秋燃ゆる、七十路の道は恋の道。
秋もたけなわ、みなさま、どんな秋をお過ごしですか。芸術の秋、食欲の秋、スポーツの秋、秋にもいろいろありますが、個人的には秋といえば
恋
でございます。
暑苦しい夏が終わると急に人肌恋しくなるものですが、脳科学的にも人間は秋に最も発情するようにできているって本当でしょうか。最も出産しやすい時期に合わせてホルモンが働き、恋愛しやすくなるって話なんですけど
女性ホルモンが枯渇しそうな四十路もそうなんですかね、
なんつって
…
……
助けてください!!(byセカチュー)
そんなこんなで人恋しい秋、自家製梅酒のお湯割で心とカラダを温めながら、土曜夜にひっそり更新されている夜のオバフォー『SEX and the AGE』をひそかに楽しんでいるアモーレくみこです。
さて。前回の「はるちゃんの結婚、つわ子の恋。」では四十路の恋愛についてお話しましたが、このたびの里帰りではもうひとつの恋バナを聞きました。それは 七十路の恋 であります。
以前「その恋は待ったなしだから、出会ったら走れ。」という回で少しご紹介しましたが、故郷でひとり暮らしをしている母が最近やたらモテて困っている件。モーレツアタックをかけていた透析仲間の源さんが亡くなったことで幕を下ろしたかに見えた母のモテ期ですが、いやいやどうして、しっかり現在進行形で続いていたことが判明しました。
それは、はるちゃんの結婚式から戻り、実家のリビングでくつろいでいたときのこと。近くに住む姉もやって来て、女3人でとりとめもなく喋っていると、1本の電話がかかってきたのです。
「はい、ああ、どうも。え、キヨちゃん? いやわからないですね、はあ、はあ…わかりました、家にいますので。はい、では後で」
電話を切った母は、やけに不機嫌な様子。いったい何事かと思い「だれ?」と聞いてみると、
母「うん、黒川さん」
姉「ああ、例の彼氏」
く「か、彼氏い?」
姉「ほら、キヨちゃんの知り合いで、お母さんのことを気に入った人がいるって話したでしょ。あの人」
く「ああ。徳さん!!」
それは母のいとこのキヨちゃんを通じて知り合った、やもめ暮らしの徳さんでありました。
私の実家はもともと山間の僻地にあったのですが、母が高齢になって病気を患ったこともあり、10年ほど前に姉が暮らす都市部に引っ越してきました。街の暮らしは便利ではありますが、母にとっては右も左もわからない見知らぬ土地。もとより出不精の母は次第に家に引きこもりがちになり、そんなときに何かと面倒みてくれたのが近所に暮らす母のいとこ、キヨちゃんでありました。
母とは対照的に、キヨちゃんはとにかくアクティブ。数年前にダンナさんに先立たれて今はひとり暮らしのキヨちゃんですが、今日はフラダンスで明日は俳句、今夜はみんなでカラオケよと、毎日お稽古ごとや茶話会でひっぱりだこのリア充ぶり。人なつっこくて社交的、おまけに頭のやわらかいキヨちゃんがモテるのは、当然のことだろうと思います。
そんなキヨちゃんと知り合いだったのが、ご近所さんの徳さんでありました。仕事一筋の働きマンとしてがんばってきた徳さんですが、ようやく定年を迎えてさあこれから夫婦水入らず、一緒にあれしよう、あそこへ行こうと楽しみにしていたそうです。ところが徳さんの退職からわずか数日後、奥さんは不慮の事故で帰らぬ人に…。
残された徳さんの悲しみを思うと胸が苦しくなりますが、どうやらこの徳さんという人、ひとりで趣味の世界に浸るより誰かのために料理したり工作したり手配したり、そういうことに喜びを感じるタイプのようで。面倒を見たくても妻はおらず、自分の前には「老後」という名のはてしない時間が待っている。孤独を持て余した徳さんが選んだのは新たに世話を焼く相手を見つけること、つまり
恋
でありました。
「そんなに面倒見のいい人なら、いいんじゃないの? うちのお父さんは手のかかる男だったから、まめな人に愛されるのは新鮮で楽しいかもよ」
と姉とわたしは大賛成。父が亡くなってずいぶんたちますし、茶飲み友達でも近くに母のことを気にかけてくれる人がいるなら、そのほうが娘としては安心です。キヨちゃんの知り合いなら、なおさら文句なし。ご近所同士、楽しくやってくれたらいいのになあ…なんて呑気に考えていたのですが、母はどうにも渋い顔。
「だってあの人…二股かけてるんだもの」
え
ちょっとやだ何そのいきなり生臭い展開!((((;゜Д゜)))
よくよく話を聞いてみると、徳さんが最初に狙ったのはキヨちゃんだったのでした。そりゃそうだわな、キヨちゃん社交的だし話しやすいし。そうと決まれば徳さん、恋まっしぐら。毎日のように電話してきては何か食べたいものはないか、家のことで困っていることはないかとモーレツアタック。
キヨちゃん的には全くその気はないのですが、「まあ、ご近所さんだし、せっかくの縁だし…ねえ?」といつものラブ&ピースで茶飲み友達になった、というのがなんともキヨちゃんらしい。そうなると徳さんと母が、キヨちゃんを介して出会うのは当然のなりゆきでありました。あるとき母がキヨちゃんの家でおしゃべりしていると、徳さんがお手製のクッキーを持ってフラリとやって来たといいます。むげに帰すわけにもいかず、徳さんのクッキーをつまみながら3人で話をしている間に、
徳さんの瞳☆キラリ
娘が言うのもナンですが、わが母の聞き上手ぶりはすさまじいものがあり、うっかりしている男なら「こいつ俺のこと好きなんじゃないか」と勘違いするレベルです。「この女、すんごい熱心に聞いてる風だけど実際まったく興味ねえし」と家族ならわかるのですが、本人すらそれに気づいてないのがマジ魔性。そんなわけで徳さんの心情はこんな風に変化したと思われます。
キヨちゃんは社交的だけど人気者。俺のものにはなりそうもない
↓
そもそもキヨちゃんは自分でなんでもできちゃうし
↓
あ、よく考えたらキヨちゃん俺より年上だった
↓
そこいくと、じじょうさんは俺より年下
↓
カラダも不自由のようだし、男手が足りなくて困ってそうだ
↓
よし、俺が面倒を見てやらなければ
徳さん、母にロックオン。
以来、徳さんはなんやかんや口実を作っては、母に会いに来ようとアタックをかけるようになったといいます。
「2人で会うのは嫌だから、しばらくはキヨちゃんと3人で会っていたんだけど、それでも何かと電話してきては食べたいものはないか、メロンは好きかといちいち聞いてくるわけ。あんまりしつこいから、私は食事制限があるので差し入れはいらない、手ぶらで遊びに来ればって言ったの。だけど『男は何も持たないで会いに行けないものだ』って言うのよ」
…面倒くさいジイさんだな(笑)
まあそんな調子で母もなびかないもんで、ついに徳さんは「キヨちゃんと母の両方にいい顔をする」という手段に出て、現在に至る。
「今もね、キヨちゃんにお菓子を作ったんだけど電話がつながらない、どこにいるのかって聞いてきたんだけど、私がキヨちゃんの予定を全部知っているわけないじゃない。そう言ったら、お菓子を預けるからキヨちゃんに渡してくれって言うの。まったくやんなっちゃう」
彼女へのプレゼントをもうひとりの彼女に預けるって、なんだそのダメすぎる構図。大人なんだから、もうちょっとうまいことやりなよ徳さんよ。なんて考えているうちに日も陰り、姉と夕飯の買い出しに行くことになりました。玄関を出ると、家の外になにやら見知らぬ老人ひとり。いかにも意志の強そうな目をしたその人は、わたしたちの顔を見てハッとし、緊張気味にペコリとお辞儀をしました。
ああ。このお辞儀には、見覚えがある。
これはアレだ、高校生男子が好きなコの家族にバッタリ遭遇してしまったときの、バツが悪いような恥ずかしいような「ペコリ」だ。
……徳さんっ!!
その後、徳さんと母がどんな会話をしたのか定かではありませんが、スーパーから帰ると母は相変わらずへそを曲げていて、リビングには徳さんの作ったバナナロールが、お皿いっぱいにびっしりと並んでおりました。
※写真はイメージです。実物はワッフルっぽい手の込んだものでした。
四十路の恋も、七十路の恋も、いくつになっても恋は必死だ。
なんて他人事みたいに言ってる場合じゃなくて、「徳さんがあと30歳若ければ…」とか思いながらホット梅酒片手になんか泣きそう、秋の夜長のじじょうくみこでありました(とりあえずレモン増量)。
By じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖っぷちほどいい天気」は毎週土曜日更新です(第4土曜日休)
*11月22日は更新をお休みさせていただいただきますm(_ _)m
森山未來よ大丈夫だ、やがてキミには『モテキ』がやって来る。
okosama
じじょくみさん、お久しぶりです!
お母様とキヨちゃんのどちらに手渡しても、お二人の口に入るであろうと、お皿いっぱいのバナナロールを…。
二股じゃなくて、親切やと思いましょうよ、お母様!
どの世代でもちょっといないですよ?徳さんタイプ。
あきら
生臭い世界からやってきましたあきらです(笑)。こんばんは。
いつもたのしみに拝読しておりますーー。
「四十路の恋も、七十路の恋も、いくつになっても恋は必死だ。」
に、胸うたれちまいました。
だなだな。だいたい、生きてることは思うよりも必死なことなんだな、と。
ワタシも、レモン増量で泣いちゃうぞ。
じじょうくみこ Post author
>>okosamaさま
こんにちわ!わーコメントありがとうございます(*^_^*)
そうなんですよ、結局は徳さんて
「どっちが食べても、どっちも食べてもいいから、
とにかくボクの作ったお菓子を食べて食べて〜」
って感じじゃないかと思うんですよー。
だから別においしくいただけばいいだけの話じゃないかと思うんですけどね、
母のすね方を見ると、わーすごいわ女だわ、と思っちゃいました。
徳さんが好きだの嫌いだのじゃなくて、
両方にいい顔しているのが気に入らないんじゃないかと。
ちょっと新鮮でしたねえ。
ホント、わたしならナンボでもおいしくいただいちゃいますけどねー(笑)
じじょうくみこ Post author
>>あきらさま
わーい、生臭い世界からようこそ(笑) 土曜仲間のあきらさま、コメントうれしいです♪
こちらこそ、毎回更新時間を今か今かと待っている熱心なファンでございますm(_ _)m
生きていることは思うよりも必死なこと。いや名言ですね。
大人になったらもっと楽に生きられるかと思っていたこともありましたが
とんでもない甘ちゃんでした。たぶんこのまま「キープ必死」で死んでいきますね(>_<) レモンでカンパーイ♪(泣)
爽子
こんにちは、生臭い世界にあこがれて、土曜夜のあきらさんの更新にワクワクがとまらない爽子です。
お手製スイーツ持参でやってくる爺さん、かわいいじゃないですか。
すねてるおかあさんも、現役感バリバリです。いいじゃないの~~?
わたしの七十代、どうなってるんだろうか・・・あと15年!ズッコケたまんま、いくんじゃないかなあ。
じじょうくみこ Post author
>>爽子さま
こんにちわ〜いつもコメントありがとうございます♪(*^_^*)てへ
わたしの父は亭主関白(表面上はw)で何もしない人だったので
お手製スイーツを持っていそいそと現れる男子、というのがものすごく新鮮でした。
仲良くやればいいのに〜と個人的には思うのですが
母は嬉しい半分、めんどう半分、の揺れる乙女心といったところでしょうか?
いいなあ〜〜70代と言わず、今すぐ言い寄られたい〜〜(泣笑)
okosama
再び、こんばんは
お母様がじじょくみさん達お子さんに女の部分を見せたのは、お父様を見送られてからではないですか?
私の母は、父を見送ってから過去の色恋エピソードや好みの男性像を話すようになりました。
現在モテてるわけではありませんが(笑)
このコメントは、あきらさんのところ向けですかね?
じじょうくみこ Post author
>>okosamaさま
わーい、コメントおかわりありがとうございます(*^_^*)
うちの父は若くして亡くなったので、一般的なお宅とはちょっと違うかもですが
母が両親を見送ってひとり暮らしになってから「女の部分」を感じるようになったので
そういう意味では「自分の家族」を全員見送ったというのが大きいのかもしれませんね。
やはり家族がいなくなると、何かしらの解放感があるのでしょうか?
そのあたり、ぜひあきらさんとカリーナさんに解析してもらいたいですねー(^^)/