◆◇やっかみかもしれませんが…◆◇ 第13回 義母のやっかみ…のようなもの
一緒に暮らしている要介護4の義母と、現在、週2~3のペースで散歩をしている。
散歩とはいっても、義母は車椅子で、夫か私がそれを押して外を散策するという方式である。義母は、室内では、なんとか、やっと、どうにか、歩行器で動いているが、外を自力で歩く脚力は、残念ながらもう何年も前からない。
なんだかんだあって、今の住まいで義母と暮らし始めてほぼ7ヶ月になるが、そうなって初めて、義母は散歩好きだと知った。誘うといつでもOKだし、雨で行けないときはとても残念そうだ。天気予報を一日に何度も見ては(しかし、高齢者はどうしてあんなに天気予報が好きなのだろうか。そして、なにゆえ、あんなにも全幅の信頼を寄せているのだろうか)一喜一憂している。前の住まいで、こちらの散歩の誘いを頑なに拒否していた人とは別人のようだ。
義母は、今の自分の足腰の状況がどうしても受け入れられない。認知症の症状はまだ弱く、いろいろな現実を認識できているのに、だ。
70代なかばまでの、同世代の中では誰よりも健康で体力があって足腰のしっかりした自分こそが本来の姿で、それ以降の自分はかりそめの姿だと思っている。…いや、もうあの頃の自分に戻れないことをわかってはいるのだ。だって、もう十年以上も足腰は思うように動かず、いくらリハビリを頑張っても、上向きどころか、明らかに下降しているんだもの。日々、誰よりもそれを感じているのは義母自身だ。
それでも受容できないのだ。それは、「昔の自分に戻れないとはツユほども思っていない」「今までのことをすっかり忘れている」より屈折している分、本人には残酷な気がする。
どうして、本人でもない私が、そこまで義母の気持ちを断定するのか。それは、散歩のことがあるからだ。
前の住まいで、なぜ義母が散歩を頑なに拒んだかというと「近所の人に今のみっともない姿を見られたくないから」だった。これはそのまま義母の言葉だ。この言葉に対して「車椅子がみっともないなんて!」とか「誰もそんなことを思わない」と言うのはかんたんだ。実際、夫も私もそう言った。でもダメだった。
義母だって、自分のことでなければ、車椅子に偏見などあまりない。それなのに、自分のこととなると違う。
お向かいのイトカワさんの奥さんは自分と同い年だけれど、若い頃から、リウマチだか痛風だかでしょっちゅう足が辛そうだった。スーパーから家まで荷物を持ってきてあげたことも一度や二度じゃない。町内会の旅行では、バスの乗り降りや歩くのが遅いイトカワさんを何度も待ってあげた。なのに、今は、イトカワさんは杖一つつかずに歩いて、スーパーの買い物も町内会の旅行も不自由なく行っている。一方、自分は…。あんなにリハビリを頑張っているのに全然良くならない。こんなんじゃなかった。誰よりも健脚だった自分が本来の自分だ。
義母は、車椅子に乗った自分を見られて、イトカワさんを含めたご近所さんに同情されるのがイヤなのではないのだ。義母が思う「本来の自分」を知っている人に今の自分を見られるということは、その人たちに、本来の自分ではない自分の姿がアップデートされてしまう。それは、本来の自分が人々の記憶からすら、完全に削除されることを意味する。だから、不安になる。それを拒もうとする。…たぶん。
その点、今の住まいの周囲には本来の自分を知る人はほぼいない。だから、車椅子姿を見られても平気なのだ。そこに不安はない。なので、散歩上等!
この、屈折したような、単純なような、幼いような、逆に老人特有のような心理に、呆れたり理解を示したりするのは、容易なことのようで意外と難しい。わかったようなことを書いた自分だが、実際どうなのかわからない。そして思う。
すべてのやっかみって結局、こういうことなんじゃないかと。
えっ?どういうことかって?それは…だから…こういうことです。
by月亭つまみ
【木曜日のこの枠のラインナップ】
第1木曜日 まゆぽさんの【あの頃アーカイブ】
第2木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 月刊★切実本屋】
第3木曜日 はらぷさんの【なんかすごい。】
第4木曜日 つまみの【帰って来たゾロメ女の逆襲 やっかみかもしれませんが】
まゆぽさんとの掛け合いブログです。→→「チチカカ湖でひと泳ぎ」
アメちゃん
うちの父も、80代後半でウツになってから
そうでした。
外出する気力がなくなったというのもあるけど、
痩せて歳とって、こんな風にダメになった自分を
近所の人に見られたくない…というのがあったと思います。
元気なときに通ってた喫茶店にも行かなくなって
喫茶店で仲良くなった人達が、家に様子を見にきたがってたけど
オーナーさんが、父の気持ちを慮って
(その喫茶店では、父はオピニオンリーダー的な感じだったので…)
それとなく行かないようにしてくれてたのは、ありがたかったですね。
つまみ Post author
アメちゃんさん、こんばんは。
お父様、そうでしたか。
「近所の人に見られたくない問題」、家族が思うより、本人にとってはずっとずっと大きくて複雑で、なにかの砦のようでもあるのかもしれませんね。
思えば、闘病中に友人や親戚に会いたがらなかった長兄も、同じだったんだろうなあ、などと、今回のことでフィードバック(?)させたりしております。