第33回 漢字の世界はラビリンス?!の巻
私は漢字が苦手です。
奥深い漢字の世界そのものは好きなのですが、どうにも各種の間違いが多いのです。
人間性が粗忽&うっかり&大雑把仕様でてきていて、あいまいな認識のまま齢を重ねたせいか、書くほどにボロが出る人生を歩んでいます。
昔っから己と巳の区別が不得手でした。
自己と巳年、と言われれば区別できるものの、それ以外、たとえば人の名前で使われていたりするとどっちなのかわからず、うやむやのまま記憶が経年劣化し、今更聞けないわと、たとえば年賀状などでずっとどっちつかずの字を書いてごまかしてきました。
ですから、世の中には已という、まさにどっちつかずの字が存在すると知ったときは若干パニックになりました。
已の存在に気づいたのは30代になってからです。
その昔、古文の授業で已然形というものを習っているはずなので已の存在を知らなかったとは言えないのですが、なんていうかそのぉ・・「知りませんでした」。
私はハタチ以降の人生で何度、正己とか博巳とか書かねばならないところを正已や博已と書いてきたかと思うとゾッとします。
単体では拝の字の右側の横棒の数がいまだにモヤモヤしています。
4本だと認識はしているはずなのですが、書くと必ず「多過ぎないか?薄い具材が並んだバーベキューみたいだがはたしてこれでいいのか?」と一瞬手が止まってしまいます。
逆に、挿の字には最後にもう1本、横棒を足しがちです。
なぜか薄い具材をもう一品足したくなるのです。
同音異義語業界に目を向けると、趣旨と主旨、志向と指向、態勢と体制、制作と製作の違いがいまだによくわかりません。
測ると計る、納めると収めるの使い分けも苦手です。
いや~、どんどん出てきてわれながら恐ろしいです。
自分はこんなに漢字に対してうやむやのまま生きてきてしまったのかと驚くやら情けないやらです。
そして極めつけ。
ずいぶん前ですが、ミネット・ウォルターズの『昏(くら)い部屋』というミステリー小説が話題になりました。
ミネット・ウォルターズの小説は『氷の家』にしろ『女彫刻家』にしろ、読み手の心を深く抉ってくるような、まるで夜の沼を覗くような小説でけっこう好きです。
図書館で借りたこの本を手に取り、表紙を眺めながら「暗い部屋とせず、昏い部屋としたところが渋いね」などとエラそうにタイトルを査定していて、あれ?と思いました。
黄昏でおなじみのはずの昏という字がなんだかしっくりとしません。
そしてしばらくすると、えっ!?まさか!?そうなの!?状態に。
私は昏という字をずっと旨だと思っていたのです。
昏という字はその瞬間までの私の人生には存在していませんでした。
黄昏は黄旨だと勘違いしたまま生きてきて、過去に「夕日の色が旨(うま)そうだから黄旨と書くのかな」と思ったことまでありました、いやマジで。
とにかく、そのとき初めて昏という字とお目もじした(気分の)私は驚き、顔文字で表現すれば
【((((;゚Д゚))))】という状態になりました。
狼狽し、「この衝撃の事実を知らなかったせいで、私はなにか人生をしくじってこなかっただろうか」と記憶をたぐり寄せ、あっけなく思い当たりました。
手にしている『昏い部屋』は図書館で予約をして借りたのですが、その予約票におもいっきり『旨い部屋』と書いたよ私、と。
私の字は筆圧が強く大きいので、いかにも堂々とした『旨い部屋』だったはずです。
受け取った図書館員は「うまい部屋?ヘンゼルとグレーテルか!?」とでもツッコミを入れたのではないでしょうか。
ああ、今思い出しても恥ずかしい。
最近は手書きの文字を書くことが少なくなり、図書館の予約もネット上でできるようになったので、書き間違いの機会は減り私はずいぶん救われていると思います。
でも、だからこそ、今は漢字の間違いに気づくことすらできないのかもと思うとちょっと恐ろしいです。
・・と思っていた昨今ですが、先日、かの田中将大投手と結婚した里田まいちゃんのエピソードを知り、ちょっと気持ちが変わりました。
彼女が、渡米の際の引越しの段ボールに「アメリか」と書いたと話題になりました。
それに対して彼女はブログで「なんか私、すぐ点をつける癖があって、結婚したすぐの頃、田中将大って書こうとしたら、田中将犬ってなっちゃってたことがあったな。」とコメントしたのです。
私はこれを読んで、いいなーこの人ったらおおらかで!と思いました。将犬、心あたたまるじゃない!と。
そして、私もおおらかに漢字の迷路を泳ぐとするか、いまさら落ち着きのない性格が変わるわけじゃないしと思ったわけです。
更年期だし、老眼が始まったし、己でも已でも巳でもたいして違わないですしね(そうか?そうじゃないだろう!)。
by月亭つまみ
こんなブログもやってます♪第113回「そっち!?」の締めはダジャレです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」<
Comet
私は「挨拶」って書くのが苦手です。1個目と2個目、どっちがどっちだかわからなくなる。20代の頃、同僚に「扌にムヤクタ」って覚えればいいんだよと教わってから、いつもムヤクタムヤクタと唱えながら紙に向かうのですが(挨拶って書かなきゃいけないのは、たいてい気の張る手紙なんだこれが。本来ならばご挨拶にお伺いしなければならないところ書面にて云々……)、ムヤの時点で「ほんとにこれ?」と疑いはじめ、クのところで「ク」と書いて途方にくれる。平仮名だよ、3つだよ、ひらめいたときには先に進めるのですが、タまで書いてみると妙に収まりが悪い感じがして、納得がいかないのです。だって倒れそうじゃん「拶」
アメちゃん
こんにちわ。
私は「豊か」と言うときに「ゆたか、、。ん?ゆかた?アレ?どっち?」
ってなります。
なぜだか「ゆたか」じゃないような気になるんですよね。
Cometさんじゃないですけど
みょうに「ゆたか」じゃ収まりが悪い感じがします。
聞いた話ですけど
第一次安倍内閣のとき、年末に記者がアベさんへ
「総理にとっての今年一年を、漢字一文字で表すとどんな漢字ですか?」
と聞いたところ
「責任」
と返したそうです。
ダメじゃん。アべ!って感じですよね^^;。
つまみ Post author
Cometさん、二字熟語(?)でどっちがどっちかわからなくなるってあります。
「挨拶」って読みのヒントが字の中にないですしねー。
それにしても
>「扌にムヤクタ」
いいこと聞いた!
でも、疑いはじめるっていうのもわかります!
そして、「ムヤクタ」を「ヤムタク」とかで覚えそう。
「キムタク」みたいで(^_^;)
つまみ Post author
アメちゃんさん、こんにちは。
自分の中での「収まりの悪さ」ってありますよね。
私はテニスのマルチナ・ヒンギス。
マルチナ・ヒギンスの方が収まりがいいんですよねー。
レギンスとか(^O^)
もはや、漢字ですらありませんが。。
漢字一文字で「責任」!?
質問に対する責任放棄みたいな。
nao
こんばんはー。
まぎらわしい漢字ってありますね。
私、大学は畜産学部だったんですが
受験票に「蓄産学部」と堂々と書いて出しました。
(だって農業じゃん、くさかんむりあった方がよくね)
よく受かったものだと思いますw
ごまぷりん
こんにちは。
漢字が苦手に激しく同意!いい大人になってからも赤っ恥かいたエピソードは数知れず・・・
読めるけど書けず、全く違うわけじゃないけど何か違うというような字を書いていることもままある。
本当に恥ずかしいです。日本人歴長いのにね。
そう言えば漢字が苦手だから受験の時世界史を選択したんでした。
今も仕事でひと様のお名前を確認することが多いのですが、冷や冷やものです。
国文科卒など口が裂けても言えません。
つまみ Post author
naoさん、こんばんはー!
告白します。
一瞬、「蓄産学部、どこが違うの?」と思いました。
確かにくさかんむりは農業と親和性がありますよねー。
ああ、ますます、漢字ってやつは!と思えてきましたよ(^_^;)
つまみ Post author
ごまぷりんさん、コメントありがとうございます。
読めるけど書けず、そうなんですよねえ。
そして
どっひゃー!国文科卒、言っちゃいましたかー!!
実は、実は私も、なんですよーーーー。
あー、言ってしまったぁぁぁぁ。
okosama
お名前漢字、龍がダメです。勢いで何本も横棒を書いてしまいます。
つまみ Post author
okosamaさん、こんばんは。
龍の右側って、よく見るとすごくヘンですね。
じっと見てると、タツノオトシゴそっくり!
じじょうくみこ
ありますあります、ありまくりです。
いま一番の課題は「剤」と「済」。
「経済」と名のつく会社に請求書を送る時、
はじめに「斉」を書くか「さんずい」を書くか、迷って一瞬息が止まります。
あと「筆」。横棒を書きすぎてなんかすごく毛羽だってる風になります。
でも最近はあえて文字を崩して書くことで、全てをうやむやにする術を覚えました。
大人って素敵です。
つまみ Post author
じじょくみさま、剤と済、わかるーーー。
斉のように、右でも左でもイケる両刀使い(?)の漢字はクセモノですよね。
文字を崩してうやむやにする、もう日常的にやってます。
最近、手書きといえば履歴書なんですが(笑)、自分の名前でもやりそうになって、いくらなんでもそれはマズいだろう、と書き直しました。
ダメだ私。
HD
つまみ様
以前「言い間違い」で、オーストラリアからコメントさせていただきましたHDです。
漢字!嗚呼!なんて魅惑的な命題でございましょう!
私自身は恥ずかしながら、こちらで日本語教師を名乗っていながら、漢字は日を追うごとに確実に書けなくなっている日本人のひとりでございます(言い訳するわけじゃないですが在豪20年)。
それでも職業病と申しましょうか。つまみさんが出された命題、とっても面白いので’私なりに考えてしまいました。
趣旨と主旨、はほとんど同じ意味だと思うのですが、主旨、はその文章全体の主に言いたいこと、趣旨、は「趣」の意味のごとく、その文章で作者が一番言いたいこと、という風に解釈していますが、どうでしょう?
志向と指向、は違いが見当たりませんでした(お分かりになったらどうかお知らせください)。
態勢と体制、は明らかに違うようです。態勢、はなにかを待つ姿勢のことで、体制、は出来上がっているシステムそのもののこと、のようです。
制作と製作、これもはっきりした違いは辞書には見当たりませんでしたが、おそらく「製作」は形あるものを作ることじゃないでしょうか?服は手に触れられる形あるものだから「縫製」と書くけれど、「縫制」とは書きませんものね。映画(かたちあるものではない)も「制作」するけれど、「製作」するとは書かないですよね。
いかがでしょうか。マニアックすぎました?ひきましたか?ひきますよね~。すみませ~ん!
私も漢字(書けないけれど)好きなもので…。
前にも書いたけれど、いつもつまみさんの言語感覚に敬服しています!
す
つまみ Post author
HDさん、お久しぶりです!
「今日は勝った」のHDさん(^O^)、お元気ですか?
私の同音異義語うやむやワールドへのご返答、ありがとうございます!
勉強になります!
特に、主旨と趣旨は目ウロコです。
なるほど~。
そしてHDさんの解説でわかったことがあります。
私がどうしてこれらの同音異義語が特にあやふやかというと、自分でもどちらの意味で使うかはっきりしてない場合も多々あるようなのです。
たとえば、志向と指向って、あらためて考えると、前者は精神的な方向、後者は物理的な方向、という気がするのですが、自分が使う段になると、はたして自分はどっちとして使いたいのだろうか、と立ち止まってしまってますますわからなくなる、みたいな感じでしょうか。
でも、ホントにいろいろ腑に落ちました。
ありがとうございます!!
プリ子
つまみさん、今回も「あるある」満載で面白かったです!
漢字とは違うのですが、音のほうでの言い間違いというお題はどうですか?
私は子供のころ「高島屋」を「たかしやま」と言っていました。四股名かよ。
友人は「出入り口」を「入り出口」と言っていました。意味は通じるけど。
つまみさんなら、そういうネタがたくさんあるのでは、と思ってコメントしてみました~。
つまみ Post author
プリ子さん、ありがとうございまーす!
間違った音で覚えてしまうってありますね。
最近のこじゃれた料理名やデザート、ファッション・ブランドなどはその宝庫かもしれません。
カシュクールはカクシュールと言ったことがあるし、サルエルパンツはサムエルパンツだと思ってました。
そういえば、その昔、ワンレングスはてっきりワングレングスだと思ってました。
濁音と半濁音も勘違いしがちです。
紅茶は、ティーバッグ(bag)なのかティーパック(pack)なのかわからなくなります。
全然関係ないっちゃあないですが、昔、入口春子さんという知り合いがいましたが、なぜかみんなに出口秋子と呼ばれていました。
入り出口で思い出しました(^_^;)
sprout
こんばんは。
私は長い間、沢尻エリカ様のことを「沼尻エリカ」だと思ってました。
はじめて耳で聞いたとき、しばしわからず、「………?」「………!?」「沢だったのか!!!」と愕然としたものです。
ちなみに、私の妹はむかし、くびかざりのことを「くびさがり」と言っていました。間違ってない。
そして父はいまだにナタデココのことを「ココデナッツ」と言っています。これは間違っている。
つまみ Post author
sproutさん、コメントありがとーございます!
何を隠そう、私も最初、沼尻エリカだと思ってました。
どうしてなんでしょうね。
沢と沼、単品では間違えない気がするのに。
あとに続く尻のせいかな。(←この1行だけ読むと、なんの話題かと思いますね)。
「くびさがり」、ウケました!
そしてココデナッツはすご~く気持ちがわかります!!