Posted on 2026年2月26日 by つまみ
◆◇やっかみかもしれませんが…◆◇ 第85回 はりきったり、複雑だったり、後悔したり、心残りだったり
1月25日、夫の母が亡くなった。私の長兄の命日はちょうど20年前の2006年1月25日である。偶然にもほどがある。長兄は享年53歳だったが、義母は97歳だった。
2020年のバレンタインデーに義母は、夫と私が暮らすマンションから徒歩2分の特別養護老人ホームに入所した。複数の特養を申し込んでいたので激近の施設に入ったのは単なる偶然だったが、これをラッキーと言わずして!なんなら、神の啓示!と思い、食事やお風呂、薬や排泄の管理はプロにお任せするけれども、精神面でのサポートには積極的に加わろうと思い、夫と「おかあさんが家に来ておやつを食べる日の予定表」まで作成した。
入所前1~2年の義母は、歩行状況の悪化と排泄関係の不調で元来の明るさを失い、元気がなくなっていた。老人保健施設のショートステイや短期入所を経て特養に入ることになったのだが、家族も疲弊していたとはいえ、特養入所の際にどうしても念頭に浮かんでしまった罪悪感を、わたしは必死に払拭しようとしていたのかもしれない。
まさか、そこからすぐ、あの憎きコロナ禍になるなんて思わなかった。サポートどころか、リアル面会もまったくできなくなり、じりじりした気分で日々を過ごすようになった。
皮肉にも、義母はコロナ禍の間にめきめきと元気になり、入所2年で体重が9キロも増えた。こわばり気味だった表情が日に日に柔らかくなり、オンライン面会では猫を見せるたびに、声を上げて笑うようになった。
その変化はもちろん喜ばしいことだったけれど、複雑な気持ちにもなった。一緒に暮らしているときの義母の覇気のなさは本当に体調のせいだけだったのだろうかと思った。そして、ある日、いろいろなことがわかった気がした。

義母はコロナ禍になって「また歩けるようになりたい」「自力でトイレに行きたい」を諦めたのではないか。何年も何年も、現実を認めず受け入れずに頑張ってきたよすがを手放し、心身の荷物をおろしたのだ。だから明るくなったのではないだろうか。勝手な想像だが外れていない気がする。
そう思うとせつない気持ちになった。一緒に暮らしている頃、義母は週4~5でデイサービスとデイケアに通っていた。歩けるようになるためにはリハビリを頑張るのだと、家族や施設のひとたちが「そこまで頑張らなくても‥」と止めに入るくらい必死だった。そして成果が出ないことに落ち込むようになった。
でも、義母はリハビリに行く回数を減らそうとはしなかった。もちろん、諦めきれないこともあっただろうし、そこで楽しい時間を持つことだっていっぱいあったと思う。でも、まじめに通ういちばんの理由は、わたしと夫を気遣ったからだと思う。
さほど認知症の症状がなく、身近な人の世話をすることが生きがいで、身近な人の世話になることが苦手だった義母は「リハビリを頑張る」という名目で家にいる時間を減らそうとしたことは想像に難くない。そしてそのリハビリ主体の通所施設の送迎の車が発端で排泄不安が始まったのだ。
思い返すと「申し訳なかった」という気持ちにもなる。なるけれど、じゃあ、また同じ状況になったら申し訳なくない方法がとれるのか自分?と自問すると、まったくその自信はない。器が小さいわたしはすぐにいっぱいいっぱいになってギブアップしてしまうのだろう。後悔や反省は、もうそういうことはないとわかるから安心してできることだったりもするのだ。

会えないコロナ禍の期間(義母のホームはなかなか面会の制限が解除されなかった)、わたしは義母に手紙を書き続けた。一緒に暮らしている間にあったことを忘れてほしくないという気持ちで、近況だけでなく、義母のパートの思い出や、家にいた犬のマロのこと、巣鴨や下北沢にふたりで行ったこと、そして猫のミィちゃんのことなどをしたため、最後は必ず「すぐ近くにいることを忘れないでください。コロナが落ち着いたら猫を抱っこしに来てください」と書いた。
手紙は、義母が自力で読むことができた三年半ぐらいの間、ほぼ週一でホームに届けた。ネタはしょっちゅう底をついたが、同じようなことを繰り返し繰り返し書き、義母が孤独感にさいなまれませんようにと願った。
義母が亡くなって義母の私物を受け取りに行ったが、手紙は段ボールひとつ分あった。前半に書いたものは「置ききれない」と義母に言われ引き取っていたのだが、後半分だけでもそんなにあったことに自分で驚いた。棺に入れてもらおうと10通だけ告別式に持参したのだが、それでもちょっと多すぎると言われ、5通を義母とともに荼毘に付した。残りは手元にある。大量だ。どうしたものだろう。
言っても詮無いとはいえ、たくさん心残りがある。いちばんはなんといっても、コロナ禍からこっち、一度も猫を抱かせてあげられなかったことだ。
byつきてい つまみ(亭 の字を変えようと思っているのですが決まらないので今回はひらがな)














































































