60代、男はゆっくりご乱心

バームクーヘンをほどく。

子どものころ、バームクーヘンはわりと高級なお菓子だった。スイーツなんて言葉もなくて、デザートなんて言い方もあんまりしていなくて、甘い物はみんなお菓子かおやつだった。で、その中でもバームクーヘンは誰かのお土産でもらうもので、親が買ってきてくれるお菓子ではなかった。

だからだろうか。バームクーヘンを普通にパクパク食べるなんて、僕には出来なかった。お皿にのった輪切りのバームクーヘンにフォークを刺すなんてもっての外。そっと手で持ち上げて、バームクーヘンの層を確認し、その最後の部分を見つけると、おもむろに下側の歯をあて、バームクーヘンをほどくのである。少しずつ、渦巻き状にクルクルと巻かれたバームクーヘン。その形状をもとに戻すべく、少しずつ少しずつ、バームクーヘンをほどいていくのである。

さて、バームクーヘンをほどいて、なにがおもしろいのだ、という声も聞こえてくる気がする。しかし、理由などないのである。巻かれたモノだから、ほどきたい。同じように、二つの層が重なっているアポロチョコだから二つに分けたい。チョコが塗られたポッキーだから、チョコだけを削りたいのである。

これはもう子どもの頃からの癖なので、どうしようもない。もちろん、いまは大人なので、人前でバームクーヘンを食べなければいけないときに、急に下アゴを突き出して、クルクルほどくなんてことはしない。ただ、フォークで一口サイズに切って口へと放り込んだ、バームクーヘンを舌で触り、口の中で半分に分けたりはしている。なぜ、と聞かれても明確な答えはないのだが、まあ、ちょっと面白いから、としか答えようがない。

この癖を僕はあまり人に言ったことがない。言わないようにしていた。恥ずかしいから。こんなことをしているのは、僕だけだと思っていたから。ところが、ある日、若い友人と一緒に喫茶店に行った時のことだ。彼女がフルーツパフェのようなものを頼むと、その隅っこにキャラメル大にカットされたバームクーヘンがのっていた。話をしながら、僕は考えていたのだ。僕なら、あのバームクーヘンを口に入れたら、また二つに分けたりしてしまうのだろうな、と。そう思いながら、パフェを食べる彼女の手元を見ていると、その手に握られたフォークがスッとバームクーヘンにのびたのである。

そのままバームクーヘンを刺して、口に運ぶのかと思いきや、彼女はフォークで刺さずに、バームクーヘンをパフェの上で転がしたのである。そして、層になった断面の合間にフォークを差し込もうとしている。刺して運ぶためではなく、その動きは明らかに、層の部分を剥がそうとしているのである。ああ、ここにもいた。巻かれたものをほどきたい人がいた。しばらく、バームクーヘンをほどこうと知らず知らずフォークで格闘していた彼女だが、結果、うまくほどけることはなかった。そして、彼女はフォークにバームクーヘンをのせると、それをそのまま口に運んだのである。

次にこの若い友人に会う機会があったなら、駄菓子屋でアポロチョコを買ってきてあげようと思った休日の午後だった。


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植松事務所

植松雅登(うえまつまさと): 1962年生。映画学校を卒業して映像業界で仕事をした後、なぜか広告業界へ。制作会社を経営しながら映画学校の講師などを経験。現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクターとして、コピーライティング、ネーミングやブランディングの開発、映像制作などを行っています。

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