〈 晴れ、時々やさぐれ日記 〉 ああ、中高年のおしゃれ。マダムとミセスのあいだ
――— 46歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――
むかし、「マダム」っていう雑誌がありましたね。母に「マダム」を買ってきてと頼まれたのに、「ミセス」を買って帰ったことがありました。あちゃ。
あの頃の「マダム」や「ミセス」では、キミジマイチロウやアシダジュンといった、ザ・ドメスティックコンサバティブブランドも妍を競って(?)いましたっけ。マダムファッション、ミセスファッションの輪郭も、今よりはっきりしていた気がします。
子どもがまだ乳幼児だった頃、新幹線で帰省をするわたしに母は毎回おこごとを言いました。「なんでもっと、ちゃんとしたお洋服を着ないの?」
確かに母の時代は、世の中全体が今よりうんとコンサバ路線だったと思います。乳飲み子を抱えたお母さんもきっちり髪をセットし、ヒールのパンプスを履き、ハンドバッグを持ってスーツを着ていた記憶があります。布オムツの時代に、よくまああんなに身ぎれいにしていたものだなぁと感心します。
時代は違いますが、昭和の初めの男性の夏の麻のスーツ、女性の夏のお着物など、本当に涼しげで素敵だけれど、お手入れが………たいへんだっただろうなぁ。
「おしゃれはね、ある程度はガマンです」母は言いますが、ガマンを強いられるおしゃれはわたしは苦手です。乳幼児連れの帰省の折には「途中で何かがあったとき」を常に想定していました。動きやすさ、汚れ目の少なさ、メンテナンスの簡便性。「ひとに声をかけていただける、気安さのある服装」というのも頭の隅にあったひとつの基準でした。
あ~たのその出で立ちはいただけません!
帰省の荷物を置き、ヤレヤレと靴を脱ぐわたしに母は毎回手厳しいワケですが、わたしもまあ慣れました。「はいはい~」と笑って聞き流します。ひとのことをさんざんくさしておいて、母はお茶を飲みながら、こう続けます。
「そういえばあ~た、春に芦屋に行ったとき、淡~いピンクのカシミヤのセーターを着てらっしゃる80代くらいの白髪の方がいらして、その方がま~素敵だったわ~。スカートはグレイのタイトのツイードなの。セーターは本当にシンプルなデザインだけど、襟まわりのヘム使いがなんともいいの。あの街にはやっぱり、すてきな方がいらっしゃるわね~」
「街のすてきなひと」っていうのは本当に、「お出掛けの楽しみ」だよな~と思います。雑誌の中でライトを浴びてポージングするモデルさんとは趣の違う、「街のひとのうつくしさ」ってあるよな~。
昨年の7月7日、わたしはカリーナさんが開かれた「京都おしゃべり会」に参加させていただきました。同志社大学そばの元司祭館、「バザールカフェ」に集われたみなさんの素敵だったこと!30名の方が集まられましたが、わたしはたぶんお一人お一人のおしゃれを覚えています。(気持ち悪くてすみません)
学生時代、友人と地下鉄に乗っていると「あんた、今向かい側のドアから3番目のひとが気になってるでしょ。どうせまた、“サヴァランプロファイリング”してんでしょ」と言われました。まったく。プロファイリングなんて人聞きの悪い。わたしがしてんのはね、「すてきファイリング」です!
「おしゃべり会」では本当にみなさんが素敵でした。2012.7.7の記憶。30人のおしゃれさんが額縁の中のメインだとすると、行きの山口駅でお見かけしたご婦人と 帰りの今出川駅の学生さんが、あの日の記憶の額縁を作ってくれています。
新山口駅、新幹線上りホームでお見かけした方は、ラフィアのお帽子の一部がまず目にとまりました。ホームへのエスカレーターの前方に何やら涼しげな空気。気になる。気になるぞ。
お年はたぶん50代後半から60代前半。ラフィアの帽子には大げさすぎない黒いグログランのリボンテープ。帽子とのつながりのいい亜麻色のお洋服はへちま襟の麻のサマーコート。くだけすぎずかたすぎず、さらっと羽織られたコートの中には黒~グレイ~アイボリーの色合いの幾何学模様のすとんとしたワンピース(こちらはたぶんノースリーブ)。ホームの待合室で運よくご一緒できましたので、ちらっとお顔も拝見できました。グレイのショートヘア、白いはだにあっさりしたナチュラルメイク、ポイントは赤い口紅。
なんて涼しげなんでしょう。どこへお出掛け?お一人なのかな?そう思っているところへ、ご主人と思しき男性登場。手にされたキオスクの袋入りのお茶のペットボトルは、奥様の小さくて素早い指示に従ってバッグの中へ。すかさず奥様の手は、ご主人の黒の麻のシャツと麻色のパンツのブラウジング具合を直されました。ご主人がベンチに座られるまでの数秒、細かで鋭い「指導」が入ったご主人のスタイリングも、100%奥様だなというのがわたしのプロファイリング。このご夫婦の場合、旦那さまが「オレ様」風でないところが、わたし的には微笑ましいグッドな組み合わせ。
今出川駅でわたしの前に立ったのは、たぶん学校帰りの女子大生。なんといってもスレンダー。ベリーショートの黒髪、ホワイトデニムの細くて長いまっすぐな脚。ラルフローレンのピンク×白のピンストライプ、ボタンダウンシャツの袖口は、ざっくりとカフスが返してありました。手にしているのは同じブランドのネイビーの小ぶりなトートバッグ。ひとつひとつは素っ気ないほど「ボーイッシュ」なのに、対照的に雄弁なのは 細くて長い、首、手首、足首。そしてそしてうつむいた横顔からのぞく黒くて長い睫(たぶん自まつ毛)。なんという清潔感、なんという清涼感。
うわ~。来世はああいう女子大生になりたい~~~。顔、半分くらいに削らんとな。
朝のご婦人と帰りの学生さん。このお二人にはひとつの共通項がありました。
素足にレペットの紐付きのダンスシューズ。一枚革の軽やかな足元がとても新鮮に映りました。ご婦人は白のラムスキン。学生さんは黒のエナメル(あら。エナメルってなんて言うんでしたっけ)。
どちらもわたしには似合わないアイテムです。どんなに素敵!と思っても、自分が履こうとは思いません。かといって、コンフォターシューズっていうのもちょっとね~。
ああああ、マダムにもミセスにもなれないし、まして小顔でスリムな女子大生は来世まで待たなきゃいけないし。(なれるのか?)
マダムでもミセスでもない、くくりのない空気感。足取り軽やかに、風をまとうようなおしゃれはどうしたら?
ともあれ!(あれ?) 街のおしゃれさんをウオッチングするのは本当に本当に本当に楽しい!!!
サヴァラン Post author
別冊にメールをくださったOさま。
わたしめに、いやうちのシュジンに頂戴したOさまのプロファイリング、
寸分たがわずドンピシャ!でございます。ビックリ。
わたしのここでの拙文と、メルマガでの拙文
それへの解析もまさにおっしゃるとおり!(笑)
こうして名うてのプロファイラーに分析していただくことは
すんごい「目うろこ」だ~と 只今快感にひたっております。
シュジンの環境を、そういえば最近意識しておりませんでした。
そうでした!忘れてました!周囲のみなさんが、ああなんでした。
シュジンのあの傾向はシュジンのせいばっかりじゃないんでした。
そしてそして、そうなんです!そうなんです!
「声をかけていただきやすい」云々と
人様からのサポートを暗に期待しながら
「コンフォターシューズっていうのもちょっとね~」と言う自己矛盾。
>別冊のみなさんは旅先で見ず知らずの方に手を貸して頂くとして、
>頼み易いのはスタイリッシュなマダム?
>それともコンフォートシューズのカジュアルな旅スタイルのご婦人?
Oさまのこのご指摘、これぞまさにど真ん中です!
自分ならどちらに頼むか。
その考えをもってあらためて、自分はなにを装うとするか。
うわ~。すんごいお題をいただきました。
ありがとうございます!!!
伊藤若冲展、行きたいです!
美術展でのおしゃれさんウオッチング、
ホント、これまた楽しいですよね♪ (あ、図書館なんかも)