Posted on by SHOJI
第128回 ホウセンカ
10月10日に公開された「ホウセンカ」は、「ODD TAXI(オッドタクシー)」の木下麦(きのしたばく)監督と原作・脚本の此元和津也が再タッグを組んだ作品だ。アニメーション制作は「映画大好きポンポさん」のCLAP。
===
体調を崩し独房で横たわる無期懲役囚、阿久津ミノル。
枕元の缶に植えられたホウセンカが、彼に話しかける。
ホウセンカは、赤ん坊の健介を連れた那奈と阿久津が住んでいたアパートの庭に咲いていた花だった。
独房での会話で1987年のバブル期からその後にかけての回想が描かれ、やがて「今」につながる。
前半で描かれるアパートでの阿久津たちの日常が静かで穏やかだ。阿久津、ヤクザなのに。
住み始めて数年経ち、あることで大金が必要になった阿久津は兄貴分の堤に相談する。ここから最後の「大逆転」にいたる展開は、此元和津也ならでは。彼の名作漫画「セトウツミ」を思い出す。
どの登場人物も気持ちを開示しない。そのうえシンプルな線で描かれたキャラクターらはスクリーンでは情動や緊迫感がひかえめに見えるので、ラジオドラマのように会話に耳をかたむけることになる。そのVC(ヴォイスキャスト)の演技が素晴らしく、セリフも相まって登場人物(ホウセンカも含む)の内面がにじみ出ている。
果たして阿久津が思う人生の大逆転とはどういう事なのか。これは目と耳で確かめてもらうしかない。
地味な画面で、静かな物語で、沁みる「映画」だ。
ただ、まあワタクシとしては、阿久津の容貌をVCの小林薫氏に寄せてほしかった、かも。