50代、男のメガネは近視と乱視とお手元用 ~ エスカレーターの前と後ろ。
エスカレーターの前と後ろ。
東京と大阪を行ったりきたりする生活を約2年も続けていると、エスカレーターに乗るときに、どっちのエリアが右側でどっちのエリアが左側だったのか、時々わからなくなる。
前の人にひっついて乗ればそれでいいのだけれど、たまたま自分の前がいなくて、後に人がくっついて歩いてくると、思わず、後ろに向き直って、自分が邪魔をしていないか気が気ではない。
ちなみに、右側に立って左側を開けるという関西方式が世界標準だと聞いたことがある。これは左側に立って、右側から追い越してもらうというのが日本人としては、普通の感覚なのだが、1970年の大阪万博を境に日本にエスカレーターが導入されたときに、たくさんやってきた外国人が右側に立って左側を開けていたのを見て関西ではそれが定着したのだと。
で、その後、順次エスカレーターが導入された関西以外では左に立って右を開けるというスタイルが定着したのだと。
いや、どうなんだろう。以前、そんな話を聞いて納得してしまって、それ以降別に調べたわけじゃないので、本当のところはわからない。わからないけれど、こんなところでいいんじゃないだろうかと思う。別に真実でなくったって。なんか納得できるから。
さて、最近、気になるのは左右ではないのである。僕が気になって仕方がないのは、エスカレーターでいちゃつく男女が、前後に連なり、前にいるものが振り返る形で後方に向きなおって抱き合ったりしている、あれが気になって仕方がない。
いつからこの国は、エスカレーター上で、互いの腰に手を回してみたり、時にはブッチュッとキスしてみたりするような、そんな国になったのだ。少なくとも僕がふと気づいたときには、そんなイチャイチャカップルがやたらと増えていた気がする。
そのときなのだが、よく見てみると、だいたい男が前で女が後ろなのである。いやもう例外がある。あるけれど、僕が見かけるこのパターンの男女は男が前の場合が多い。つまり、男が振り返って、女とイチャイチャし始める、という男主導型のイチャイチャである。
ふざけている。イチャイチャの主導は本来、女ではなかったのか!とまあ、それはどっちでもいいのです。僕が気になっているのは、上りエスカレーターでも下りのエスカレーターでも、男が前に立っているということなのだ。
下りはいい。下りは男が前に立って、万が一、女が足を滑らせた時に、前で受け止めなければならんのだから。しかし、上りのエスカレーターでは、万が一の場合、女は足を滑らせたら後ろにひっくり返るのである。そうなったら、男は女の後ろにいなければ、女を受け止めることができない。
そう。僕が気になって仕方がないのは、その立ち位置なのである。僕は物心付いたときから、そうしてきた。上りのエスカレーターに男女で乗る場合は後ろに立つ。下りのエスカレーターなら前に立つ。
誰かに教えられたのか、自分で体得したのか、どこかに書いてあったのか、そうしてきた。そして、それが普通のことなのだと思ってきた。思ってきたので、ほかの人がどうしているのか、なんて考えもしなかった。
考えもしなかったが、まあ、していない人もいるのだろう。でも、昨今のイチャイチャカップルを見ていると、そうしない人が圧倒的なのかもしれないと思い始めたのだ。
とすると、僕が今までに自分のなかで常識と思っていたものが、あっさりと崩れ去ることになる。そんなルールは世の中にはなかったのだろうか。特に「信じてやまないルール」だったわけではない。ただ、ごく普通にそう思いこみ、ごく普通にそうしてきたことが、世の中の大部分の人が、なんにもしていなかったことだとしたら、これはもう、僕という人間の根幹にある何かが、世の中とリンクしていないのではないか、などと思い始めたのである。
いや、なんだろう。何かに気づくというのは、とても恐ろしいことのような気がしてきた。
植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、オフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京神楽坂で暮らしてます。
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修りん
はじめまして。大きく頷きながら読ませていただきました。
階段を上る時、下りる時の立ち位置は確かビジネスマナーの本にも書いてあったような気がします。
道路を歩く時は車道側が男性、レストランなどの座席は奥が女性、通路側に男性。
危険な人物が近づいて来た時に男性が守ってくれるように・・・。
いつからか、そんな男性は少なくなりましたね。
私も今の彼に求めません。昔ならそれで「さようなら」でしたが、今はそれくらい目を瞑れるようになりました。
バブル時代の男性の方が「男はこうでなくちゃ!」というのがありましたね。(遠い目)
uematsu Post author
修りんさん
そうです!道路を歩く時は車道側を歩くのは男です!
こないだ「インドの地方都市を歩く時は、女性に歩道側を歩いてもらうんです」と聞きました。なぜかと聞いたら、答えは「家の方から手が伸びてきて、バッグを盗られるから」だそうです。
ところ変われば、ですね。