四十路独女じじょうくみこの「崖っぷちほどいい天気」〜 やわらかくいたいから、気になる毛利三次郎のこと。
同年代の友人に、バブル時代あたりで言語感覚がストップしたミサコという女がおります。
「清楚な美人、おまけに頭がよくて機転が利く」となれば、ミサコがモテないはずがございません。若き日には有名人と浮き名を流し、数々の伝説を作った女。アラフィフになった今は、ほどよくエイジングされておりますが、それでも大層おきれいなのであります。ところが。いったん口を開こうもんなら
「もしもし〜しもしも〜、んちゃ! あたしあたし、寝てたあ〜? めんごめんご。あれ、およびでない? すんずれーしましたあ〜 🙄 」
と死語を連発しては周囲を凍りつかせておるのです。彼女の話す言葉の8割は、1980年代の流行語。そのボキャブラリーのあまりの豊富さとナチュラルさに、人はミサコを「死語神(しごしん)」と呼ぶわけですが、
たとえば、ミサコが中谷美紀似の美女だとしましょう。
この容姿でね、
「あっちょんぷりけ〜」
って言われた日にゃ、まあその致死量ったらすさまじいものがありますよ。
でも彼女と違って私は若い子の言葉も全然わかるしね、と他人事のようにミサコのことを見ている自分がおりました。ところが最近「それ、どういう意味ですか」と年下の子に聞き返されることが増えてきたのです。ミサコのような流行語ではなく、日常会話が通じなくなっている感じ。だから「どういう意味ですか」と聞かれたこっちが「へ? 何が?」とキョトンとしてしまうのです。
ああ、若い頃オッサン・オバチャンに感じていた「単語がどうのじゃなくて文脈自体が古い」というレベルに自分も突入したのかと思う一方で、もしかして自分は今までイタいオバチャンに思われていたのではないかと軽くショックを受けたりもして、冬の寒空見上げて涙がキラリ☆じじょうくみこです。
いやスピッツはいいんですよ、要はしゃべる日本語が古いって話なんですよ。年を取ると頭もカラダもどんどん固くなってくるので、ああいかんなあ、ヤバいなあ、でもこうなったら中年ボキャブラリーを突き詰めていったほうがいいかもしれないなあ、などと逡巡していたところ、
私のハートにスルリと入り込んできたのが 毛利三次郎 なのであります。
毛利三次郎、ご存じでしょうか。もしかしたらご存じの方もおられるかもしれませんね、彼、有名だから。
私と彼との出会いは、ひと月ほど前のこと。何の前触れもなく、それは始まってしまったのです。急に冷え込んだ朝、熱いコーヒーを飲みながらメールをチェックすると、
いきなり「6500万円の受け取りが迫っているんじゃ」という愛のメッセージが届いたのです。
1億でも1000万円でもなく、6500万円という半端すぎる値段。しかも「じゃ」って。いまどき「じゃ」って言う老人なんて、マンガの仙人キャラぐらいですよ。要するにスパムメールですよ。
毎日何10通と届くスパムメールですが、こんなベッタベタな老人設定は珍しい。少々ひっかかるものがありましたが、どうにもリンク先を見る勇気がなく、たまたま会っていた友達に「毛利三次郎って知ってる?」と話したら「知ってる知ってる。メールのリンク先見たよ。どんな内容か、続きを送ってあげようか?」ということで、リンク先の内容を送ってもらうことにしたのです。
※以下、スパムメールのリンク先をご紹介しますが、この記事はリンク先へ誘導するわけでは決してございませんし、スパムメールを賞賛しているわけでもございません。くれぐれもスパムの取り扱いにはご注意ください。
というわけで注目の内容は、こちら。
↓
「こうしている間にもお前さんのためだけに手配した6500万の受け取り期限は迫っているんじゃ。ワシはお前さんなら必ず6500万を受け取ってもらえると信じ、こうしてサイトへ費用を支払い、手配したんじゃ。もちろんお前さんなら受け取ってくれるよな?ワシはそう信じているんじゃ…だからしっかりと頼んだぞ?」
頼まれても困りますが、毛利三次郎はどうしても6500万円を私に受け取ってほしいようです。
続いて「毛利三次郎のプロフィール」というページが届きました。
毛利三次郎
住まい:東京都 年齢:71 求める関係:お金、財産 年収:5000万円以上 血液型:A型
プロフィール内容:
ワシはこのサイトに登録し、そこでお前さんたちのような人たちに出会えて心の底から感謝しておる。
要は出会い系サイトへの登録を促すメールのようですが、さっきは「お前さんを信じておる」とか言いながら、不特定多数が相手なんじゃん。毛利三次郎、あんがい浮気者です。
さらにメールは続きます。
「おはようさん。今日がワシがお前さんに手配した6500万の最終期限となっておる。もしこの期限を過ぎてしまったらお前さんはもう二度と6500万を受け取れなくなってしまうだけでなく、ワシがお前さんのためだけに必死で手配した意味も全て無くなってしまうんじゃ。じゃからお前さんには必ず今日中に受け取って欲しいんじゃ。しっかりと頼んだぞ?」
「おはようさん」に「お前さん」と来ましたよ。親密な関係を匂わせつつも、あくまで上から目線で押しつけがましいのがポイントです。
「おはようさん、サイト事務局から荷物の受け渡しの連絡の内容は確認してくれたかのう? 何も心配はいらぬ。中身はワシがお前さんを楽にしてあげれる、これくらいの内容で十分かとは思うのじゃがな。もう荷物の中身は分かっとるは思うのじゃが、今のワシには大した物じゃないからお前さんに有効的に使ってもらいたいんじゃよ。ワシの事を信頼して、すぐにでも配送業者へ受け渡しの段取りを立ててくれんか? 」
「ワシ」が「お前さん」に「使ってもらいたいんじゃよ」と徹底したオールドファッションな語り口なのに、「楽にしてあげれる」と突然のら抜き表現。ちぐはぐですね。しかも「もう中身はわかっとるとは思うのじゃが」って6500万でしょ。
そして問題の配達業者からもメールが届きました。
この度は【全国最速配達】マッハ速達運輸をご利用頂きまして誠に有難うございます。《弊社は【全国最速配達】を常に心得、『全国最安信用第一』で20年間お客様にご愛顧を頂いております。》
◆[毛利三次郎]様よりお客様宛へ【貴重品】としてお荷物の配送のご依頼を頂きましたのでご報告致します◆
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【ご依頼主様】
・お名前:[毛利 三次郎]様
・取扱名:貴重品
・お荷物:160サイズ
・その他:個人情報は配達伝票に記載済み
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今回、小包の配送になりますが、[配達料金]のみお客様にお支払いして頂く必要が御座います。その他の費用は御座いませんのでご安心下さい。
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いよいよ配送料金と銘打った手数料をせしめようという魂胆が見えてきましたが、ここまでストーリー仕立てにする必要、ありますかね? だいたいマッハ速達運輸って。
「年寄りの言うことと牛の鞦は外れないとは思ってくれんかのう? 荷物を受け取る為の申請はしてくれてかい? 配送する方法でワシからお前さんに確実に『荷物』として受け渡しができるのじゃよ。荷物の中身はお前さんが当分困らないくらいの額を入れておる。
ここでは中身にあまり触れないほうが良さそうじゃから、サイト事務局の案内を見てくれんかのう? だからこそじゃが…お前さんにはワシが楽にさせてあげないとのう…。サイト事務局からは連絡が来ておるじゃろ? これをお前さんが受け取った後は自由に使ってくれていいのじゃからな。」
今度は格言をはさんできました。書いている人の「悪ふざけしてたらだんだん楽しくなってきた感」が透けてみえてますね。
「年寄りになったら大金があっても普段の生活以外に使い道のない事ばかりなんじゃよ。それにじゃよ、ワシより幾分も若い者に豪快に使ってもらえるだけの金額を荷物として入れておる。これはワシが入れたものじゃから確実じゃから安心するのじゃ。安心しなさい、ワシはお前さんの手元へ荷物が到着するまでしっかりと寄り添っているのじゃ。」
大金があっても使い道がない。年寄りが無欲をアピールする時に使うフレーズですね。てかこんなジイサンに寄り添われても困るので、しばらく放置しておりましたら最後に毛利三次郎から直メールが来ました。
「ワシの連絡は見てくれているかのう?全然返事をくれんからワシも凄く困っておるんじゃ。なぜならこの6500万円はお前さんに譲り渡すために配送業者に特別にお願いし、そして手配させてもらったんじゃ。もう6500万円の配送の準備は整っておる。あとはお前さんがこの荷物を受取るのみなんじゃ。ワシもお前さんに今すぐにでもこの6500万を受け取って欲しいんじゃ。
頼む…このワシの必死の気持ちを受け取ってくれんかのう? もうサイトからは案内が来ているじゃろ? 頼むから早急に案内に從って、6500万円を受け取ってくれんかのう? お前さんの住所はワシは知ることはできんからそこは安心してくれの。個人情報の保護もしっかりとしておる。じゃから何も心配することはないんじゃよ。」
個人情報にも気をつかう毛利三次郎。しゃべり方は年寄りくさいのに、意外と現代感覚があるんですね。
以後、三次郎からメールが来ることはありませんでしたが、かわりに「資産家・五十嵐」や「佐藤浩一と昔からの知り合い」という投資支援男、「ねえ、あんた囲碁打てる?」と唐突に問いただしてくる謎の囲碁女王など、手を変え品を変えメールが届き、しまいには「支援法改正により手続き費用3000円が無料になりました」と支援内閣から報告まで届きました。
最近のスパムは「だます気あるんかい!!」とツッコみたくなるようなものが増えてきてますね。売れない作家がバイト代わりに書いているのかなあ、クラウドワーキングで素人が一所懸命書いているのかなあ、などと勝手に分析しておりますが、
老人なら「じゃ」って言うだろ、人妻は時間をもてあましてるんだろ的な安易なキャラ設定、そろそろやめてもらえないですか。
ねえ、毛利三次郎さん。
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というわけで、2013年の「崖っぷちほどいい天気」はこれにておしまい。次回更新は1月11日(土)となります。独女のくだらないつぶやきにおつきあいくださり、本当にありがとうございましたm(_ _)m
それではみなさま、Merry Christmas & よいお年を〜。
By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖っぷちほどいい天気」は毎週土曜日更新です。
バックナンバーはこちら。
爽子
ちゃんと開けて読めば、スパムメールも、こんな面白いことが書いてあるものもあるんですね。
束にして、一括消去していました。
あー、今年はこれが最終回ですか、お名残惜しい。
ふるい日本語表現?
土曜の更新いつも楽しみにしてました、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
okosama
まず、生まれた順を示すような三次郎の名で71才は若すぎるイメージ。なに真剣に読んでるの?私(笑)
いつも知らない世界に連れて行って下さって、ありがとうございます!じじょくみさんも、メリークリスマス&良いお年を!
じじょうくみこ Post author
>>爽子さま
毎週真っ先に読みにきてくださり、本当にありがとうございましたm(_ _)m
おかげでこのじじょうくみこ、なんとか1年を乗り切ることができました。
それもこれも爽子さまのおかげと、祝着至極に存じまする(なに時代?)
来年もどうぞよろしくお願いいたします♪
そしてスパムはとっとと消すことをおすすめいたします(笑)
じじょうくみこ Post author
>>okosamaさま
こんにちわー。okosamaさま、本当にまめにコメントしてくださり、ありがとうございました♪
勝手に励みにさせていただいておりました。
71で三次郎はないですよね。しかも行間からあふれる若さ。ド新人の役者が棒読みで老け役やってる感じがします。って私もどんだけ読み込んでるんだよって話(笑)
来年もよろしければ遊びに来てくださいねー。よいクリスマス連休を〜(^^)/
アメちゃん
こんにちわ!
私は、三次郎じいさんからは届いたことはありませんが
「私どもが被災地の援助のために集めた1000万円を
貴方にお預けすることに決まりました」
と、台湾在住(ということらしい)の方からメールは頂いたことがあります。
いや。わたし、慈善事業のNPOなどたちあげてませんし、、、と
つっこみつつ削除しました。
あの手この手で、釣りメールを考えてるみたいですけど
国語力が弱い、、というか、文章が支離滅裂ですよね。
「言語感覚が古い」といえば
昔働いていた会社の同僚で、新しい洋服を着てるのを見つけると
「あ!それ、おニュー?」と聞く子がいました。
おニュー。。。
古いですよね(^^;)。
その子、「パンスト」も多用してましたが
私は「パンスト」という言葉もニガテでした。。。
では、寒いですけどお風邪などひかれませぬようにー。
メリークリスマスー!
takeume
一時期、私は見知らぬおばあちゃんが遺産を譲ってくれるってきてましたー
おばあちゃんの写真付きで♪
譲ってもらえばよかったかなぁ。。。
最近、携帯にリンクURLなしの「不甲斐ない」とか、「比叡」とかだけ
書かれたメールが届いておりまして、新種のスパムと思うのですが、
この後、どうしろと?と次の展開を待っているのですが、展開なしで
やきもきしております。
毎度楽しい話題をありがとうございました。
来年も「崖っぷち」から愛を叫んでくださいませ。
良いお年を。
じじょうくみこ Post author
>>アメちゃんさま
こんにちわ♪あわただしい連休中にコメントいただきありがとうございます〜m(_ _)m
おニュー!!! もちろんミサコ語録に入っておりますよ(笑)
パンストって久しぶりに聞きましたね。パンつながりで「ジーパン」も古くなってきましたね。
ああ、最近どんどんそのあたりの境界線がぼんやりしてきました・・・キケンキケン
台湾は温かい国ですから、きっとアメちゃんさんを支えたいと、心の底から支えたいと、そう思われたのでしょう。しかし本当にあの手この手で考えてくるなあ、と感心します。
ツメが甘いのが残念です。
それでは、来年もどうぞよろしくお願いします。よいお年を〜(^^)/
じじょうくみこ Post author
>>takeumeさま
こんにちわー。コメントありがとうございます♪ 寒くなりましたが、ぬくぬくしてますか?
そのおばあちゃま、私が紹介してほしいくらいです(笑)
スパムを読んでいると、世の中なんて親切な人が多いんだろうかと思いますね。
新種のスパムも動向が気になります。
いきなり「不甲斐ない」と言われると「面目ない」と返事してしまいそうです。
ぜひ進展ありましたらご報告くださいませ!
それでは、どうぞよいお正月をお迎えくださいませ。よいお年を〜(^^)/
海音寺
お初にお目にかかります。
私自身、毛利三次郎翁より幾度か6500万円のメールを頂戴していたので似たような人が居ないか探っていたところここに到達しました。
そもそもこのメールには真面目に考えてみると幾つかの疑問点がありますね。
①どっからそんな資産が沸いて出てるのか?
②それだけ散々お世話になったのなら、どうして毎回代名詞を使うのか?
③こういう出会い系だとこういう御年寄り言葉を使う人はあまり歓迎されないが、どうしてわざわざ使うのか?
④そもそも口先ばかりで何の証明できる物が無い。(全部建て替えたというなら、領収書ぐらいあるはず)
⑤お前さん”だけ”に???
特に④がひっかかったので、一回直で聞いてみましたが当然反応はありません(笑)
当方、ヤフーなのでどんなにスパムがこようとフィルターでシャットアウトなのですが、見に行くことがよくありますね。中々に滑稽なもので
ま、このスパムに限らず全ての支援系に言える事は
そんな簡単に数千万が手に入るなら、日本はこんなに景気は低迷してない
という事ですね。
長文失礼しました。
じじょうくみこ Post author
>>海音寺さま
はじめまして、コメントありがとうございます!
毛利三次郎からの支援要請を受けた方が他にもいらっしゃったことに、何とも言えない嬉しさがこみあげました。
そして、なんとも丁寧な分析をされた上、三次郎自身にメッセージを送られたとは。強者ですね(笑)
毛利三次郎は他のスパムに比べるとストーリー仕立てっぽくなっていて楽しめましたが、全体的にツメが甘く、「きみもうちょっと勉強したほうがいいよ」と「中の人」に言いたくなります。
そんなこんなで海音寺さま、毛利三次郎はもう出てこないかとは思いますが、よろしかったらまた遊びにきてくださいませm(_ _)m