四十路独女じじょうくみこの「崖っぷちほどいい天気」(16) 〜プラダを着た悪魔、にも老後は来る。
婚活を始めて以来「本気で人のツテをたどると、思いもよらない人にたどり着く」と実感する日々です。
まあ今のところは「独身いるよ? 紹介はできないけどね」という残念な四十路独男が世の中に結構いることを確認できるだけですが、統計的にいっても「友の友の友の友の友の友」で世界中の人とつながるらしいです。人のツテ、案外あなどれません。
そういえば、5〜6年ほど前にも不思議な出会いがあったのを思い出しました。ある日、私のもとに「コレクションの舞台裏について書いてほしい」という奇妙な原稿の依頼が舞いこんだのです。
コレクション。ガンダムやエヴァのフィギュアを集めてるって話ではありません。「小学生の頃から切手収集が趣味で」とか「全国のフォルムカードをそろえてます」とかいう話でも、もちろんありません。パリやらミラノやらで開かれる、あの「コレクション」であります。
おはようからおやすみまで、ゆりかごから墓場まで、オシャレのレの字も落ちていないのが私、じじょうくみこでございます。そんな自分に、まさかのファッション取材。あまりにも衝撃的だったので、うっかり引き受けてしまいました。
まだツイッターもフェイスブックもなかった頃ですから、当時はそうそう畑違いな出会いは落ちていませんでした。知り合いを通じてファッション誌の編集者あたりに話を聞ければと思ったのですが、こんな時に限って連絡が取れなかったり、コレクションのことは知らなかったり。これはヤバイぞと手当たり次第に連絡しまくり、知り合いの知り合いの知り合い…みたいな感じでツテをグイグイたぐり寄せていったところ
ニューヨークにたどり着きました。
何がどうなってそうなったのか記憶がないのですが、ニューヨークで働く1歳年上の日本人女性ヤイコさんを紹介されたのです。「ファッションといえば海外、コレクションといえばニューヨーク」っつーことで。
ヤイコさんはファッション業界とは無縁の人だったので、残念ながら取材には結びつきませんでしたが、メールのやり取りをしているうちにすっかり意気投合。仕事そっちのけで「うち泊まりにおいでよー」「行く行くー」みたいなノリで(でも格安航空券はがっちり取って)ニューヨークへ遊びに行きました。そしたら
悪魔が待っていました。
嘘です。
正しくは、ファッション誌のデザイナーをしているイギリス人女性。VO○UEとかALL○REとか、ファッションに疎い私ですら知っている超ド級一流ファッション誌の編集部で働くだけじゃなく、オシャレのレの字もない私ですら知っている超有名ファッションブランドでアートディレクターをしている方でありました。
それって、まんま『プラダを着た悪魔』じゃないですかっ!!!
プラダを着た悪魔、ご存じでしょうか。ジャーナリスト志望のさえないヒロインが、何の因果か高級ファッション誌の編集部に配属され、悪魔のような編集長にいたぶられながら成長していく…という物語。ヒロイン役のアン・ハサウェイが超絶キュートなのですが、原作小説を書いたのはニューヨークのファッション誌で働いていた元編集者。業界のリアルを描いていると大変な話題になりました。
その業界にですよ、今まさに働いている人がですよ、私に会ってもいいとおっしゃっているというのです。どうもヤイコさん、現地の知人に「日本のライターがこんな人を探していて困っている」と連絡してくれていたようで、それに反応してくれたのが悪魔、じゃなくてルーシーさんだったのです。
いやー
ファッション業界についてちょろーっと知りたいなーと思っていたら、まさかそんなゴリゴリのファッションピープルにたどり着くとは。完全遊びモードだった私は、予想外の展開に緊張しまくり。でも「これがニューヨーク! 面白いからのっかっとけファッファッファ」とヤイコさんがあんまり豪快に笑うものだから「そっか、そういうもんか」と妙に説得してしまい、ヤイコさんに連れられてルーシーさんのご自宅におじゃますることになったのです。
場所は高級住宅街アッパーイーストサイドにある高級マンションのペントハウス。ベランダからの眺望を見ただけで「オレもついにここまで来たか…」と、なんかもう天下取った気になりました。
スラリと長身スリムなルーシーさんは、タートルネックのセーターにジーンズというシンプルなファッション。おそらく四十路、場合によっては五十路か、若々しいというより年齢不詳の、気さくな女性でありました。長年ロンドンで働いていたのですが、仕事の都合で少し前にニューヨークへ移住してきたとのこと。英米両国のファッション業界に精通している彼女ですが、どうもアメリカとイギリスではずいぶん違うようで、
「ニューヨークに来て初めてパーティに行った時、ヴィンテージのニットを着ていたら入場を断られちゃったの。『あなたの服、穴が開いてますよ』だって。ほーーーんとにちっちゃなほころび見つけて、それよ!? イギリスでは古着をいかに大切に、オシャレに着こなすかを大切にしているけれど、こっちの人は新しいもの、最先端のものが全て。編集者もみんな深夜まで必死に働いて、サラリーをつぎこんで洋服を買ってオシャレしているの。ホント命がけよー」
ふうむ。やはり映画の世界は本当だったのか。働いて、買って、働いて、買って、働いて、すれ切れて。聞いているうちになんだかいたたまれなくなってきて、思わず聞いてしまいました。
くみこ「その人たちは、それで幸せなんでしょうか?」
ルーシー「彼女たちは彼女たちの幸せの中で生きているんじゃないかな」
くみこ「じゃあ、すり切れるように働き続けて年を重ねたら、彼女たちはどうなっていくんでしょう」
ルーシー「ディサピア」
くみこ「ディ…?」
ルーシー「ディサピア。ゼイ・アー・ゴーン」
Dissapear=見えなくなる、姿を消す、失踪する
ディ…
ディサピアーーーーーッッッ!!!!!!!(((;゚Д゚)))
「一線でバリバリ働いていた独身の女性って、ふと気づくと現場からいなくなってるのよ。引退したのか、クビになったのか知らないけど。50代くらいかなあ、ある日突然パッと消えちゃうのよねー」
消えちゃうのよねーってルーシーさんそれホラーなんですけど!!
独身女性が現場からディサピるってどういうことなんだろう。細かいことは聞けませんでしたが、でも一線からディサピッちゃっても人生は続いているわけで、はたして彼女たちの老後はどうなっているのやらと一人思いをはせていたらルーシーさんが一言、
「まあ賢い女性はやっぱり結婚して家庭を作っているわよねー」
あら
まさかの返り討ち?
マンションを出て地上に戻り、地下鉄の駅に向かって歩きながらヤイコさんと「地に足つけて生きていこうね」と確認しあったあの日。てかそもそも世の中にアピアしてない人間にディサピアも何もないだろってことは置いといて、ひとまず人のツテをたどっていったら人生のダメ出しされますよって話(え?)。
↓アン・ハサウェイよりメリル・ストリープに感情移入するお年頃
By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖っぷちほどいい天気」は毎週土曜日更新です。
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takeume
はーい(-o-)/
世の中にアピアしてませーん。
ちっさいちっさい井戸の中で生活してるからなー
ペントハウスなんて映画・テレビの中の「架空の世界」で一生終わりたいと思います。
それにしても、人の繋がり、侮れませんね。
真剣さが強ければ強いほど、オバマさんでも、ローマ方法にでも繋がれるのかもしれないですね(^^)
今日もプライベートを笑いにしてくれてありがとうございました(←こんな事言っていいのか??)
かえるちゃん
面白すぎますっ
巨大な部屋のクローゼットに見たことないお洋服がこんなにぃぃぃ?と言う夢をしょっちゅう観ます 稼ぎがあったら、私もディサピアしちゃう女になってたかも、です
友の友で、私にはすでにすんごい距離感あります
誰もが知ってる巨匠や、宇宙に行った方がたにぶち当たります
当然ですが、どなたも地味な人生のアタクシとは全く面識ございません
友の友の友あたりで 何処までいっちゃえるでしょうか (*_*)
たぶん月には届きそうです
サヴァラン
以前、母とお付き合いのあった方で、
随分と華やかであった方の中に
そういえばディサピアさんが数名いらっしゃいます。。。
「○○でございます。お母様いらっしゃる?」
よくかかってきていた電話がピタリとかからなくなり、
母に訊ねても「そうなの。音沙汰なしなの」と。
リボーン?リアピア?されていることを祈るばかりです。
じじょうくみ子 Post author
>>takeumeさま
はーい、プライベートを笑いにできてよかったですー(笑)
コメントありがとうございますm(_ _)m
takeumeさまも何かお困りのことがありましたら、ぜひツテぐいぐいたぐってみてください。
意外な獲物がつれるかも(投網?)
私にとっても最初で最後の経験でありました。
そしてファッション仕事も最初で最後でありました。
じじょうくみ子 Post author
>>かえるちゃんさま
いつもコメントありがとうございます〜(^^)/
ほう、そんな素敵な夢をご覧になっているのですか。
ヤダ女子力高いわ〜
私生まれてこのかた一度もオシャレ関係の夢を見た記憶がありません。やべ。
とりあえず月に行く折りには一緒に連れてってくださいませ。
じじょうくみ子 Post author
>>サヴァランさま
コメントありがとうございますう〜(*^_^*)
サヴァランママのお友達もオシャレ感度高そうですもんねえ。
そのあたりのお話もぜひうかがってみたいものです。
リボーン?リアピア?リペア?リノベ?リスケ?リツイート?
「リ」がつく言葉ってなんかいいですね。
またご連絡があるとよいですねえ。