第50回 スーパーカブ
「スーパーカブ」。郵便配達などで使われるバイクだ。HONDAの商品名そのものズバリなタイトルが気になって見始めた。
山梨県北杜市に住む天涯孤独の女子高校生・小熊(こぐま)は、学校と生活の全てを奨学金でやりくりしている。自転車で通学していたが、ある日原付バイクに追い越され、原付が気になるように。ほどなく、状態のとても良い中古の原付・スーパーカブを格安で手に入れた。すると、人とほぼ交わってこなかった小熊に、礼子が声をかけてきた。礼子は親の所有する別荘で一人暮らしをしている、改造好きなカブ乗りだ。
礼子の手助けもあって、小熊は必要なものをひとつずつ手に入れ、少しずつ行動範囲を拡げる。前回放送では、カブに乗り初めて半年もたたないうちに、北杜市から鎌倉までカブで行ってしまった(!)。その道中の行動、判断力が確かで、蛮勇のなかに堅実さを感じる。
小熊は無口で、静かにことを運ぶので、もしやこの先悲しい出来事が起こるのでは?と気になって、原作小説(角川スニーカー文庫)を読んだ。
必要な事だけを口にする線の細い外見の小熊だが、アニメでは端折ってあるエピソードがあり、画面だけでは推し量れない彼女の芯の強さが、小説では描かれている。また、バイクの装備やメンテナンスに関する記述が多く、バイク乗りならすぐ没入するのだろう。作者のトネ・コーケン氏自身がカブ乗りなので、関連エピソードにはこと欠かないようだ。私のような素人でも、人が好きな事について語るのを聞くのは(読むのは)楽しい。
一方アニメは、ナレーションなどの言葉で内面を説明していない。小説を読んだ後では、それはそれで好もしく感じる。少しずつ声のトーンも変わってくるのだろうかと、静かに見守ることができる。アニメ推しなの?小説推しなの?と問われれば、小説だ。とはいえ、アニメがなければ出会わなかった作品だ。コミカライズもされている。正確にいうと、この作品は「私には」小説が向いている。
小熊が、相棒のスーパーカブとともに自分の生活や人間関係を作り上げていく様子は、つつましくも力強く、楽しそうだ。この先私にも、人生百年時代の後半を一緒に作る、小熊にとってのカブのような何かが見つかれば良いなと思う。
===
さて、以前ご紹介した「ゴジラS.P」、「ODD TAXI」は中盤に入り、ますます面白くなってきました。また、「魔法少女まどか☆マギカ」でお馴染みの制作会社・シャフトが不穏で美麗な画面を見せてくれる「美少年探偵団」(西尾維新原作)、今をときめく声優・津田健次郎が観察者役でナレーションを務める「不滅のあなたへ」(大今良時原作・Eテレ放送・各社配信)、実在したアフリカ出身の武士を題材とした「YASUKE」(Netflixオリジナル)など、今期は大人がじっくり見られるアニメがたくさんあって、嬉しい限りです!