青蓮の「マサラをちょいと~人生にもスパイスを効かせて~ VOL.12」
やるせなさと切なさと。でもインドで生きてゆく。
先日からニュースでも取り上げられている「インド、給食への農薬混入による児童死亡事故」。日本のメディアには「調理用からし油を水増しするために入れた液体が農業用殺虫剤だった。」「倉庫に調理用油と農業用殺虫剤とが隣り合わせにおいてあった。」「油の味がおかしいと報告があったにも関わらず校長が対処しなかったため、惨事になった」などなどの記載がありました。
でもね、日本人が一般的に理解する単なる「給食」制度の中でおきた事件ではないのです。
その背景には根強い「教育問題」が潜んでいるんですよね。
連載の最後にこの話題は重すぎるかな、とも考えたのですが、インドの置かれた現状を知っていただくため、最終回も熱く語りたいと思います。
「インド」のことを紹介するとき、それはあまりに多様すぎて全体にあてはまらないことだらけで、どこかに「これは〇〇地方の場合」とか「〇〇コミュ二ティーに限る」とか注釈をつけねばならないことが多く、なんか言い訳がましくなるのが
自分で情けなく、やるせなくもあります。都市部と農村部、富裕層と貧困層、識者と教育を受けていない人々、ジェンダー問題・・・・世界中のいろんなややこしいことが全部集約されているんじゃなかろうか、と思えるほどの多種多様な問題が山積み。でも、それから目をそむけていては生きていけない国です。同じように考える人が世界各国にいて、だからNGO大国なんて言われているわけで。
たとえば前述の「給食」制度ですが、これは政府のミッドデイ・ミール政策に基づいているのです。もとをたどればインドがまだイギリスの植民地であった20世紀初頭から始まったもので、
国公立学校で無料でランチを出すシステムのこと。この政策の目的は主に4つ。
1)子供たちを飢餓から救い、栄養失調をなくす。
農村部の貧しい家庭では、一日一食もままならず、悪天候による不作の年などは更に酷い状態になる。また偏った食事のため、栄養失調になったり する子供が多かったことから。
2)就学率、継続的に通う子供の人数を
増やす
特に田舎では「学校に行かず、家の手伝いをしたり他所の家のお手伝いさんとして就業したほうが現金収入が得られるため、子供を
学校に行かせる必要がない。特に女子は
学校に行って余計な知恵がつくとろくなことがない」と考えている大人が多いのが現状。
一食を供することにより意識改革へとつながるよう、との考え。更には小学校段階での退学率を改善するため。
3)カースト、階層に分け隔てなく、ともに食事をすることにより社会性を身につけさせる
田舎に行けば行くほどカースト制度は根強く残っており、差別意識も強いことから、まずこの悪弊を子供のころからなくすため。
4)女性の雇用を増やす
給食を作る、配膳するための女性の雇用。更には女子の就学率を上げることによる識字率の底上げがひいては女性雇用につながるため。
この政策に1980年代から積極的に取り組んだのがタミル・ナードゥ州でした。一軒一軒を回り、就学児を見つけ出し、学校に通わせ、ミッドデイミールを提供する。学校の数を増やし、徒歩圏内で通えない場合には交通費を助成する、などなど・・・・・地道な努力が実を結び、タミル・ナードゥ州の識字率は95%に。その後2001年にインドの最高裁がこのシステムを全国的に採用するように促し、現在に至っているのです。
が、残念ながらこのミッドデイミールを
作る場所が衛生的ではなかったり、給食を調理する人が専門の調理師ではないのでメニューにバラエティがなかったり、ほとんどの場合が見るからにおいしくなさそうな「豆のカレーと米、またはチャパーティー」という場合が多く、材料費として支給されているはずのお金が役人の懐に消えていたり、調達すべき食材の予算を削って差額を着服したり・・・・と、もろもろの問題を孕んでいたのも事実。しょうがない、政府のお達しだから食事を作って与えるか、っていうスタンスが見え見えだった感もあり、折に触れ問題視されていた政策でもあったのです。食中毒などが起こっても日常茶飯事と軽く片付けられていて、今回死亡事故が起きてやっと政府も扱いに本腰を入れたというか。
更には「教育」という国の発展に欠くべからざる分野で、負の連鎖がおきている現実も見逃せません。就学率が低いのは・・・・学校の数が少なく通える範囲にない・国公立学校の教育レベルが低い・教師が確保できない・確保できたとしても正規の教員免許を持っていない などなどの理由。都市部では私立に通うという選択肢があるのですが、田舎だとそのチョイスもない場合が多いのです。今回の油に農業用殺虫剤が混入する事件でも、ひょっとしたら調理人さんが字が読めなかったから、言われたとおりに混ぜてしまったんじゃないかとも思えるし。
貧困層の多い地域では、学校で支給される「ミッドデイ・ミール」をあてにしなくては一日食事にありつけないかもしれない子供たちがいる反面、都市部の私立校ではホテルのケータリングサービスが入ったビュッフェ式レストランがあったり、焼きそばとか調理パン、ソフトドリンクやポテトチップなどが買えるような売店があるのは普通のこと。そういった両極端なことがらがそこここに溢れています。
また、女の子は特に「お手伝いさんとして都市に出稼ぎに出して、そこで花嫁修業を兼ねて家事を身につけ、村に戻って結婚する」ことが当然だと思われていて、はなから学校教育はいらない、とされている地域もあります。そういった層にむけて「教育をうけると、こんな風に可能性が広がるんですよ」というユニセフ主導のキャンペーン「Girl Star」というのがあり、代表的な「養蜂家アニータの話」や「政治家になったマードゥリーの話」はインド政府指定・社会科の教科書でも紹介されています。何度観ても涙が出てくるのですが、そうとばかりも言っていられない。
思い返せば「飢饉で食べ物がない」という状況は日本でも幕末維新以前の東日本では多発していたこと。女子教育の必要性が認知されていなかったというのも、日本でも昔はそうだった。日本は、日本人はそれらをどうやって克服し、淘汰し、成長していったんだろう。なにか、日本人だからこそできることがあると信じて、日々突き進んでいます。
やるせないことが多く、理不尽な扱いを受けている人々のために憤慨し、なんとかできないもんだろうかと思うのが人の子のこころ。私にできることはなんだろうか、と自問自答しながら、試行錯誤をくりかえしながらのデリー暮らし。これからもメディア・コーディネーターの仕事を通じてインドのことを発信し続けるつもりです。まずは現状を知っていただかないことには。
コメントを頂戴し、これを知りたい!とご質問いただいたのに、連載の中では伝え切れなかったことも多々ありました。みなさまとのご縁を大切に、これらも引き続きぼちぼちブログで気になる話題、インドの現状を取り上げてご紹介していきたいと思います。
みなさま、ひとまずナマスカール!(ナマスカールはナマステーよりも丁寧な挨拶言葉です~)
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★今回で青蓮さんの連載は終了です。毎回、インドの美しさ、華やかさ、奥行き、そして複雑な現実を伝えていただきました。
連載は終了しますが、青蓮さんのブログをこれからもご覧ください。
青蓮さん、ありがとうございました!→青蓮さんのブログ
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YUKKE
青蓮さん!
楽しい連載ありがとうございました。
給食のこと、世界のたくさんの人に、現状を知ってもらいたかったので、嬉しい限りです。
シュークリア!ダンニャワード!!
アルト2号です。
最後の連載 Yさんらしい視点でインドに住んでいるからこそ 直面し どうしたらいいかと手をこまねくのは 皆さんご一緒ですね。できることから 手を差し伸べさせてもらっています。私たちはこの地に住まわせてもらい 恩恵を受けています。なにかお返しできたら いつもそう思っています。私の知らない現状を知ることが出来てまた 考えさせられています。たくさんの ハッピーと知恵と心に残るものを ありがとうございました。Yさんの文章が大好きです。Yさんの心も痛いほど感じました。(涙)全部読みましたよ~
また連載あるといいな!!
さくら
このニュースを報道で知った時は胸が痛くなりました。
逃亡していた校長が調理担当者にどのように指示したのかも、
今となっては正確な事はわかりません。
青蓮さんが書いておられるようなミスかもしれませんし、
学校か校長への嫌がらせという可能性も考えました。
デリー在住時、家のスタッフとの付き合いから感じたのは、
教育の不十分さは予想行動の欠如を招き、
揉め事の種となることが多い、ということです。
もし、調理スタッフの中に字がきちんと読める人がいれば・・・。
もし、味や臭いの違う給食を食べることを強要しなければ・・・。
もし、悪しき誘惑に駆られた人が、自分の行いが生徒の命を奪うかも・・・と想像できれば・・・。
もし・・・を考えればキリがありません。
願わくば、世界各国で学んでいるインドのお金持ちの人々が
国内の教育問題へも関心を持ち、自国の教育の底上げのために
行動を起こしてくれることになりますように。
(使用人が賢くなるとと、使いにくいというエゴも出てくるかな・・・・・)
それと、最後になりますが・・・
青蓮さんの記事は毎回楽しみに興味深く読ませていただきました。
今回が最終回というのはとても残念です。もっともっと読み続けていたかったのに・・・。
国土も広く、地域ごとに全く違う顔を見せてくれるインドは
底知れぬ力を持って、多くの人を惹きつけ続けてくれます。
少しくらい生活したくらいでは、吸収しきれない魅力あふれる国。
遠くない将来、もう一度ゆっくりと旅する日を待ちながら
青蓮さん発信の情報を、少しずつ新しい味をかじりながら
将来への栄養とさせていただきます。
Yoko
青蓮さん、コラムの連載、大変お疲れ様でございました。
毎回楽しみに拝読させていただいておりました。
インドのことを的確な言葉でご紹介くださり、深い感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、とても勉強になりました、本当にありがとうございました。
わたしも早いものでもう10年、インドに住んでいますが、まだまだ日々の生活に精一杯なところがあって、いろいろなことが消化しきれないまま、悶々としています。
そんな中、青蓮さんのようにさまざまな出来事に真摯に向き合われている方のお姿に接して、反省したり、深く考えさせられたりしてばかりです。
今回の痛ましい事件については、この国においては残念ながら「どこででも起こり得る」ことだと思っています。
そして前途ある子供たちがこんな形で犠牲になってしまったことに、言葉も出ません。
どんな事件でもそうですが、大きく取り上げられるようになって初めて、注目が集まり、政府や国民が考えるきっかけになっていますが、それにしても犠牲が大きすぎることばかりです。
わたしは、将来インドに必ず恩返しをしなければという気持ちがありますが、こうした事件に触れることによって、いったい自分には何ができるだろうかと、呆然としてしまいます。
でも、「日本もほんのわずか昔には同様の状況であった。だからこそ日本人として何かできることがあるはず」という青蓮さんのお姿を支えにして、これから一生懸命に考えていきたいです。
いつも、さまざまなことを教えてくださり、本当にありがとうございます。
さっちょこ
ボロボロ泣けました。熱いメッセージが胸に突き刺さります。最終回なんですね、寂しいです。
世界にちゃんとした現状を発信できる青蓮さんだからできるこのお仕事、ほんとに素晴らしいですね。私もそうですが、こういった記事を読んで一人ひとりの心が動かされて何かが変わっていくといいですね。
ガオガオ
ブログとこちらとで二つ同時に青蓮さんの文章を読むことができて幸せでした。
また二つ、三つ、四つと同時に読みたいです。
青蓮さんのインドへのまなざしが大好きです。
青蓮さんの目から見る世界にいつもハッとさせられます。
知って感じて考えさせられて。。。
ありがとうございました。お疲れ様でした!
カリーナ
土曜日にこちらの記事にコメントをくださった方
大変申し訳ありません。手違いでコメントを削除してしまいました。
せっかく素晴らしいコメントをいただいたの本当に申し訳ありません。
もしお手数でなければ、簡単で構いませんので感想をお寄せくださいm(__)m
大変申し訳ありません。
Rie
記事読ませていただいて、勉強になりました。ありがとうございます。
私も、常に、主人がインドでお金儲けさせてもらっている分、何か返していきたいと思っています。目に余るいろいろな酷い実態を劇的に変えることがえきたらいいですが、なかなかそうはいかないので、とにかく、接する機会のあるインド人に優しさの種をまいていければと思っています。
サヴァラン
青蓮さま。
インドからの貴重なおはなし、ありがとうございました。遠い異国と思っていたインドというお国の広さと深さ、温度と湿度、明と暗、ぐっと身近に感じさせていただきました。衣食住、歴史、文化、習慣、国民性etc…。わたしの中のインドが立体感を増しました。互いの違いを知ることで却って際立って見えて来る、「ひとの暮らしの本質」というものも考えさせていただきました。インド更紗のアッパッパ―、わたしもオーダーメイド、しに行きたいです!恋しさと切なさと心強さと~♪ ナマステ、インディア!ナマスカール、青蓮さん!