アキ・カウリスマキの復活
フィンランドの映画監督、アキ・カウリスマキが引退表明をしたのは確か5、6年前。『希望のかなた』が公開されてすぐだったと思う。アキ・カウリスマキといえば、熱狂的な小津安二郎のファンとして知られている。もともと文学を志していたアキ・カウリスマキだが、兄のミカ・カウリスマキに誘われ、小津安二郎の『東京物語』を見た瞬間に映画作家を志したのだと言う。
そんな彼はアンチハリウッドとしても知られている。以前、自身が企画した白夜映画祭(レッドカーペットも優劣をつける賞もない、ただみんなで映画を見て映画を語る映画祭)のときにインタビュー答えている。若い記者から「最近、どんな映画を見ているんですか?」と聞かれたアキ・カウリスマキは、「もう新作映画は見ない。19世紀半ば以前の映画しか見ないよ」と答えていた。もう9年前のインタビューだ。このインタビューはYouTubeでも見ることができる。その時、あまりに疲れた顔をしていて、それを心配した記者が再び聞く。「新作は撮るんですか」と。すると、アキ・カウリスマキはこう答えたのだ。「撮るさ。誰かがハリウッドをやっつけなきゃいけないだろう」と。この一言にやられてしまった。僕はアキ・カウリスマキの映画を見続けるぞとワクワクした。それから3年ほどで彼は『希望のかなた』を撮り、引退宣言をした。それからコロナ禍がありどんな心境の変化があったのかは知らない。
しかし、アキ・カウリスマキのなかで「ハリウッドをやっつけてやる」という炎が燃え続けていたことを知って、僕は嬉しくたまらなくなるのである。新作『枯れ葉』はアキ・カウリスマキ史上、もっともロマンティックな映画だと喧伝されているけれど、それはまあ、アキ・カウリスマキのフィルモグラフィーのなかで、ということなので推して知るべしではあるけれど。
ただ、コロナ禍をまたいでの新作『枯れ葉』が2023年12月15日に公開されると聞いた時にはただワクワクするだけではなく、遠くフィンランドにいるアキ・カウリスマキから「俺は新作を作って、いまでもハリウッドをやっつけようと思ってるけど、お前はどうなんだよ」と言われている気がしてならなかった。
もちろん、相手は世界の巨匠だし、こっちは創作の世界の隅っこにいて、プライベートムービーを撮ったり、脚本を書いたり、小説を書いたりしている身だけれど、それでもフィンランドからの声は「それならそれでやれることがあるだろう」とせっついてくるのだ。で、いつもは弱気な僕だけれど、今回ばかりはなんだか強気に「わかってるって。こっちはこっちでちゃんとやるから」と小さく声をあげるのだった。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。