコンピューター時代はどうなっていたか?
私もこの映画が無ければ知る事なかった人ですので、そんな背景含めてとっても興味あります!
アンジェラ
うふ、待ってました♡
アカデミー賞候補の作品の中でも気になっていましたが、
暗い話だと嫌だなあ、と考えていたものでした。
カンバーバッチは好きなんですけど。
うーん、でも観る候補にしなくちゃ、とすっかりその気です。
今春は久々に観たい映画が目白押しです。
「6才のボクが、大人になるまで」ももうすぐ終わりそうだし、
「ナイトミュージアム」、いつもはTVでやるからいいや、と思うのですが、
ロビン・ウィリアムズのために観なくては(泣)ですし、、、
素敵な記事、ありがとうございました。
しばしの間、何を観るか悩ましい時間を楽しみま〜す。
はしーば
あーっ、小関さん、やっぱりそんなに面白いんですね!
もう、年度末のぱっつん、ぱっつんに忙しいこの時期に、どうしてこうも見たい映画が重なる〜‼️がるるる〜。
今週末、なんとしても時間を絞り出して、暗闇で見てきます。
小関祥子 Post author
>いまねえさん
コメント、ありがとうございます!
そう、この映画の前にチューリングの名誉回復はされているんですよね。
脚本を書いたグレアム・ムーアもまた、自らがゲイであることを公表しているそうで、
自分のセクシュアリティや愛する人への気持ちを隠さなければいけなかったチューリングと
その時代までの大勢のチューリングたちを思うと、ほんとうに胸が痛みます。
映画としても、とってもよくできていて何より面白いですし、演出の細やかさもすばらしいです。
ぜひぜひ、ごらんください!
小関祥子 Post author
>アンジェラさん
コメント、ありがとうございます!
うーん、確かに暗い話ではあるんですけれど、どうにもならなかった重苦しい事実を
創作が救っているような、ふしぎな明るさもあります。ぜひぜひ。
「6歳のボクが大人になるまで」もよかったですし、「ナイト・ミュージアム」もはずせませんよね。
見たい映画がたくさんあることの幸福をかみしめる春であります。
小関祥子 Post author
>はしーばさん
コメント、ありがとうございます!
そうなんです、おもしろいんです。そして、ようやく「シャーロック」以外の主役をつとめた仕事で
ベネさんの魅力を十分に発揮できる作品がきたなあ…と感慨深かったりもします。
映画館で、ぜひ!!
マレ
小関さんのお薦めがなければ出会うことがなかった映画です(これまでも含め)
主演のベネさん初見で、タカタ社長にしか見えず困っていたのも束の間。彼のナイーブな演技の虜に。
少年時代を演じた男の子もすごいですね。休み明けの校長室で告げられた事実を飲み込んでいく様。彼の人生の方向性があの瞬間に決定づけられ、ラストへと向かっていくのですから。
グッと込み上げるシーンはいくつかありましたが、エンドロール間際のチューリング死後の解説に静かな涙が溢れました。
これからもあたしゃ小関さんの感性を信じせっせと映画館に行く所存ですw
小関祥子 Post author
>マレさん
コメント、ありがとうございます!
そして、映画館でごらんいただき、うれしいです~ありがとうございますー!!
ベネさんがタカタ社長に………(ここでググる)……ぶはっ、たしかに面長な感じが似てる…!
彼、けっしていわゆるイケメンではないですよね。
わたしも最初に見たときは「変わった顔の人だ…」と思いました。
チューリングの少年時代を演じたあの子もよかった。
あのお友達の名前を生涯開発を続けたマシンにつけていたのも、泣けてきます。
映画、特に洋画は、ほんとうに面白いものがたくさんあって、
それがなかなか届きにくい状況なのだと思います。
このコラムで、楽しい映画との出会いがひとつでも増えたらうれしいです。
カリーナ
本当によかったです。見ている間、ずっと幸福でした。
内容が幸福というわけではないのに幸福感のなかにいられるという
とてもすばらしい経験をしました。
異質な人が周囲に受け入れられる、という内容は
ハリウッド映画の得意分野ではないだろうか、と思い、
得意分野だからこそ、感動作品に仕立てられていたら、
ちょっとイヤだなあと見る前は思っていたんです。
でも、そんなの杞憂だった。
エンターテインメントの王道を知っている人たちが
節度と敬意と愛情を持って作ったら
こんなに素晴らしい作品になるんだと思いました。
鑑賞後、チューリング氏のこともあちこちで調べたんですが、
映画化される前、2012年に書かれた鈴木健氏のサイト
http://blog.picsy.org/2012/06/alan-turing100/
http://blog.picsy.org/2012/06/turing100-morita/
の記事が興味深かったです。
もっといろいろ書きたいのですが、
小関さんの「書きあぐねる」お気持ちがとてもよくわかります。
小関祥子 Post author
>カリーナさん
コメント、ありがとうございます。
それと、とてもよい記事をご紹介いただき、うれしいです。
コメントの中でカリーナさんが書いておられた
「内容が幸福というわけではないのに幸福感のなかにいられる」、
まさに、それだと思いました。
実は土曜に二度目のイミテーション・ゲームを見てきたのですが、
言葉通りにしか相手の言い分を理解できないチューリングに対し、
解読チームのメンバーたちがある一点まではもってまわった言い方ばかりしていることに
気がつきました。
で、改めてまた「うむむ、なんとうまい脚本なんだ…!」とうなってきた次第です。