自転車が倒れたら、そりゃ支えるがな。
東京都荒川区の町屋の駅前に自転車置き場があるのです。たまたま夕方、この前を通りかかったのだけれど、幼稚園くらいの女の子を後ろに乗せたちょいとヤンキー風のお母さんが四苦八苦していたのです。まあ、そりゃね、女のを乗せたままラック式の自転車置き場に自転車を止めようとしたら、そりゃ苦労しますわね。側から見ていても、自転車がふらついて女の子が落ちやしないかとヒヤヒヤしておったのです。
そしたらね、お母さんが力技で自転車をねじ込んだのであります。すると、女の子を乗せたじてんしゃがスルリとラックに入った。入ったはいいのだけれど、隣の自転車がラックに入ったまま斜めになった。斜めになったので、その隣も斜めになって、都合5台ほどの自転車が倒れるほどに斜めになってしまったのであります。
その時、真横にいたので反射的に僕は斜めになった自転車を腕を広げて支えたのです。すると、お母さん、気さくに「あんがと!」と言うとそのまま女の子を従えて行ってしまうではありませんか。ええ〜!行っちゃうの!という僕の心の叫びはお母さんには届かない。仕方なく、僕は一台一台、自転車をまっすぐに起こしていったのです。
しかし、世の中捨てたもんじゃない。僕の心の叫びはお母さんには届かなかったけれど、すぐそばのファストチェーンの飲食店でアルバイトをしていた男の子には届いたのです。制服姿で飛んできた男の子は「なんだ、あの母親。なんで、手伝っていかないんですかね。自分が原因なのに」とプンプン怒っておりました。いやもう、怒ってくれて、手伝ってくれてありがとう。わしゃもう涙が出るくらいにうれしいよ。
というわけで、もう世の中お終いだね、という出来事と、捨てたもんじゃないね、という出来事が同時に起こった東京の空の下でした。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。