〈 晴れ 時々 やさぐれ日記 〉 「 ああ、ランジェリー。 理想と現実のあいだ 」 その一
――— 46歳主婦 サヴァランがつづる 晴れ ときどき やさぐれ日記 ―――
わたしは寒いとやさぐれる。 (「やさぐれる」:すねる。ふくれる。無気力で投げやりになる。)
この状態はまったく歓迎できるものではない。できることなら予防をしたいし、よしんばうっかりその穴に落ちたとしても、できるだけ穏便な方法で、人知れずすみやかに生還したいものだと切に思う。
「やさぐれ」にはまた、レベルがある。軽度やさぐれ~重度やさぐれまで。軽度の場合は対処がまだいろいろある。少し丁寧に肌を整える。外に出る。ひとと会う。CDやDVDの力を借りる。マニキュアを塗り直す。引き出しを片付ける。緑を飾る。椎茸やお豆を煮る。下手くそなお習字をする。下手くそな絵を描く。下手くそなレース編みやクロスステッチに没頭してみる×××××。
外に出たくない。ひとに会いたくない。動きたくない。やさぐれが段階をすすめたときどうするか?最近編み出したひとつの処方箋は、ローズウォーターを顔や髪、特にうなじあたりにひと吹きするという方法。ドラッグストアの資生堂「ばら園」のそれでもいいし、サンタ・マリア・ノヴェッラのものならなおよし。
ローズウォーターは、とりたててはっきりした効能があるわけではない。サンタ・マリア・ノヴェッラはこれを「リフレッシュナー」と銘打っている。ばらの香りの水をひとふきし、あたかも心身とも美しい麗人になったような錯覚に浸る。その刹那をとらえて何かの行動を起こせば、「やさぐれ」の穴から脱出できることが多い。ちょっと億劫なアイロンがけで、これをほんの数滴、霧吹きの水にたらせばリネンウォーターにできる。寝る前に枕にたらせば「眠れる森の美女」気分にもなれる。
( サンタ・マリア・ノヴェッラは、パッケージや包装もさることながらお店の意匠が重厚で素敵。海外旅行気分も少しだけ味わえる。このお店でわたしがお財布を開けるのは、ローズウォーターどまりだけれど、いつか誰かにあの美しい石鹸やアルメニア紙を贈られてみたいものだと妄想は膨らむ。友人へのプレゼントを探していた母に、ローズウォーターを勧めたところ、母周辺のおばばさまたちに人気の由。よしよし。)
問題の核心は、やさぐれがローズォーターでもリフレッシュされないとき。脳内自己イメージが有明海のムツゴロウにまでなると、フィレンツェの伝統ある薬局のリフレッシュウォーターももはやただの水と化す。
ずいぶん古いはなしだが、丸谷才一の「女ざかり」という小説の中で、男性社会の軋轢に苦しんだ女性主人公が、デパートでスカートを買って気分転換するというシーンがあった。それを読んだ友人とわたしは、「ヘンだよね」と声を揃えた。
大新聞社の論説委員である45歳の主人公が、自分が書いたコラムがもとで会社組織と政府与党からの圧力に翻弄される。繰り広げられる攻防の最中、彼女の心理的な危機を救ったかのように登場するのがスカート購入の場面だ。
「この一枚!」というスカートとの出会いは、こんな出来すぎた状況の中ではありえない、というのが友人とわたしの意見だった。「何かでこの穴を埋めたい」ともがけばもがくほど、その「何か」は手に入らない。事態はからまわりし、穴はさらに深まるのがこういうケースの常道のはず!第一スカートというのは、デザインやサイズ、着ることのできるシチュエーションと、ケッコウいろいろな制約がある。
別のシーンでは、口紅を一本買う、というのがあった。こちらはわかる。スカート一本より、口紅一本はものとしてのサイズは小さい。その割に新しい口紅というのはダイレクトに即効性がある。高価なジュエリーを衝動買いするよりも、新しい口紅を塗った自分の顔に「あ。」という小さくて如実な新鮮味を感じることで、気持ちが持ちあがる。これはたしかに現実味がある。
結局主人公は、親類縁者の横のつながりと日本固有の「贈り物文化」の慣習をもってして、身にふりかかった難題を解決する!というストーリー展開に、わたしとその友人はプンスカしたのだった。これを「女ざかり」とな?
おっと。「やさぐれ」は「プンスカ」とたいそう親和性が高いので、ついついはなしが「プンスカ」の方へ流れてしまった。おまけにはなしのスケールが大きすぎる。いけない、いけない。わたしは今日、持病の「やさぐれ」の対処法について考えていたんだった。。。
そう。「やさぐれ」は、「プンスカ」を大量生産する。「ああ、わたしはなんてどうしようもない生き物なのだ」と地を這う気持ちの一方で、目にするもの耳にするものへの批判や非難がおそろしいほどに心の中で堰を切る。他者を否定することで自分を肯定しようとでもするのか。あさましい自分、さもしい自分にほとほと嫌気がさす。
もうこうしてはいられない。主婦はお財布を握りしめる。有明海の干潟から立ち上がる方法として、主婦が呻吟して編み出した方法がここにひとつある。「ランジェリーを買う」。
主婦は自らの嗅覚で探り当てたネットの通販で、「これ!」という一枚を入念にチェックする。このネットショップは購入前にかなり丁寧な相談にのってくれる。豊富な商品知識は、地元の小さいデパートの下着売り場よりも正直に言って信頼に足るし、判断力が弱った主婦が「この際これでもいっか」的なスタンスを見せると、すぐさま「今回のこのお品のご購入はお勧めいたしかねます」というメールが返信されてくる。
かくして、品物が手元に届く。黄色やピンクの薄紙に包まれたそれには、カーリングリボンの結び目に、「笑顔 同封。」だったかな、とにかく短い手書きのメッセージが銀色のインクで毎回添えられている。ちょっと、いや相当気恥ずかしい。主婦は家人のいないうちに、一人自宅の脱衣室に移動し、試着をこころみる。
みなさんがランジェリーを選ばれるとき、いつ、どこで、何を基準に選ばれるんだろうと気になりながら、この日記は次回へ続けさせていただきます。 ( サヴァラン )
Tomi*
私も寒いとやさぐれます。寒いの嫌いだ〜〜〜
そんな私が秋田で暮らしているのだから、人生わからないものですね…
サンタ・マリア・ノヴェッラの石鹸、娘が愛用しています。
私にはとても手が出ないので
娘と一緒に上京した時にくっついて行って
「うわ〜〜、素敵なお店〜〜〜〜」と、ただただ感嘆!!!
ランジェリーと呼べるようなものは買ってないなぁ…
ババシャツ&ババパンツ愛用。
taketsuma
私もランジェリーは持っていない。あるのは「下着」
とにかく、窮屈でない、洗いやすい、洋服にひびかないなど機能重視と価格重視。
引き出しに入れて、もしくは干していて「かわいい」ものは一切ないです。
あ、これは年齢と共に自作弁当が茶色になっていくのと同時に変化している気がします(私の場合)
爽子
ランジェリー・・・と呼べるものを密かに身につける・・・そういう生活をしたいです。
ご紹介いただいた下着屋さんに一度行ってきたいです。行こうと思えばいつでも行ける場所やん。
若い頃、母が用意してくれた下着をおとなしく身につけていたのですが、それがたいしたシロモノでして、
私の貞操の保持に少なからず役立っていたように思います。
冒険もせず、随分損をしたと悔やんでおります。
今は、ウィングのレースの綺麗なシリーズのものを愛用しております。
やはり刷り込みは脱し難く、デザインは随分保守的ですが、自分なりに満足。
ガードルは、幼い頃から現在に至るまで、身につけたことがありません。
お肉、放牧状態です。
とても健康的にのびのび成長中です。笑
ぶんぶん8
独身の頃はランジェリー大好きでしたが、出産を境に香水と一緒に封印していました。
娘たちももう大体育ち?、私も自分のことに目を向ける余裕が出来て来ました。
おととしの夏、ちょっとしたきっかけから久し振りにTバックを身につけて、とっても快適だったので、段々と数も増え、今年の夏は殆んどTバックで過ごしました。(冬はちょっと寒いので、今はお休み中)
ちょっとたるんだお尻には普通のショーツより心地良いです。
そして何より、自分のお尻を愛おしくなる気持ちが湧いてきました。
初対面の人には、必ず、教師をしていると思われる外見の私ですが、真面目なイメージの服の下は時にはセクシーなランジェリーです(笑)。
誰に見せるでもない、自分だけの楽しみですが。
自分を大事にしている感じがして、なかなか良いです!
サヴァラン Post author
Tomi* さま。
よかった。寒いとやさぐれるお仲間がいらして。
>そんな私が秋田で暮らしているのだから、人生わからないものですね…
ほんと。そう思います。
「わからへんのが人生だ」と上下をさかさまにしちゃおうかと。
お嬢さまのサンタ・マリア。あの石鹸いいなぁ。
ああ、ぴったり!夢と現実のあいだの最適解。
お店、ほんとに素敵ですよね!
「うわ~~~」が大事と思います。
脳内でいろんな「うわ~~~」を解凍しながら、越冬しようと思います!
サヴァラン Post author
taketsuma さま。
ありがとうございます!
みなさんのコメントを拝見して、「ああ、しまった。」と思いました。
わたしの「ランジェリー」のイメージは相当雑で 広すぎたな~と。
女性が着る下着=ランジェリー。
そのくらいのイメージでした。あちゃ~~~。
この↓線引き!ここ大事ですよね。
>引き出しに入れて、もしくは干していて「かわいい」もの
そしてこれ↓
>窮屈でない、洗いやすい、洋服にひびかないなど機能重視と価格重視。
上の要件の二つ!
これこそがまさに今のわたしが探したい
「ランジェリーの理想」「ストライクゾーンのランジェリー」です!!
サヴァラン Post author
爽子 さま。
上のtaketsumaさまへのコメントにも書かせていただきましたが、
わたし「ランジェリー」を持ち出しながら、
「女性下着=ランジェリー」くらいで考えてました。
そうです。そうです。
「ランジェリーといえるランジェリー」の領域がありますよね。
爽子さまご愛用のウイングの下着。今度チェックしてみます!
おはなし伺うに、
わたしも爽子さまと同じ「下着の歴史」を歩んでますので、
そのレースの下着、とっても気になります!
ガードル。
以前友人が、矯正下着(上下がっちり)に
えらく執心していた時期があって、
当時本人には言えませんでしたが、
ちょっとサイボーグみたいでした。
本人は気合で着ていたようですが、
なんか窮屈そうで、見ていてしんどかった。
で、やめたそうです。
ほっとしたって言ってました。
わたしもほっとしました。
すみません。おかしなはなしになって。
サヴァラン Post author
ぶんぶん8 さま。
ありがとうございます!
>出産を境に香水と一緒に封印
ああ、わかります!そうです。そうです。そうでした。
そういうものと縁遠くなることがとても寂しかった時期を過ぎ、
無風状態みたいな時代も経て、
あら、気が付いたら ちょっと手が出せるようになったじゃん。
寂しい思いのママたち、大丈夫!がんばれ!!
そう言いたい気持ちがあります。
「自分を愛おしむ」「自分だけの楽しみ」って大事ですよね。
「自分で自分を支える」わざとしても。
若い頃からの変遷をたどると
プラス→ マイナス→ で、今ちょいプラス
な感じでしょうか。
マイナス時代があったからこそ、
自分の好みやサイズも見えてくる。
ぶんぶん8さまの秘密のギャップ。
うわ~、それとても魅力的!
わたしもそういう魅力を身に着けたいです。