【月刊★切実本屋】VOL.44 10年
18歳から東京暮らしだが、いまだに出身の「福島県人」という意識が強い。それが如実に露呈するのは、甲子園で東京と福島の高校が対戦したりするときだ。
何の迷いもなく福島を応援する。オリンピックやテニスの4大大会などのときは「どの人も努力してこの舞台に立ってるわけだから、国籍がどことか、やみくもにニッポンニッポンと大騒ぎするのってどうなの?」などとクールに言っちゃったりして、わりとフラットな目線で見ることができるのに、甲子園でその客観視はできない。
とにかく、なにがあっても福島に勝たせたいのである。そこに「どの球児も必死に頑張ってここまで来たのだから‥」という、オリンピックでは発動できる冷静さはない。福島が勝つなら、あとはどうでもいい(乱暴)。
故郷に対する料簡の狭さ(?)にかけては人後に落ちない、そんな自分にとって、東日本大震災以降の福島にはいろんな感情があり過ぎて、10年経った今でもまったく整理がつかない。ますます混迷を深めるばかりだ。
一方で、小学生はもとより、中学校の生徒にとっても「東日本大震災と原発事故」は歴史上の出来事に近い存在になっているようだ。仕事先でそれを思い知り、驚き、焦燥感も覚えたりするわけだが、考えてみれば当然かもしれない。だって記憶にないんだから。
自分にとっての太平洋戦争がそうであるように、その後に生まれれば、それが5年前だろうが1年前だろうが、もれなく過去だ。生まれていても、記憶になければ同じだろう。どんなに爪痕が残っていようが、苦しんでいる人や場所が現在進行形だろうが、心から憂いていようが、記憶にない、体験していないのだから本当のところなんてわからないという前提で考え感じるしかないという、ある種の玉砕感が常に在る。
勤務している中学校の図書室で現在、【東日本大震災から10年です。】という特集をしている。本を集めてみたところ何十冊もあって、思っていたよりボリューミーな特集になった。ぜひ見てほしいと思い、廊下の掲示や図書だよりで告知をした。
が、見事なくらい反応がない。貸し出された形跡のある本は一冊もない。教職員がたまに見ているくらいである。落胆するような、だろうな、と思うような‥ミカスさんと始めたポッドキャストじゃないけれど「誰か、そこにいますか~」である。
3月11日が近づくと、テレビや新聞などでの東日本大震災の特集が増える。今年は十年なのでなおさらだ。
ふだんの生活では震災のことなどもうほとんど念頭にない人も、それらを見ると、まるでずっとそのことを考え続けているかのように、瞬時にシフトチェンジして向き合ったりする。私もそうだ。
多くの人が、報道でハッとし、ふだんは全然考えていないことに、申し訳なさというか、後悔というか、後ろめたさを感じて、取り繕うように思いを馳せる…それを繰り返しているんじゃないかと思う。
そんな今だから思う。
シフトチェンジしたり、取り繕ったりしてもいいじゃないか。そんなあたふたしたものの一端でいいから、経験していないから後悔のしようも、後ろめたさの必然性もない世代に伝わらないものか。
自分の行っている学校で、とってつけたような特集を組んで、ずっと寄り添っていますヅラを装う学校司書って、わざとらしくて薄っぺらいけれど、そんなことでもしなければ居たたまれないものがそこにあるんだ、と、若い世代の誰かの心に引っかかってくれないか。
10年前のあの日をモチーフにした小説で印象的だったのは、2年後の2013年3月に刊行された『想像ラジオ』(いとうせいこう/著)だ。これはちょっと凄かった。よくぞ、こんな小説に、と思ったし、どれほどの覚悟で書いたことだろうとちょっと畏敬の念を覚えた。
その後も、いくつか、この日のことが出てくるフィクションを読んだ。村上春樹の『騎士団長殺し』とか。これは、メンシキさんのインパクトが強すぎた、個人的には。
いちばん最近読んだのは『傲慢と善良』(辻村深月/著)だ。ネタバレするので多くは書けないが、ここに出てきた震災は、やはり刊行まで月日が流れたことを感じさせる描き方だった。そして、私よりずっとずっと若い、稀代のストーリーテラー(私が勝手に認定)が書くとこうなるのか、と感慨深かった。
これからは、どんな作品が生まれるのだろう。まだまだ生まれてほしい。
とりとめもない文章になってしまった‥いつもだけど。次回は、本来なら今回書くつもりだった、このサイトのwebデザイン担当のNaomiさんのお母様に不肖つまみが選んだ本のことをテーマにする予定。乞うご期待!
煽り予告してみた。
by月亭つまみ
凜
つまみさん、こんにちは。
「想像ラジオ」「傲慢と善良」読み終えました。
震災との距離感が全く違うのですが、どちらも読んで良かったです。
いとうせいこうの作品は初めてだったのですが、本当にラジオ聞いてるような語り手の軽妙さが、むしろどんどん重く食い込んでくる不思議というか。。。いや不思議じゃないんですけども。ああ感想伝えるのって難しい。
「傲慢と善良」は、震災を外側から時間がずっと経ってから静かな様子で描写してますね。想像ラジオはもうど真ん中でしたが。しかしこの心理的にぐいぐい抉ってくる感じが(婚活ってしたことないけども、そうだろうなあ・・とめちゃせまってくる)この作家さんほんとにすごいなと。個人的には柚木麻子さんと共通するものをなんとなく感じました。
いつもつまみさんがおススメしてくださる本は読まずにはいられません。
次回もとても楽しみにしてます!!
つまみ Post author
凛さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
わー!2冊とも読んでくださったのですか。
光栄です。そして「どちらも読んで良かった」とおっしゃっていただいて、最高のヨロコビに打ち震えております!!
『想像ラジオ』は、感想が表現しづらいですよね。
うまく言葉にできない感情を刺激されたというか。
この小説を書くにあたっては、逡巡もあったと思うのですが、それ以上に「書かねば」「書きたい」という気持ちが勝った、そこに敬意を表したいと、読み終わったときに、特に思いました。
『傲慢と善良』は、できれば顕わにしたくない、自分が向き合いたくない自分と対峙させられるような、でも、それをしないと乗り越えられない、その先の未来、みたいなものを、ちょっと震災を利用して表現した感じは否めませんが、いやらしさがかなり抑えられたのは、やっぱりこの作者の力なのだろうなあと思いました。
柚木麻子さん、『ランチのアッコちゃん』しか読んだことはありませんが、仕事先の中学校の図書室にはいろいろあり、今度読んでみようリストで待機中です(もったいぶった言い方)。
楽しみにしてますと言ってくださって、本当にうれしいです。
ありがとうございました。
凜
柚木麻子さんは個人的には「本屋さんのダイアナ」がダントツおススメです!
まさにつまみさんがおっしゃるところの、自分が向き合いたくない自分と対峙させられる、でもそれをしないと乗り越えられないという部分があります。読んでて憤りを感じるし女性として辛くもなるのですが、友情が大きなテーマで、とても心に残っています。ランチのアッコちゃんとはまた全然違う面白さがあるのでぜひ(^^♪
つまみ Post author
凛さん、わかりました。読みます読みます。
教えてくださってありがとうございます。
自分の本の感想で「読んだ」「読みたい」と言っていただけるのもうれしいですが、その流れから、こうして推薦本を教えていただくのって、点が線になって、それが三次元になるような、双方向以上の気持ちになります。
ホント、うれしいなあ。