第124回 ChaO チャオ
スクリーンから溢れんばかりの色彩とゆかいな動きが目を楽しませてくれる「ChaO」。
アニメーション制作はSTUDIO4℃。
上海でロケハンした背景に、アンデルセンの「人魚姫」をベースとした物語を載せており、アヌシー国際アニメーション映画祭2025 長編コンペティション部門審査員賞を受賞している。
海の生物を傷つけないスクリューの開発にいそしむステファンのもとへ、人魚王国のお姫さまチャオが押しかけ女房に!
彼女は「あなたが永遠に一緒にいると言ってくれたのよ」というがステファンには覚えがない。
損得勘定含め周囲は応援モードで、気乗りしないステファンを置き去りにあれよあれよという間に結婚式をあげるのだが…。
アジア人ぽさを出したというキャラクターデザインが特徴的だ。
(同じくSTUDIO4℃制作の「マインドゲーム」(西ロビン原作)を思いだした。)
本作はさらに多様な頭身が採用されていてちょっと見づらいところはあるが、人物以上に線の多い背景美術に溶け込んで、違和感が薄れていく。
大都会上海のエネルギーを感じさせる近未来の背景は、まず3Dモデルを作って線を抽出しラフに仕上げているという。それにしても描きこみが凄い。その分、規模を感じさせる街並みは繁華で、豪華で、雑多で美麗だ。
この魅力的な背景美術は私の聖地巡礼欲を刺激する。映画やアニメのロケ地巡りの目的は人それぞれで、例えば推しキャラの足取りを追って旅する人もいるだろう。私の場合、描かれた土地や建物、道の広さ狭さ、乗り物や数々のエキゾチックなモノが醸し出す風情、暮らしているひとの気配を味わいたいのだ。
頭を打ったり、顔がめり込んだり、魚が人魚に人魚が魚に変身したりとアニメーションが楽しいが、特に水の表現が多様で目を引く。チャオが衣装のようにまとっているちゃぷんちゃぷんとした水、水量たっぷりの噴水、ダイナミックな波しぶきなど、この映像は一見の価値あり。
繰り返しの生活から一歩出て、映画の色とりどりの物や人々の活気を浴びるのは、この上なく幸せだ。
*他の人気作品に押されて上映館が激減しているのが残念なので、いつもより動画リンク多めです。
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ユリイカ9月号では280余ページに及び、あらゐけいいちさんを特集しています。
前回ご紹介した「CITY THE ANIMATION」の原作者です。(原作名は「CITY」)
「日常」でもあらゐ作品をアニメ化した監督である京都アニメーションの石立太一さんとの対談も掲載されています。