第20回 氷菓/Free!他
『氷菓』は、2012年放映開始のアニメです。原作は推理小説、米澤穂信の<古典部シリーズ>(初出は2001年)。アニメーション制作は、京都アニメーションです。Netflix、dアニメストアfor Amazon Prime Videoで見ることができます。(予告の配信は終わっていたので、動画アップできませんでした。)
「やらなくてもいいことなら、やらない。やるべきことなら手短に。」をモットーとする、神山高校古典部員の折木奉太郎(おれき ほうたろう)が、瞳をキラキラさせて「わたし、気になります!」と迫る部長の千反田(ちたんだ)えるに気圧されて、中学からの同級生で部員の福部里志、井原摩耶花らとともに、身近な謎解きにしぶしぶ(?)乗り出します。
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学園ミステリーなのでセリフだけ聞いていても筋は分かるってものですが、やはり、じっくり見てしまいます。細やかで丁寧な京アニの作画!
原作では、山や川の地理上の位置関係や校舎の位置関係を示していますが、そのさまや建物の中を言葉を尽くして描写しているわけではありません。それがアニメの中では、そんなところまで?と驚くほど細かに背景が描き込まれ、リアリティーのある空間になっています。
学内を見れば、学年によって異なる上履きの色、古典部部室である地学準備室(原作では地学講義室)のポスターや月毎にめくられるカレンダー、司書室の花瓶の花の彩色。一般棟と特別棟を結ぶ連絡廊下などなど。
町に目を移せば、アーケード街、神社の狛犬、レトロな喫茶店の壁掛け時計。香〇社製の引き出物かと思われる豪農千反田家のお皿。社務所の中などなど。あるべきものがそこにあるために、手を尽くしてあるのです。ちなみに、本作のロケハン地は、飛騨高山だそうです。
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アニメーションにおいては、特に手の動き、わずかな動きが美しい。例えば、手を振る、柏手を打つ、手をついてお辞儀をするとき呼吸とともに一瞬上体があがる、など。スポーツアニメは別として、ふとした日常の所作が美しく、関節から動いていると感じるのは、京アニならでは、です。
「事件」と「推理」が、凝った画調で挿入され、グレイでビターなエピソードにアクセントをつけています。何話に出てくるかは言いませんが、飛び出す絵本は必見です。こんなに凝った遊びを30分弱の放送に入れてくるとは、驚きです。毎回楽しみにしちゃう。
また、原作にはありませんが、アニメではCM前に二十四節季が挿入され、事件の起こった季節を示すとともに、古典部らしさを醸し出しています。存外にあっさりした叙述の原作が、京アニの表現力で、叙情性のあるエンターテインメント作品になっています。
原作は学園ものです。1年のはじめから終わりまで時間が経つにつれ、4人の心のありようや関係も変わってきます。4人は事件と謎解きでのやり取りを通してお互いを知り、自分を確認していきます。他人のふとした一言が、自意識のトリガーを引くことがある。思春期の変化を長い時間をかけて描く原作と、温かなまなざしで高校生の日常を描く京アニは、とても幸せな組み合わせです。
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その他の京アニ作品をいくつか。
『Free!』:「水の表現が大好きで、いつも目が離せなくなっていました。」とNさん。ただいま劇場版、絶賛上映中です。
『けいおん』:「『けいおん』のCD買ってしまった♡」と、嬉しそうだったHさん。その後いかがお過ごしですか。dアニメストアfor Amazon Prime Videoから視聴できます。
『涼宮ハルヒの憂鬱』:「この作品でアニオタになりました。」と、Tさん。Netflixで視聴できます。
『聲の形』:重いテーマです。いい映画です。2016年『君の名は。』とほぼ同時期の公開でした。Netflixで視聴できます。
『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』:「見続けたのは、きれいだったからかも。」と、Hさん。9月には『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン外伝-永遠と自動手記人形』が劇場公開予定です。
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最後に、地方の高校を舞台に、部活の人間関係や日常を描いた作品を多く送り出し、ファンが作品舞台を訪れる「聖地巡礼」を引き起こし、若者の絶大な共感を得て、国内のみならず海外からも高い評価を得ている京都アニメーションで、7月18日、数多くの優秀なアニメーター・クリエイターの方々が犠牲となられましたことは、アニメファンとして本当に残念で、大きな欠落感があります。
言葉にならない悲しみの中におられるご遺族の皆さまに、心からお悔やみ申し上げます。そして、今なお治療中の被害に遭われた皆さま、関係の皆様の心身のご健康が、一日も早く回復なさいますよう、心からお祈り申し上げます。
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*アイキャッチ画像と動画は、当該作品の公式HPより