カニが好きなのである。
急に涼しくなって、この間までの猛暑日、夏日が嘘のようだ。朝昼晩とエアコンの世話になっていたのに、ちょっとエアコンのスイッチを入れると「寒い」と家族から叱られる始末。さて、いよいよ秋かと思い始めたら、急に近所のスーパーにカニが並び始めた。
嬉しいじゃないの。カニだよ、カニ。僕はカニが好きなのである。特に好きなのは小さなズワイガニのメス。僕が生まれ育った関西では、セコガニと呼ばれていたが、関東のスーパーでは「メガニ」と書かれていることが多い。石川県では香箱とか呼ぶらしい。
セコガニの生きたやつを売っていれば買ってきて、自分で茹でて食べる。カニは茹でて食べてみるまで、なかなか身の状態がよくわからない。ぎっしり身が詰まっていて、甘い味噌がいっぱいのカニもあれば、身がスカスカで味噌がほとんどないものもある。
スカスカのカニだとがっかりして、ぎっしり詰まっていると「うまい!」と声が出て、良いことがあるような気さえする。本当に不思議なもんだ。
生きたカニを茹でるときのコツは、海水と同じくらいの塩水で、常温からカニを入れること。沸騰したところに生きたカニを放り込むと足が取れてしまう。これは、鳥取の民宿でカニを茹でていた爺様に聞いた話なのでたぶん間違ってはない。そして、沸騰したら15分くらいで火を止めてざるに上げる。ちょっと冷まして食べればいいのだ。
そして、僕はカニを食べると、どんなに小さなカニであっても、カニのツメ遊びをする。父親に教えてもらった遊びなのだが、ハサミの部分の身を食べたら、中に残った白いのを引っ張ってツメを開いたり閉じたりする。自分の子どもにも教えたのだが、彼らがいまも遊んでいるかどうかは定かではない。というか、たぶんやっていないと思う。ちょっと寂しいけど。
ということで、僕がカニを食べるということは、季節の味を楽しむことであり、ツメ遊びを教えてくれた父親を思い出したりすることなのである。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。