ザビ家訪問!荒れる海のむこうで、えべっさんが笑った。
アラフィフにして独女生活に終止符を打ち、シマ島の五十路男子ザビエルことザビ男と結婚する決心をしたわたくし、じじょうくみこでございます。まずはザビ家のご両親に結婚のご報告をすべく、入念な試着の末に勝負ワンピースを選んだところで、前回のつづきです。
同じ敷地にいながらも、一度もお会いすることのなかった幻のザビパパ、ザビママ。ようやく会えるのだわと胸躍る一方、友人たちに「ご両親は賛成なの? 小さい村ほど嫁は子供生まないと…とかうるさそう」などと言われるたびに、心に不安が生まれておりました。子供についてはザビ男との間で話してありましたが、トウのたった嫁についてご両親がどう思っているのか、ザビ男に聞いても「大丈夫だよ」と答えにならない答えが返ってくるばかり。
こうなったら1日も早く面会して自分の目で確かめたい!と思うのですが、当時ザビ男とわたしはマックス仕事が忙しい時期で、そのうえ天気も荒れておりました。さんざんスケジュールを調整して日程を確保しても、その日に限って船が欠航したり、飛行機が満席だったり。そうやってスケジュールを何度も仕切りなおすうちに、まるで「お前はくるな」と言われているような心持ちになっておりました。
ザビ男もザビ男で、旅行のときには休みを微調整したり他のルートを考えたりしてギリギリまでがんばるのに、わたしの島行きについては「ムリしないほうがいい」とあっさり断念。あきらめ早すぎて「ちょ!もうちょっと粘ろうよ!」とキレそうになることもしばしばでありました。出発直前に季節はずれの台風が来たときなど、その日休むためにかなりムリをしていたので「1日前倒しすればなんとかいけるんじゃないかな?ね?ね?」と粘ってみると、天気図を見ながらザビ男がひとこと
「この日あきらめたことを感謝する日が来るであろう」
……神?
そんなこんなで蛇の生殺し状態がしばらく続き、緊張と不安で吐きそうになっていたところ、ザビ男とわたしの休みが合う奇跡的な1日が見つかりました。この日を逃すと、当分都合がつきそうもありません。「今度こそ絶対行くから! お父さんお母さんにちゃんと話しといて!」と釘をさし、その日が来るのを祈るような気持ちで待っておりました。
たのむから行かせて~
そして迎えた決戦前夜。
幸いなことに天候も荒れず、今度こそ渡れそうだとホッと胸をなでおろしながら、ザビ男と最後の打ち合わせをしました。
「ところで明日の段取りってどうなるのかな?」
「飛行機が着いた後の午前中のうちでいいんじゃない?」
「うん、それがいいかもね」
「昼の飛行機で母親が東京に行くし」
「え…?」
「体調を崩して急に病院に行くことになった」
「ええええ???」
結婚の挨拶は双方にとって、それなりに大事なイベントだと思っておりました。なのにわたしが行くのがわかっているのに、当日すれ違うようにお母さんが東京へ行くという。それほどの重病なら挨拶自体を延期したほうがいい気がするし、重病でないのに当日不在にするということなら何らかの意思を感じます。
「わたし、行かないほうがいい…?」と言うと「大丈夫だから。どっちみち飛行機は朝イチの便だから変更がきかないし、午前中は2人ともいるから。とりあえずおいでよ」とザビ男に言われ、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、ひとまず島へ向かうことにしたのです。
決戦当日。
それまでの悪天候が嘘のように、その日は朝から気持ちのいい快晴。わたしの寿命をさんざん縮めてきた飛行機もまったく揺れず、初めて遊覧飛行気分で空の旅を楽しんだその先に、朝の光を浴びてキラキラと輝くシマ島がありました。
ぶじ上陸完了。例のワンピースに身を包み、ついに面会!であります。
母屋に上がると、ザビ男はスタスタと畳敷きの居間…ではなく台所に向かいました。四畳半ほどのダイニングには、テレビを見ているお父さんと、台所仕事をしているお母さんの姿が。いかにも日常の風景ですといった風情の2人の前にザビ男はどすっと座り、2人に席につくように促し、わたしには隣に座るように言いました。
どんな人だろう。怖い人かな、嫌われたらやだな、うまくやっていけるかな。それまで抱えてきたいろんな不安は、ザビパパ、ザビママを初めて見たときに一瞬にしてぶっ飛んでしまいました。なぜなら2人が、亡くなった母方の祖父母にそっくりだったからです。
じ、じいちゃんっ! ばあちゃーーんっ!ヽ(;▽;)ノ
あやうく抱きつくところでした。
一方、お父さんとお母さんの顔には「え、誰?」と書いてありました。
「どなた…?」
「この人は、じじょうくみこさん。今度、うちで一緒に暮らすから」
「暮らすって、ここにかい?」
「そうだよ」
「暮らすって、どういうことだい?」
「嫁さんになるってことだよ」
「嫁さんって、どういうことだい?」
「だーかーら、この人と結婚するってこと!」
ひやああああああああああ
ザビ男が、ザビ男が初めて「結婚」って言ったああああ!!(照)
ひとり舞い上がっていたら、ザビママがわたしを見つめて喋り始めました。
「◎△%&#$**??@%&◇$!**@%&▼●&♪#!!#><◎△%&#$**@%&◇$**@%?&▼●&♪##><$&」
ほほうこれはまたなんとも
キレイさっぱりわからない
シマ島の方言はかなり強いと気づいていましたので、何かにつけて島民の会話に耳をそばだて、よしよしだいぶヒアリング力がついてきたぞと思っていたのですが、とんでもなかったです。ネイティブシニアの訛り、ハイレベルすぎてもはやどこからどこまでが単語なのかもわかりません。しかたないので満面の笑みでニコニコ聞くだけ聞いて、ザビ男にこっそり通訳してもらいました。どうやらどこに住んでいるのか、シマ島には何度か来ているのか、と聞いているとのこと。
わたしが返事をすると今度はお母さんのほうが、満面の笑みでニコニコ聞いて黙っています。するとザビ男がひっそりと「東京に住んでいて、島には何度か遊びにきているってよ」とお母さんに通訳したのです。どうやらザビママ、耳がお悪いようです。
くみ「(ニコニコニコ)」
ママ「(ニコニコニコニコ)」
くみ「(ニコニコニコニコニコ)」
ママ「(ニコニコニコニコニコニコ)」
笑顔で通じ合う奇跡のカンバセーション
何はともあれ、お母さんは重病ではなさそうでひと安心。糖尿病の持病があり、急に数値が悪くなったので診てもらうことにしたとのこと。でも、よくよく聞くと病気というより、通院を理由に実の娘(ザビ姉)のところに遊びに行きたい、というのが本音のようでした。
一方、ザビパパは膝がお悪いようですが、カクシャクとした立派なご老人という風情。標準語でいくつか質問をされたあと、お父さんはこう言いました。
「じじょうさん、島の暮らしは都会の暮らしとはまったく違います。厳しい暮らしに耐えられず、島を出たり入ったり腰の落ち着かない人も多いです。あなたがそこをきちんとわかっているのなら、私たちはあなたを歓迎します」
そう言うと、お父さんは「来客があるので、これで」と席をはずしてしまい、お母さんは飛行機で東京に行ってしまいました。
はい、パパママ挨拶、わずか10分で終了~~~ヽ(・∀・)ノ
ようやくミッション完遂して緊張が解けた、というよりも、パパママの態度を思い返すたび、不安がどんどんふくれあがっておりました。短い挨拶。そっけないお父さん。行ってしまったお母さん。わたし、この家に歓迎されていないのかもしれないなあ。いくらザビ男が味方になってくれるといっても、この小さな島で両親に歓迎されないのはかなりしんどいなあ…。
そんな風に悶々としていると、夕方になってザビパパから「お寿司を取ったからいらっしゃい。一緒に食べましょう」と連絡。既にワンピースも脱いでラフな格好でしたが、着替えるのもおかしいかと思い、そのままザビ男と母屋に行くことにしました。
すると朝と同じダイニングで、お父さんが笑顔で待ち構えていました。焼酎の水割りでちびちび晩酌するのが毎日の楽しみのようで、頬を赤らめたお父さんはニコニコ満面の笑み。お酒が入ったせいか朝よりずっと饒舌で、お寿司を食べながらいろんな話を聞かせてくれました。
「じじょうさん、私はね、今日は本当に嬉しくて嬉しくて。お母さんも同じ気持ちです。きっと今頃、娘にあなたのことを報告をしていると思いますよ。いきなりあなたを連れてきたときは本当にびっくりしたけれど、今日はね、えびす講といってね、とても縁起のいい日なんですよ。
神無月というけど、全国の神様が出雲に行ってしまうわけでしょ。神様がいない間は、えびす様が残って留守番するんですよ。だから、えびす様がひとりでさみしくならないように、ごはんをお供えするんです。そういう、とても大切な日に息子があなたを連れてきてくれて、こんなに嬉しいことはないですよ。
本当に、今日はいい日だ。嬉しい、嬉しい。嬉しくて嬉しくて、こんないい日はないですよ、なぜなら今日はえびす講といってね、神様が出雲に集まっているあいだにえびす様がね……」
と都合3回、同じ話がリフレインしましたが、酔った勢いとはいえお父さんがそんな風に喜んでくれていたことがわかって、ちょっと泣きそうになりました。あれだけ探し回ったワンピースはまったく活躍できなかったけど、思っていたようなちゃんとした挨拶もできなかったけど、お寿司をたらふく食べ、たくさん笑って、酒を酌み交わして、とてもいい夜でありました。
なお、ザビパパによるとわたしの訪問は知らされていなかったらしく、いわゆるドッキリ以外のなにものでもなかったようです。
大成功~
そりゃビックリするわな。
ザビ男は「挨拶に来るからって事前にちゃんと話したんだよ」というので、パパママが失念したのか、伝達がうまくいかなかったのかはわかりませんが、もしもザビ男がわざわざお日柄のいいえびす講の日に合わせて日程を調整して、わたしがこの日に来るように仕向けていたとしたら、なるほど確かにこの選択に感謝する日が来たよ、アンタ神だよ!
ま、単なる偶然だと思うけどね(`・∀・´)
というわけで、とにもかくにも第一関門突破。ザビパパ、ザビママに認めてもらえて、ようやく「ああわたし結婚するんだ」という実感が湧いてきたのでありました。これでいよいよ島移住&入籍に向けて始動!ということになったのですが、ここからがまあーーー長かった…。そこらへんのことは次回、改めて。今しばらくおつきあいいただけると幸いですm(_ _)m
★はぐれくみこ純情編★
5.ポニーテールはふり向かない、けど鵺の鳴く夜はふり向きます
8.早すぎても遅すぎても具合が悪いから、ヴィレッジピープル。
★四十路ブライダル編★
1.愛の試着室③激闘編~友よ、見せてもらおうか、モビルスーツの性能とやらを。
Text by じじょうくみこ
Illustrated by カピバラ舎
*「崖っぷちほどいい天気」は毎週土曜日更新です(5月は休まず更新します)
こりんご
ザ、ザビ男さん、
高齢の方に重要なことを伝えるときは、相手がこちらに注意を向けているときに真正面に座って、真っ直ぐ目を合わせて、少ない単語ではっきり伝えて下さい!(byケアマネ)
くみさんはワンピースまで買って用意したんだからねっ。
シマ島の場所はわかりませんが、以前担当した徳之島出身のご夫婦、認知症のご主人は完全なネイティブに戻ってしまい、奥様に通訳してもらいました。
まだまだここからも色々あるんですね…!
マーキョン
ザビパパがえびす講のお話されながら嬉しい、嬉しいと繰り返すご様子、読んでいるだけでも、ジーンと心が温まりました。
いいご両親様で良かったですね。ご高齢でこれから大変なこともあるかもしれませんが、くみこさんならおもしろおかしく乗り切ってしまいそう!
そして、きっとサビ様がひょうひょうと乗り切らせて下さる!
すてきなファミリーの予感がします。
ももひめ
くみこさん、本当に良かったですね(*^^*)
お父様のお言葉、ホントに嬉しかったと思います。
相手に受け入れてもらえたと感じたとき、ほんと幸せ感じます。
今後も両家ごあいさつなど、イベント多く大変だと思います。
くみこさんなら、上手にこなされるでしょうね。
なんたって神!!もついてますから♪
はしーば
うっかり電車の中で読んじゃったら、あらタイヘン、目から汗が・・
ザビパパの、「嬉しい」の溢れ具合が尋常じゃない感じがビシビシ伝わってきました。
ザビさんが産まれた時以来の感動だったんではないかしら?!
じじょうくみこ Post author
>>こりんごさま
こんにちはー!いつもコメント嬉しいです、ありがとうございますー( ´ ▽ ` )ノ
こりんごさんはケアマネさんなんですか?
認知症が進むとお国言葉に戻っちゃうって
人の意識って不思議ですねえー。
お父さんお母さんはじめ、これからは高齢者の方とのおつきあいが激増しますので
いろいろ気をつけねばと思っています。
わからないこと教えてくださいませ!
じじょうくみこ Post author
>>マーキョンさま
こんにちは♫毎回あたたかいコメントに心沁みておりますーありがとうございます(^_^)
いや本当にね、心底ホッといたしましたよ。
ザビ男は人間の機微みたいなものについて
気が回らない男だということはわかっていましたが
今回はかなり振り回されました…(^^;;
高齢者との生活には不安もありますが
なんとかうまくやっていけたらと思っております。
じじょうくみこ Post author
>>ももひめさま
こんにちはー!いつもコメントありがとうございます\(//∇//)\
「相手に受け入れてもらえた喜び」
まさに、まさにその通りですね!
お父さんに「嬉しい」と言われた私が心底嬉しかったです。
今まで感じたことのない幸福感でした。
介護のことなど、心配なこともいっぱいですが
自分なりに取り組んでいけたらと思っております。
じじょうくみこ Post author
>>はしーばさま
こんにちはー!いつもコメント嬉しいです、ありがとうございます\(//∇//)\
なるほど、ザビパパ半世紀ぶりの感動でしたか(笑)
まあお酒好きのザビパパにとっては
晩酌相手ができたのが一番嬉しそうですが
何はともあれ喜んでいただけてよかったです!