鳥取の犬。
映画の学校の夏合宿に参加した。大型のバス4台に分譲して鳥取の海辺の街に行き、十班以上のチームを作って映画や番組を作る。
僕の班はワンカット映画を作った。二十分以上の短編映画をスタートから最後までワンカットで一気に演じ、一気に撮影する。
撮影は二泊三日にわたり、最終日は夜明け前の4時過ぎに浜辺に集合。これまでのすべてのデータを消去して、このワンテイクにかけるつもりで撮影した。
キャストもスタッフもみんなが確かな手応えを持つほどの撮影ができた。後で見た時に、もしかしたら「あれ?」となるのかもしれないが、それでもかまわない。
他のチームもすべて撮影が終わり、午後になると機材を車に積み込んだ。荷物もほとんど積み終わると、撮影がうまくいったこともあって、なんだか疲れがどっと出てきた。
機材を積んだ車からからいったんそれぞれの宿に戻る。その時、いつもは通らない狭い路地を歩いていくと、僕の班で演出を担当した女子学生が道の真ん中にしゃがんでいる。遠目からはなにをしているのかわからなかったのだが、よく見ると、小さな白い犬の相手をしているのだった。
犬に詳しくないので、犬種はわからない。プードルというのだろうか。白くてそれほど大きくはない。きれいに散髪されているのだが、どうやら歳をとっているようで動きが少しぎこちない。
女子学生の近くには地元の女性が立っていて、頻りに犬の名前を呼びながら「遊んでもらえてよかったね」と笑っている。
女子学生も教えてもらった名前を呼びながら犬の相手をする。不思議なもので、名前を呼んでいる女子学生のほうではなく、犬は僕の足下をくるくると回る。僕はもともと犬が怖い。子どものころ追いかけられた記憶があるから、犬が近づいてくるだけでいつもなら逃げ出してしまうのだ。
しかし、この年老いた犬はこわくなかった。トコトコとぎこちなく歩き、鳴きもせずに僕の周りを回っている。
しばらく、相手をしたあとで、女子学生が「じゃあ、また来年ね!」と声をかけた。すると、飼い主の女性が「来年は会えるかなあ。歳をとって最近、急に元気がなくなったもんねえ。今日は元気だけど、来年は会えるかなあ。会えるといいねえ」と少し切なく笑う。
僕たちは犬の名を呼びながら、立ち上がり手を振る。白く年老いた犬は、僕たちのほうに一瞬近づいたあと、飼い主の方に向き直って、トコトコと歩いていった。
植松さんとデザイナーのヤブウチさんがラインスタンプを作りました。
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植松眞人(うえまつまさと) 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。 現在、神楽坂にあるオフィス★イサナのクリエイティブディレクター、東京・大阪のビジュアルアーツ専門学校で非常勤講師。ヨメと娘と息子と猫のマロンと東京の千駄木で暮らしてます。
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権太
ううっ。なんだか涙がとまらないよお。ぐすっ。
uematsu Post author
権太さん
僕も後から思い返すたびに、
なんだか切なくなってしまいます。