空の星が遠くなる。
泣きたくなるような夜には、空を見上げればいい。どんなに曇っていたって。どんなに夜空が暗くたって。その向こうには数えきれない星が輝いているのさ。みたいな歌を、それこそ星の数ほど聴いてきた。
ここでいう星は現実そのものであり、同時にメタファーだ。だから強い。だから聴き手は勝手にイメージを膨らませる。
問題はメタファーの場合。星と言いつつ、勝手に希望をイメージしたり、まだ見ぬ恋人を想像したりする。でも、いまや恋人選びにほんの少し失敗したら、付き纏われて路上で滅多刺しにされる。希望を抱こうにも誰のいうことも嘘ばかりで希望どころか信頼さえない。
星との距離は昔と変わらないはずなのに、ずいぶんと星との距離が遠くなったように感じるのは、ただ自分が歳をとっただけなのか、それとも本当にこの世界から希望とか信頼とかがどんどん失われているからか。
もしかしたら、空を見上げる気力も体力も無くしているのかも。という人がいたら、いい手があるのです。
駅のホームなどで、少し長めの階段を見つけたら、ほんの少しだけ脱力して降りてみるといい。引力に身を任せつつ、ほんの少しだるそうに降りてみるといい。すると、なんとなく自分のリズムではなく自然の成り行きで階段を降らされているような自分を発見する。身体を左右に振りながら、頭を上下に動かしながら降りていると何かに抗っても仕方がないのさ、という気持ちになる。
なんなら、「ほいほいほいほい」なんて声を出してしまうのもいいかもしれない。すると、なんだか自分がほんの少しいつもよりバカみたいで楽しくなる。
これは僕が昔からやってることなのだが、これが効くのが僕だけなのかどうかはわからない。100人に1人くらいは効くかもしれないのでお試しあれ。還暦を過ぎた今は、これをやると「まだしっかり階段を歩けるぜ」という希望にもつながる気もするし。
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植松眞人事務所
植松眞人(うえまつまさと): 1962年生まれ。A型さそり座。 兵庫県生まれ。映画の専門学校を出て、なぜかコピーライターに。現在はコピーライターと大阪ビジュアルアーツ専門学校の講師をしています。東京と大阪を行ったり来たりする生活を楽しんでいます。