晴れ、時々やさぐれ日記

〈 晴れ、時々やさぐれ日記 〉 ああ、物欲。シュジンとワタシのあいだ

 

――— 46歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――

 

 シュジンに物欲というものはない。シュジンにはまた見栄もない。

 

「 そうそう、自転車がダメになった」 先日、シュジンは言った。そりゃそうでしょうとも。何しろ自転車は10年前に買ったしろもの。油をさしたり、磨いたりというメンテナンスを一度もしないまま、毎日通勤に使っている。施錠だけは几帳面だが、その施錠は必要ないとわたしは思っている。

 

「 ダメになった?そりゃそうでしょう。買いましょう、新しいの。買いましょう、さてどのタイプがいいかな」誰の持ち物でもいい。「買い物」という行為に飢えているわたしの頭は、ちょっとこじゃれたヨーロピアンな自転車を既に数台思い描いて、にわかに浮き足立つ。

 

「いやいやいや。ダメになったのは後ろブレーキ。ブレーキパッドだけ交換すればあの自転車はまだまだ乗れる」

 

 

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そういえばシュジンの実家には、○○号とでも呼ぶべき昭和の自転車が未だにある。荷台もスタンドもおそろしく四角くて重そうな黒い自転車。「三丁目の夕日」的その自転車に80代のお義父さんが乗る姿を、わたしは実際には見たことはないが、さぞかししっくりとする光景だろう。

 

思うにシュジンの物に対する価値観は、彼の両親の昭和30年代的価値観がスライドしただけのいたってシンプルな価値観だ。昭和30年代、高度成長期前夜の価値観は、義両親の世代感覚としてならむべなるかなと納得はできる。

 

だがしかし、昭和39年生まれ、バブル期に青年期を過ごしたわたしと同じ世代のシュジンが、あの時代の空気からは微塵も影響を受けず、世代を超越したまま30年代的価値観の絶滅危惧種として現存している理由は何か。わたしは時折真剣に考える。

 

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シュジンは一人っ子である。そして一人っ子であることに特段の感覚はないと自分で言っている。それはすなわち、彼の両親が「一人っ子というのは○○だから」とか「一人っ子というのは○○になる傾向があるっていうから」という会話をせずに、親子三人の家庭を運営していた結果だと思われる。図らずも今のわが家も、小5の息子は「一人っ子」であるわけだが、この平成の「一人っ子」のことを昭和の「一人っ子」たるシュジンは少しも憂えてはいない。

 

二人の「一人っ子」を前に、深刻な憂いを抱えているのはわたし一人だけである。

 

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わたしにはまた、別の憂いが存在する。シュジンは未だに「工具」というものを持っていない。わたしの実家の父は、かなり立派な「工具」を持っていた。だからわたしは、家庭の中の「工」的場面というものはその家の男性の出番だと信じて疑わなかった。

 

以前、こんなことがあった。ご主人が教員をしている友人夫婦の引っ越しの手伝いに行ったとき、そこにはご主人の生徒さんが手伝いに来ていた。彼は名古屋では有名な私立の男子校の生徒であったのだけれど、いともやすやすと友人夫婦の古い借家のクーラーを撤去し、雨降る中で室外機の撤去作業までをやってのけた。教員であるご主人は彼に「お風呂に入って帰ってくれ。そうでないと君のお母さんが驚かれる」と言った。あれはなかなかに記憶に残るできごとだった。

 

さてモンダイはシュジンである。工具は持たないどころか、家の中のちょっとしたものの修理も彼には頼めない。蛍光灯の交換までが関の山だ。これでいいのか。

 

さらにモンダイは息子である。新しいジャムの蓋を開けるのでさえ「こういうことはお母さんが得意だ」とわたしにやってよこす父親に育てられて、息子はあの室外機の王子には育たない。( あの私立校にも程遠いのだけれど )

 

三代前から門外漢。親譲りの門外漢。わたしはひそかに歌っている。

 

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シュジンには物欲もなければ見栄もない。だからあのボロボロの自転車を自転車屋さんに持ち込んでもシュジンは恥ずかしくも何ともない。

 

シュジンには趣味も娯楽もない。Tシャツはおろか、プラモもおでんもお酒も、興味がない。それでも総じて穏やかに、日々淡々と情緒に起伏のない生活を送っている。

 

わたしには俗な欲望と邪念がある。シュジンとその両親を見ていると、わたしは我が身のよこしまさに気づかざるを得ず、よこしまはたてしまをも紡ぎ出し、はてはわたしオリジナルのタータンチェック柄の感情を織り出すに至る。

 

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週末、名古屋に出張で行っていたシュジンから帰り際に電話があった。                                    「何か買って帰るものある?」

 

わたしにはこの電話への準備があった。                                                  「シャネルのフレグランスの19番。どうしてもどうしても欲しいから小さいのを買ってきて」

 

こういう場合、わたしの主張は通ることになっている。                                            シャネルの19番が新幹線で手元に届く。鼻が、19番を吸い寄せている。

 

だがなぜか、電話に出たわたしは別の言葉を口走っていた。

 

「白河のひつまぶし3人分。わたしのは小さいのでいいから」

 

負けている。のまれている。ほぞをかんでいる。

 

 

 

 

 

 

 

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コメント、ありがとー!

  • 爽子

    うちのシュジンと真逆です。
    こだわりの中のこだわりにいるので、私が「適当に」見繕ったものはことごとく気に入らないのです。
    なので、近年自分で買ってもらうことにしました。

    そんな人といっしょに住んでると、どんどん毒気を抜かれてしまい、いろいろなことにこだわりというものがなくなってきています。
    どーーーでもいいやん!!と、自分の自由になるエリアは、逆方向に行くのに、加速が付いた状態です。

    しかし、そういったあらゆる放埒の結果、激太りしてしまいました。
    その結果、(多分)腰痛が出てきてしまいました。あたたた・・・
    友人がトリンプの骨盤ガードル「骨盤の気持ち」がきつくない割には、いいかんじだと言うので、これから買いに行ってきます。
    55年弱、ガードル付けてこなかったので、続くかなあ。ワンサイズ上を買おうと決めていますが。。。

  • okosama

    モノ・コトの骨格だけで十分という人々、おられますね。
    絶滅危惧種はサンクチュアリが必要です(笑)
    でも、工具はあって欲しい…。そこは私も憂いをともにいたします。
    そこで、その憂いをすこーし取り除くために、考えてみました。(余計なお世話)
    科学技術館×古い自転車×新しい工具×息子さん=メンテナンス王子の出来上がり!
    メンテナンス王子はいずれ室外機王子へと育つのです。
    科学技術館で自転車技術の変遷を見学し(○○号のような自転車もあるみたいです)、古い自転車に興味を向け、新しい工具でチャレンジ精神に火をつける。
    ブレーキを締め、リムをピカピカに磨けば、君もメンテナンス王子!(ほんまにそんなに上手くいくんかな)
    80年代のメンズ雑誌を思い出しますと。靴の手入れ、シャツのアイロンがけ、銀製品の手入れなど様々なメンテナンス特集がありました。(自転車はなかったかな?アウトドア系でした?)その現代思想を少し取り入れてはいかがでしょう。

  • サヴァラン Post author

    爽子さま ありがとうございます!
    美意識の高い旦那さま、
    世の中にはそういう旦那さまがいらっしゃるんですよね。(遠い目)
    いやしかし、「毒気が抜かれる」感じはわかる気がします。
    いやいやわたしの場合、毒が全身にまわり過ぎて
    自分の毒に感度が鈍化した状態、かも知れません。
    いずれにしろ、もうセンサーの針が振り切れて
    自分とシュジンのかみ合わなさを遠い目で見る境地、です。
    こういう地平に目をやるような心境が
    体重の増加を助長するという現象も、わかります。わかりすぎますー。
    わたしはトリンプのおそらく相当かたい部類のガードルを
    長年愛用しております。補正というより偽装。
    偽装はすでに常態化しておりますので
    このガードルがあってこその「われ」。
    これがないときは「われならぬわれ」、状態です。
    トリンプの「骨盤のきもち」って 秀逸なネーミングですね。
    骨盤のきもちとわたしのきもち、
    ゆったり、サポートしてくれるといいですね。

  • サヴァラン Post author

    okosama さま ありがとうございます!
    「モノ・コトの骨格だけで十分」という人種の存在。
    そうなんです。
    余計な「ヒレ」をためらいもなくトリミングできるトリマー力にあ然とします。
    「絶滅危惧種のサンクチュアリ」
    わたしはなんでこのクジを引き当てたのかと天を仰ぎます。
    「工具はあって欲しい…。そこは私も憂いをともにいたします」
    わたしの愚かな憂いをご理解いただいて感涙でございます。
    80年代、メンズ雑誌、ありましたよね。そうなんです。そうなんです。
    わたしは、「靴の手入れとシャツのアイロンがけなんて当たり前」という
    殿方を募集していたハズなのに…。
    100歩譲って、仮にそれをする習慣がない殿方でも
    そう仕向けるのはたやすいことだと思っていたのが運のつき。
    いやいやいや。
    靴は歩ければ十分、シャツは着られれば十分という人種に
    それを指導することは
    クジラを陸にあげるようなものだと理解するに至りました。
    かくなる上は
    息子をなんとか「メンテナンス王子」に無理やり仕立て上げ
    「三代前から無頓着」の因習を断ち切ることを画策しております。
    それにはやはり人間の生活文化の歴史に触れさせ、
    連綿と続く文化の端緒を紐解くことからかしら、と。
    いただいたアドヴァイスをもとに鼻息荒くいたしております。

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