引っ越しました。(前編)
今年の元旦は、段ボールにかこまれて明けた。そして4日にあたらしい家に引っ越しをした。
最終契約がすんで鍵をもらったのが1月3日。三が日に不動産屋があいているとは!と思ったが、こちらの年末年始はあっさりしていて、クリスマス明けから大晦日にかけての数日間も、わりとみんなふつうに働いている(わたしの職場は、学生がいなくなるのでお休み)。
引っ越したのは、公道をはさんで徒歩3分の、今まで借りていた家とほぼ同じ間取りのテラスハウスだ。そのため、荷物の移動もほぼコピー&ペーストである。しかしコンピューターの作業と違うのは、たった3分でもすべてを梱包しなくてはいけないし、それをまたあっという間に荷解きしなくてはならないことだ。たった3分なのに、やっぱり引っ越し屋さんの手が必要だし、なんだかそれって理不尽なような気がする(そんなことはない)
引っ越しの日の翌朝は、雪!
家探しをはじめたのは、去年の6月くらい。イギリスの不動産価格はべらぼうに高く、わたしたちの予算からいって、手が届くのはもっともシンプルな二階建てテラスハウスのみである。よく写真やなんかで見るような、道のはしからはしまでレンガの長屋がつながっていて、通りに向けてドアがずらっと並んでいるようなやつ。テラスハウスといっても、豪華なものから簡素なものまでさまざまで、庶民的なテラスハウスの中でも、玄関ポーチの有無、ドアを開けて廊下があるかないか、窓や玄関ドアの装飾、などで家の価格はずいぶんちがう。わたしたちが目指すのは、1階にフロントルームとダイニング、キッチン、2階に寝室2つ、玄関開けたらすぐ道路の、質素オブ質素テラス一択だ。
住んでいる町には、そうしたテラスハウスエリアがいくつかあって、借りていた家もそのうちのひとつだ。1900年代初頭に、工場や鉄道ではたらく労働者、職人さんたちの住まいとして作られた。
わたしたちの家の近くにはかつて大きなチョコレート工場があって、操業当時の様子を覚えている人によると、定時になると人々がどっと工場からあふれでて、家路につく人の波で通りはたいへんな混雑だったらしい。工場なき今は、町の中心まで徒歩圏かつ緑の多いエリアとして、若いカップルや、学生のシェアハウス、長年住んでいる老夫婦、といったさまざまな人たちが住んでいる。
家を探すときは、賃貸物件と同じように、ネットの不動産サイトに掲載されている物件を見て内見を申し込む。日本だと、売買ともなるとひとつの不動産屋さんを決めて、担当者といっしょに家探しをしていくケースが多く、それぞれの不動産屋が、外に出さない独自の物件情報を持っていたりするけれど、こちらでは、すべての物件があっけらかんと不動産サイトにあがってくる。なので、どのエージェントをはさんで取引することになるかは、すべて物件しだいである。
わたしたちは、ほしい家の種類(テラスハウス)と、住みたいエリア(できれば今まで住んでいた地域に住み続けたい)が決まっていたので、上がってくる物件を日々チェックして、家の状態と予算が許容範囲な物件をかたはしから見ていく作戦をとった。
ほぼ同じ作りのテラスハウスでも、家の中は100年超のあいだにほどこされた改装によりさまざまで、それを次々見ていくのはほんとうにおもしろかった。壁をぶちぬき螺旋階段をつけている家、ロフトを屋根裏部屋にして、実質3階建てになっている家、多くの家は1階に、裏庭にせり出す形でキッチンを増築しているのだが、そのデザインも年代もみんなちょっとずつ違う。おもしろいもので、見ていくうちに、家に入ったとたんに「あ、この家はいいな」とか、「状態はいいけどなんだかちがう」とかわかってくるものなのだった。
とはいえ、修繕要の家を買って自分好みに改装、という考え方が一般的なこの国では、現在の状態がしっくりくるかどうかより、ポテンシャルを見る目が必要なのかもしれないけれど、まあまあ年寄りのわたしたちはもうそこまでする気力がないので、基本的にはすぐ住みはじめられる状態の家が第一希望だった。
ちなみに、売り出し中の家は、家の前に「for Sale」と書かれたプラカードが立ててあって、通りを歩いていても一目瞭然だ。内見をするときは、不動産やさんとその家で待ち合わせをして見せてもらう。住んでいる人たちはその時間たいてい家を空けている。時間はだいたい20分(高い買い物なのにけっこう短い!)。価格は「ガイドプライス」という形で提示されることが多く、申し込みたいとなったら、家の状態や競争率などなどを鑑みて、プラスマイナス10パーセントくらいの範囲で希望購入金額を提示する。必ずしも早いもの勝ちではなくて、金額以外にも、買い手の条件(取引成立までのプロセスがスムーズそうか等)を考慮して、売主は買い手を選ぶというシステムらしい。
今の家が決まるまで、じつは3つの家に申し込んで撃沈している。
1番め 若干場所が離れるけれど、エリアも家の状態もよく、裏庭も感じがよかった。提示金額をちょっと低めに出したのがまちがいで、他の買い手があらわれ負ける。今思い返してもちょっと惜しい。
2番め 借りている家のある通りに出た物件。家の状態はいまいちだったが、なによりその通りが好きだったので申し込み。しかし現金で買うという人があらわれ負ける。今考えると、家の状態にしては価格が強気だったので、たぶん負けてよかった物件。
3番め 1階がぶちぬきになっていて開放感があった。テラスの端っこのため、裏庭の日当たりもよし。気になったのは、玄関出てすぐの舗道に水たまりができがちな一画があったこと。すごい人気物件で、少々色をつけた金額を提示したが負ける。
そして、もうちょっと他のエリアにも広げて探そうか、と話していた矢先にポッとあらわれたのが、この家である。なんだか既視感があったので、ネットの過去記事を探ってみたら、わたしたちが家探しをはじめてすぐくらいのときに「売約済み」としてまだサイトに載っていた物件だった。どういうわけでか前の売買がうまくいかず(わりとよくある)、戻ってきたものらしい。
ふしぎと写真をみた段階から好きな感じがしていた。さっそく内見を申し込んで見せてもらうと、間取りはほぼオリジナルのまま、キッチンとダイニングのあいだの壁を一部とりはらってひとつながりにしてあって、ひろびろとしている。きれいにしてあるが、あんまりプロっぽくないところもよかった。なにより、住んでいるひとがしあわせそうなのが垣間見えて、いい家だと思った。不動産屋さんによると、夫婦と子ども2人の4人家族で、子どもが増えて手狭になってきたので、近くのもうちょっと大きい家に引っ越すことにしたんだそうだ。
この家とはたぶん、相性がいい。オットとも意見が合って、そく申し込みだ。そして待つこと数日、「オファーは受け入れられました」と連絡が来る。やったー!
ここまでが、家の購入前段階までの道のりである。
このあとまだ紆余曲折あるのだが、それはまた次回書きたいと思います。
Byはらぷ