運転の練習をする
13日火曜日、朝8時半。
どしゃぶりのなか、駅向こうの自動車教習所に歩いて行く。
ペーパードライバー教習を受けるために…。
すっかり忘れていたが、わたし免許を持っていた。
お財布にいつも入っている免許証が本来何のためにあるのかを忘れていたけれど、わたしは輝くゴールド免許保持者。
どうしてこんなはめになっているかというと、オットの仕事で来月北海道にいくことになった。本来行く予定だった人が突然足をねんざしたので(おい)、こちらに話がまわってきた。
オットは免許を持っているけれど、日本に来てからは運転していないので、いったんは断ったのだが、どうしても行く人が見つからないと再び泣きつかれたのだそうだ(おいおい)。
そこで、急遽日本の免許への切り替え申請をして、北海道レンタカーの旅4日間。
基本はオットが運転することになると思うが、やっぱりちょっと心配だから、あなたも乗れるようになっておいてよ、というのが今回教習を受ける理由だ。じつに理にかなった提案だと思う。行きたくない。
雨が降っているし、靴も中まで濡れてしまった。市内にはもうひとつ、家から近い教習所もあったのに、どうして遠いほうを予約してしまったのか。
それは、遠いほうの教習所のウェブサイトがだんぜんわかりやすかったからだ。そして、近いほうのウェブサイトには、トップページに「市内の教習所で7年連続ナンバーワン!」と書いてあった。
「市内」て!!…3つしかないのに…。却下である。
ウェブサイト大事。
しかしまさか歩いていくはめになるとは思っていなかったので、今となってはウェブサイトがなにほどのものだというのだ「近い」以上のなにがあるというんだこの現代病めと自分を呪いながら歩く。雨がすごい。
ところがたどりついてみると、O自動車教習所はほどよく古くてとても感じがよく、へええいつも電車から見える教習所の、入口側はこんな感じなんだ、とすっかり気に入ったのでやっぱりここにしてよかった。わたしえらい。
教習所の、高い建物のない広々としたところと植わっている植生と、練習場内の作り物感というかミニチュア感というか、そして脇に自動販売機があって、そばにベンチが置かれて生徒や教官がタバコなんか吸えるようにもなっていて、それらがいい具合に古びて色あせているところが好きだ。
いぜん免許の更新にいった、府中の試験場もよかったなあと思い出した。夏の昼下がりが似合うような感じだ。今日、土砂降りだけど。
わたしを教えることになったT先生は、顔は猪瀬直樹に似ていて、話し方は「なのね。」「なのよね。」といういい先生だった。
濡れないように傘をさしかけてくれるし、車に乗り込むと「はい」と乾いたタオルをくれる。
おお…とわたしがひるんでいると、
「最近はねー、教習所はやさしいのよ。タオルなんか渡しちゃって、ホストみたいでしょ」
と言った。猪瀬ホストか…。
教習所内をゆっくり回りながら、
「昔は教習所ってこわいってイメージでしたけどね」
と言うと、T先生は
「そうよー、でも最近はそれじゃやってけないのね。みんないまはやさしいのねっ。」と言った。
「先生もこわかったんですか」
と聞いたら、
「こーわかったのよーう」と笑っていた。ほんとかな。
十数年前、わたしが免許をとったときにかよった自動車教習所は、先生はみんなやさしかった。なので「怖い」というのは人から聞いた話でしか知らない。
でも、どうしてわたしの行ったところの先生がやさしかったかというと、それは担任制だからというのが、そこをわたしに薦めてくれた友人が言っていた理由だったし、わたしもそう思う。
明日もあさっても会う、免許をとれるまで面倒をみることになる相手にたいして、人はなかなか意地悪にはなれない。
そのとき、他の教習所の怖い先生とやらも、ここで働いたらやさしくなるのかなあ、と思ったことを覚えている。そしておそろしいことだけれど逆もきっと。
一時間ごとに、次から次へと揃いも揃って運転のへったくそな(あたりまえだけど)にんげんがやってくるのをさばいていたら、いらいらもするし、尊大にもなるかもしれない。
ことによったら、にんげん対にんげんというよりも、若いとか美人だとか、この時間はラッキーとか早く終われとか、そういうふうに人を見るようになってしまうものかもしれない。
でも、ほんとのところかつてどうだったのか知らないけれど、今となってはやさしいことがあたりまえの教習所で、T先生も、そのあとにもう一時間教わったF先生(←繰り出すギャグがことごとく古い)も、へたくそなわたしに対して、がまんしてやさしく接しているんだという感じにはみえなかった。どちらも運転が好きで、できるだけこの場を楽しもうとしていて、真剣でいい先生だった。
多くの場合、わたしもきっとそうなのだけど、表に出てくる人間性は、そのひと個人の性質よりも、おそらくもっとずっと環境に左右される。
どこにいてもつねに意地悪な人、つねに親切な人というのももちろん一定数いるけれど、けっこう多くの人はまんなかあたりに分布していて、同じ人が、環境やその場を支配する空気によって、親切側に振れたり、ときに意地悪に振れたりしているような気がする。
自分のものの考え方や態度は、ぜんぶ自分が決めているような気でいるけれど、じつはずいぶん周りから、無意識の影響を受けているのだ。
だいたい、両者のあいだになんらかの力(上下)関係や、あげる・もらうの関係が発生しうる場所で、その相手を意思の疎通や交流の必要がない相手と思ってしまうような場合、ろくなことにならない。ひとりひとりは消えうせて、ひとかたまりの属性としてだけ見るようになってしまう。
その最たるものが戦争とかだな…とぼんやり思っていたら、T先生が、
「ぼくは58歳で定年近いんだけれどね、もう年でねー、だんだん仕事じゃないときにぼんやりするようになってきちゃったのよ」
と言いだした。
えーそうなんですか、とあいづちをうつと、その次に
「制服ぬぐとただのぼんやりしたおじさんよ。きっと、警察官や自衛官もそうだと思うのよね」
と言ったので、ひえーと思った。
いま沖縄の高江で起きていることも、きっとそういうことだ。
制服を脱いだら、みんなふつうのおじさんおにいさん。
って、運転の練習しにいって、どんだけ気を散らしているのだろうか。ペーパーのぶんざいで。集中しろ!
結論をいうと、10数年のブランクを経て、意外と運転はできた。しかし右折で二度逆走した。それはできてないということなのでは…というご意見、もっともです。だいじょうぶなのか。
久しぶりにいった教習所はすごく面白かったので、また行きたい。ありとあらゆるタイプの先生がみたい。
ってそういう話じゃない。練習しろ、わたし。
by はらぷ
※「なんかすごい。」は、毎月第3木曜の更新です。はらぷさんのブログはこちら。
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爽子
昔の教習所の先生、とっても怖かったんですよ。
40年近く前になりますけれど、どやされながら、びくびく教習受けてました。
わたしのところは担任制ではなかったと思います。
一度だけ、ズボン履いてましたが、太ももをたたかれて、それが一回でなかったために、教習始まってすぐに、ブレーキ踏んで、車から飛び降り、事務所に駆け込みました。
「なめんなよ。」
怒らすとこわいで。笑
そうそう、ペーパードライバー教習、わたくしも数年前にうけました。
娘が使ってた車が就職で家を離れて、乗らずにあったことと、ゴルフを始めたことから、運転は必須項目になったからです。
25年ぶりにハンドル握るのですから、それはそれは、背中は汗でじっとりでした。
先生がとってもやさしくて、驚きました。
3コマで一日教習で、1コマ目は教習所内をくるくる走って、パーキングの練習して
2コマめ、3コマめは、路上に出ました。
右折の練習、指示器出すタイミングとか、とにかく路上はめっちゃ楽しかった。
いまの教習所はかわったなあ。。。と感心したのを記憶しています。
生徒ではなくお客様になったんだなあ。。。
いまねえ
私はほぼ20年前、38歳で免許を取りました。
なんとなく今が最後の機会だと思ったのと、
ちょうどそのとき転職を考えていて
まずは免許だ!と思ったのでしたが。。
怖かったですよ、私の担当の教官。年代はほぼ同じくらい、40代?
名物の鬼教官だったようですが、自分ばかりでなく同乗者や
路上のすべての物・生き物を巻き込む危険のある乗り物のことですから
致し方ないのかもしれません。
マニュアルで取ろうと根拠もなくこだわり、3カ月で合格できましたが
・・7kg体重落ちました。
卒業近くには鬼の教官と談笑しながら路上運転した覚えがあります。
・・・やはり車の運転は苦手でして、あの速度に頭が追い付かないというか。
ぼんやりできない時間が連続するのが苦痛で今はペーパードライバー。
ゴールド免許です。
便利の良いところにいるので車なくても大丈夫なのも要因ですね。
今は車そのものが昔と違ってマニュアル車なんてあるのか?
そもそもAT車だって昔とは異なって操作できないのでは?と
思っています。因みに免許取って無事転職した今の職場は
自宅から近いため車通勤は不許可なのでした。。
はらぷ Post author
爽子さん、こんばんは!
太ももをたたかれ…!?ひえー、密室の一大事です。。。
「なめんなよ。」(笑)
やるときゃやる爽子さん、かっこいい。
そしてペーパードライバー教習経験者であられたとはー。
私も、ひさしぶり(すぎる)の運転に、最初全身ガッチガチでした。
何周目かにふとメーターを見て
「これで30キロかあ」とつぶやいたら、
「メーター見る余裕ができてきたのよね、よかったねえー」と言われました(笑)
一コマめ(50分)、教習所内で運転に慣れて、その次にバックと車庫入れを教えてもらって、その日はそれで終わり。路上には出ませんでした。
路上は実家で練習すれば大丈夫そうだな…と思っていたんですが、爽子さんのコメントをよんだら路上教習やりたくなってきた(笑)
「生徒ではなくお客様」
ほんとこれも大きいんだろうなあと思います。
学校教育の現場でもそういう風になってきているみたいですが、どうも両極端と言うか、真ん中はないのか真ん中は…。
はらぷ Post author
いまねえさま!こんにちは。コメントありがとうございます!
鬼教官!7kg減…!!
…壮絶な教習体験がしのばれます…。
しかもマニュアル。
私は走っているあいだにしょっちゅう片手を離すなんてことができそうにありません。。。
ほんとう、車ってとっても身近な乗り物ですが、ちょっと間違えると命をうばいかねない、誰かの人生をめちゃくちゃにしかねないこわいものでもありますよね。
そういうことをたたきこんでくれる先生はいい先生だ。
私が2コマ目に教わったギャクの古いF先生は、
「運転の練習で一番だいじなことは、スピードを落とせる、ゆっくり走れるようになることです。」
と言っていて、ほんとそうだよ…!と思いました。ゆっくり走る勇気。
最後には鬼教官と談笑するまでになったいまねえさま、いいなあ。
きっと先生も「よくここまできた」と嬉しかったことでしょう(ひろみ!エースをねらえ!)。
その先生は、どんな場所でも安定して厳しそうです。そういう人はなんだか好きだ。
速度に頭が追いつかない、めちゃくちゃわかります!
あの間断なき緊張状態、耐えられないですよね…。
すきあらばぼーっとしている私にとってはたいへんな試練、そして運転後の疲れがはんぱないです。
ちなみに、教習所で前を走っていた車を「あれマニュアルだよ」と先生が言っていましたのでマニュアル車はまだ存在していました(笑)
そして AT車は私が免許をとった十数年前とかわらない気がしました。
でも、私のときはカーナビとか車庫入れのときのカメラとかまだなかったので、そういうのが搭載されている車に乗ったらどうしていいかわからないです。
爽子
わたしが教習をうけてたころって、AT車の教習、なかったんですよ。
クラッチつなぐの難しかったです。
実際乗った車はAT車ばかりなのに。
太ももたたかれただけでは、すまず、いやらしくなでられたんですわ。
ああ、今思い出しても(-_-メ)ムカムカくるわ!
ペーパードライバー教習がマニュアル車だったら、3コマの教習だけではすんでないと思います。
想像以上にどんくささに磨きがかかってました。
はらぷ Post author
爽子さま
私が免許とったときはすでにAT限定がありましたが、「AT限定?、寝ぼけてんのか」「それって免許とる意味あんの?」「ていうか免許必要なくね?」というのがおおかたの反応でありました。。。
もちろんAT車でとったです。
クラッチ?なんですかそれは?
「たたかれ」でなく「なで」でしたか…!ひえーひえー。
爽子さんが事務所に駆け込んだあと、その先生がどうなったかはわかりませんが、今だったら一発クビですね。(と思いたいけど!)
ちょっとくらいとか、悪気なければそういうことしてもいいんだと思えなくなった、そういう部分は、世の中ちょっとよくなったかな。