食尽くす
夫は食欲旺盛、よく食べるほうです。食の細い私が残しがちなのを助けてくれますし、飲食店では下膳のときに「まあ!」と褒められるほど食べ方もきれい。でも、時々「食い尽くし系」になります。それほど頻繁ではなく忘れた頃になるのですが、今まで生きてきて経験したことがなかったことなので初めは猛烈に怒りました。
二人分として二個買ったものを二個とも食べて「これすごくうまかった」と空の入れ物を嬉しそうに見せられたとき。ハラペコで帰宅したら今日は蟹買ったと言うので喜んだのもつかの間、すっかりきれいになった蟹の脚が一匹分台所のゴミ箱から突き出ているのを見たとき(もちろん甲羅もきれいになっていましたよ)。
どこでも買えるものではなく、のけぞるほどの値段がする焼き菓子。端正な四角い薄い缶にクッキーやメレンゲがお重みたいにきっちりつめられています。クッキーはポクッと割れるくらいの焼き加減でメレンゲは小さくてホイップの先端みたいで明るいパステル色。特別だねえ、きれいだねえ、これは「お紅茶」でもいれるかと席を立って戻ってきたら、きれいなメレンゲのセクションが空になっていたとき。
いつでも買えるような箱菓子でも食い尽くされたら同じ気持ちです。
怒ると「小せえヤツだ、ケチだ」「食べ物への執着が強い」と言いますが、食べ物そのものを惜しんでいるのではないのです。(まあ、惜しんでもいるけど)
結局は食べ物への執着の話に見えますが、断じてそれだけではありません。
家にもうひとり人が居るということが頭から抜けていることが悲しくて悔しいのです。
こんなことは嫌がらせとか意地悪と解釈する以外ないというのが私の常識でしたが、どうも違う。本当に悪気は全くないようです。
その都度怒ったり頼んだりしているのに、そして日頃の振舞いは穏やかで、むしろぎゃあぎゃあしているのは私のほうなのになぜ繰り返されるのか。怒りつつ不思議がる。
どうしてよいかわからないと思っていたところにこの食い尽くし系という言葉を知りました。
なるほど「食い尽くし系」か。今の人たち、からっとしている。しんねり我慢しないで、ちゃんと分類して対応しようとするのですね。
その行動に名前がついただけでずいぶん気が軽くなりました。
このままずっと平行線であってももう驚きません、怒るけど。
でもうさぎの前では攻撃的な気持ちは鎮めようと努力します。
ぶりかえす怒りの気持ちのままエサやりなんかするとうさぎは少し白目をみせてじっとしてしまいます、ごめんごめん、ほんとごめん。
穴ウサギは群れの中で序列が決まっているそうなので無用の食物奪い合いはないかもしれません。群れてはいてもお互いちょっとずつ距離をとってそれぞれ草木を食べるかんじ。
きょうだいや親子で食べ物を残し合うかどうかはわかりませんでした。
うちのうさぎの場合、おやつはくわえてちょっと走って遠くで食べているので独占したいようにも見えます。
夕ご飯のドライフードは2回にわけて食べるのが好きみたいで、食べ尽くさずにちょっと残しています。これは慎ましやかでいいなあ、ほんと、かわいいなあ。
うさぎが沢山食べてくれるのは下僕にはうれしい食べ尽くしですが、野生のウサギに食べ尽くされている場合は申し訳ありません。