ヨーコちゃんはいい人なのかな
いつものように、駅前のカフェで仕事をしていたら、隣の席で妙齢の女子4人がお話をしておられる。で、ずっと話題に上っているのは「ヨーコちゃん」である。いや、話題はいろいろ跳んだり跳ねたりして、多岐に渡るのだが、必ず「ヨーコちゃん」に戻ってくるのである。
どうやら、高校時代の同級生らしく、クラスのモテモテ男子だったヤマカワ君の話になったり、担任ですでに亡くなったらしい先生の話になったりするのだが、合間にかならず、「そうそう、ヨーコちゃんもそう言ってたわ」とか「そう言えば、ヨーコちゃんはどうなんやろ」とスキあらばヨーコちゃんの話題なのである。
で、どうも、このヨーコちゃんが大好きな人とそうでもない人、二手に分かれているらしく、一人がトイレにいくと、残りの三人が「けど、ヨーコちゃんって、ほんとは意地悪じゃなかった?」などと話始め、別の一人がトイレに行くと、残った三人が「私、ヨーコちゃんにはよく助けてもらったわ」としみじみ語るのである。
ということで、僕はヨーコちゃんに思いを馳せる。ヨーコちゃんは良くも悪くもクラスの中で目立ってしまう。たぶん、そこそこ美形なのだが、本人はあまり気付いていなくて、コンタクトにすればいいのに、流行じゃない眼鏡なんかかけている。男の子の中にはヨーコちゃんに思いを寄せている子もいるのだが、ヨーコちゃんが地味目なので、相手の子も逆になかなか告白できない。まあ、告白されたところでヨーコちゃんは驚いちゃって泣き出したりして。
と、ここまで妄想していると、ふと隣の席からヨーコちゃんについての新情報。どうやら、ヨーコちゃん。クラスで一番のモテモテ男子、ヤマカワ君と付き合っていたらしい。うん?そうなのか。ちょっとイメージが違うな。まあ、ヤマカワ君から告白されて、なにがなんだかわからないうちに付き合い始めたんだろう。えっ?ちがうの?ヨーコちゃんから積極的に?なるほど。そうか。その上、ヨーコちゃん。自分からヤマカワ君と告白して付き合ったのに、すぐ別の子と付き合い始めて二股疑惑まであるんだと。あらまあ。
まあ、僕の妄想もマスク効果と一緒で知らないところ、見えないところは勝手に美しく思い描いてしまうのである。と、ここで隣の席で歓声が上がる。女子の一人がヨーコちゃんの近影をスマホの画面に映し出したらしい。見たい!すごく見たい!見たいけれども見えない!
ちょっと、ポケットの中を探るフリをして、一度立ち上がってみたりしたけれど、見えない。トイレに行くフリをして見てやろうかと思ったけれど、グズグズしている間に、スマホは小さなバッグにしまわれてしまったのである。
ああ、ヨーコちゃん、どんな顔してるんだろう。そして、ヨーコちゃんはいい人なんだろうか。これからしばらく、ヨーコという名前を聞く度に、僕の妄想は広がりそうである。
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植松事務所
植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。